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きみと、まるはだかの恋  作者: 葉方萌生
第二章 星をかたるひと

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2-9

「昴って農家になったんじゃなかったの?」


「うん、農業もやってる。でもそれだけじゃなくて土日の夜は星空ツアーのツアーコンダクターをしてるんだ」


「兼業ってこと?」


「まあ、そういうことになるかな。土日だけだし、兼業してるって感じもなくて趣味でやってる程度だけど」


「いや、立派な副業じゃない。すごいね」


「ありがとう。いやでも褒められるためにやってるわけじゃないからさ。本当に好奇心で始めただけで」


「そっか。確かに昴、学生時代もよくプラネタリウムとか行ってたよね。私も一回付き合わされたことあったわ」


「ははっ、人聞きが悪いなあ。あれは、波奈のほうから一緒に行きたいって言ってきたんでしょ」


「え、そうだっけ……?」


「そうだよ。もう、忘れんなよ」


 彼にツッコまれて、記憶の波がザザンとさざなみを立てる。そうだ……確かにそうだった。昴の気持ちをなんとか射止めたい私は、昴が好きなプラネタリウムなら二人で行ってくれるかもしれないと思い、勇気を振り絞って部活の帰りに彼を誘ったのだ。結果、快くOKしてもらえて嬉しかったのを今思い出した。


「ま、肝心のプラネタリウムで波奈、途中からいびきかいて寝てたけどな?」


「は……? いやいや、さすがにいびきまではかいてないって!」


「でも寝たのは事実だろ?」


「う……それは……あの時はごめんなさい」


 謝りながら、昴はよくそんな細かいことまで覚えているなとドキリとする。確かにあの時、プラネタリウムのアナウンスがあんまりゆっくりで静かだったから、すーっと眠気に誘われて気づいたらプラネタリウムが終わっていたのだった。私だって忘れかけていたことなのに。ちょっと恥ずかしい記憶を掘り起こされてしてやられた気分だ。


「で、どう? 星空ツアーは。きっとあの時のプラネタリウムみたいに眠くはならないと思うよ」


「昴がそこまで言うなら……うん、参加する」


 もうこの時点で、頭の中には帰りのバスをどうするかとか、そんな問題は忘れかけていた。お店の奥で、三上さんがにやにやと意味深な笑みを浮かべている。彼女が考えていることは聞くまでもない。


「お二人さん。お熱いところごめんなさいねえ。もうちょっとで閉店時間なのよぉ」


「あ、すみません! そろそろ立ち去ります!」


「いえいえ〜飲み終わるまではゆっくりしていっていいわよぉ」


 もう、私たちに茶々を入れるためだけに声をかけてきたような感じで、私は思わず昴と顔を見合わせて、ぷっと吹き出してしまった。


 星空ツアーは十九時から開始らしい。

 十七時半ごろ『喫茶きこり』を出た私たちは、歩いてロープウェイ乗り場に向かった。星空ツアーはロープウェイで標高1,100メートル地点まで上った場所に広がる『星見高原』で行われるそうだ。乗り場は役場よりも東側。西側地点にいた私たちは、三十分以上歩き続けた。


「こんな村にロープウェイなんてあるんだ」


「こんな村とは失礼だな。歴とした村だぞ。近年観光地として人気が上がってきてるんだ」


「へえ、知らなかった。てかなんで昴は星見里に移住してきたの?」


「今の波奈とほとんど同じ理由。都会での生活に飽きたから」


「む、私は飽きたとは言ってないよ。ただちょっと疲れてしまっただけで……」


 東京での生活を思い出してげんなりする。せっかく星見里に来て自然の風景に触れて、心がやわらかく(ほど)けていくのを感じていたのに。普段の殺伐とした生活が、どこか遠い宇宙の話のように思えてくる。


「どうしたの。なんか面白いことでも思い出した?」


「え?」


「いや、なんか笑ってるから」

 

 そう言われてはっと気づく。自分の口から乾いた笑みがこぼれていることに。


「ここでの時間が、東京にいるよりずっとゆったり流れてるような気がして。同じ日本なのに、全然ちがう世界に来たみたいだなぁって思って……」


 感じたことを素直に口にする。

 それが昴には意外だったようで、彼は目を丸くしていた。


「なんか、らしくねえな。気持ちは分かるけども」


「なっ。らしくないってどういうことよ」


「だって、昔の波奈はずっと明るいやつだったから。そんなふうに感傷に浸ってるとこ見るの初めてだなと」


「……そう?」


「うん」


 確かに高校生の頃の私は努めて明るく振舞っていたように思う。だけど、いつも明るい自分でいられるかと聞かれたら、あの時だって答えはNOだった。ただ友達や先輩後輩たちの前で、明るい自分でいたかっただけ。叶わない恋に悶々としながら眠れない夜を過ごした日だって多かった。昴が知らないだけだ。


「まあでも、ここだけ時間がゆったり流れてるっていうのはすごく分かるよ。俺も、あくせく都会で働くよりこっちで過ごすほうが心地いいって思えるから」


「そっか」


 トワイライトの空を眺めながら、目を細めて大きく深呼吸をする昴を横目で見ると、昴は本当に星見里で生きているんだな、と改めて実感した。


「さ、もうすぐロープウェイに着くぞ。心の準備はいい?」


「う、うん」


 気がつけばロープウェイ乗り場に到着していた。チケット売り場には『星見高原へのロープウェイのりば』という大きな看板が掲げられている。


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