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きみと、まるはだかの恋  作者: 葉方萌生
第二章 星をかたるひと

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2-11

「それでは解説を始めますね! みなさん、よかったら座ってゆっくりしてくださいね〜。寝転がると、首が痛くなくて良いですよ」


 ツアーの前に、観客にはそれぞれビニールシートが配られている。みんな、思い思いの場所にビニールシートを広げて座る。私は昴のすぐ近くに、ひとりで腰を下ろした。さすがに寝転がる勇気はなくて、顔を上げて空を仰ぐ。

 昴が大きく息を吸って解説を始めた。


「今夜は新月が近く、天気も良くて空がクリアに見えますね。ぜひ、都会では味わえない星見里の星空を堪能していってください。まずはあそこ。ペガサスの四角い形、見えますか? 秋の四辺形と呼ばれています。あの星々、二千年以上前から人間が見上げて、物語を作ってきたんです。星見里の昔話じゃ、ペガサスは恋人たちを乗せて空を飛ぶ馬だと言われてますよ。って、実はこの話は私がつくったんですけどね」


 冗談混じりの昴の言葉に、観客たちがははっと笑い声をあげる。

 昴は、星空観測用のレーザーポインターで空の星に光を当てながら話している。私は、星の解説よりもまず、天まで届くレーザーポインターがあることに感激していた。まるで本当にプラネタリウムに来たかのようだ。でも頭上に広がるのは本物の夜空。見渡す限り星が散らばっていて、本当に東京からは見えない星の海を眺めているといった感じだった。


「こちらは南の空です。九月はまだ夏の星座が優位で、天の川が地平線近くに横たわっています。目を凝らせば、ぼんやりとした白い川のように見えるはず。これは、地球の銀河系内の何億もの星々が織りなす光の道です。山梨のクリアな空なら、暗い星まで浮かび上がります。天の川の先端に、赤く妖しく輝くのがさそり座。これです。分かりますか? 心臓部にある赤い一等星、アンタレスが目印です。さそり座全体は、尾を曲げたサソリの形をしています。古代の神話では、女神アルテミスの忠犬が化身したと言われてるようです。近くのいて座のクジラみたいな形も、ほら、ぼんやり見えますか? ここで一息。さそりの毒針が、秋の夜長を熱く語りかけてくるようですね〜」


 独特な語り口調でどんどん星を語ってくれる昴。自分の世界に入っているようだけれど、ちゃんとこまめに観客たちの反応を窺っている。昴ってこんなに星に詳しかったんだ……。知らなかった。確かに彼は星が好きだと知っていたけれど、こんなふうに解説ができるなんて。


 その後も、西の空、東の空、惑星についてといったように、ひとつひとつ星空について説明をしてくれた。その間私は、我を忘れて昴の解説に聞き入っていた。

 昴……格好良いじゃない。

 高校時代、彼に恋をしていたからそう見えるのではない。今の、二十八歳の彼がこの星見里という舞台できらきら輝いているからだ。中目黒のマンションの前で悶々と空を見上げていた私とは違う。昴はここで、自分の居場所を見つけたんだな。


 どうしてかアンニュイな気分に浸っていると、バトンタッチで星田さんが解説をしている間に昴が私を見下ろしていることに気づいた。


「どう? 楽しんでる?」


「う、うん。詳しくてすごいね」


「仕事だからさ、いろいろ調べただけだよ。俺だってまだまだ知らないことがたくさんある。一つ、新しい知識を入れるたびに、ここで自分の話を聞いてくれるお客さんの顔が思い浮かぶんだ。この星は、どんなふうに解説しようかなって考える。星に興味がないひとが聞いても、興味深いと感じてくれるようにさ。そしてまたいつか、何度でも星見里に訪れてほしいって思ってる」


「何度でも星見里に……」


 彼の熱意がありありと伝わってくる。

 昴はこの場所が好きなんだ。

 自分の暮らしている場所と、仕事に誇りを持っている。

 私は……どうだろうか。

 インフルエンサーとしての仕事には確かに真剣に向き合っているし、自分にしかできないと思って頑張っている。

 だけど……本当に、私にしかできない仕事をしているだろうか?

 私がやっている美容コスメの紹介だって、別の誰かがやっても同じなんじゃないか。

 私にしかできない仕事。私にしかできない生き方——それはいったいどこにあるんだろう。

 

 星田さんの若くフレッシュな解説も、観客たちに受けていた。

 解説者が違えば、受ける印象も違ってくる。二人がそれぞれの個性を活かしていて素敵だと思った。

 星田さんから昴へと再び解説をバトンタッチ。そろそろツアーの締めにかかるようだ。


「星見里の星空は、昔から村の宝です。ここでは電波はほとんど届かないけど、だからこそ、星とちゃんと向き合うことができます。スマホの通知とか、フォロワーからの『いいね』とか……ここでは関係ないんです。星は、ただそこにあって、誰でも見上げられます。私はいつも思うんです。星って、どんな人にも平等に輝いてるんだなあって。みなさんも、ふと立ち止まって夜空を見上げてみてください。星見里の夜空にはスマホの画面では見られない感動的な輝きが広がっていますよ。本日はお越しくださいまして、ありがとうございました!」


 現代っ子にもうまく刺さるような解説で締めくくられた。

 観客たちも、ワーッと手を叩きながら昴と星田さんの星空解説を労っていた。


「どうだった、波奈」


 解説を終えた彼は周りにいた観客たちからの質問に答えたあと、まっすぐに私のもとへと向かってきてくれた。


「すごく、楽しかった。昴の解説がすとんって頭に入ってくる。こんなふうにじっくり星空を見たの初めてだったかも」


 私が素直に褒め称えたからか、昴は照れくさそうに「そうか」と伏し目がちに答えた。


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