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「でさー。俺そんときには知らねーふりしたけど、ほんとは知ってたの。でも言えるわけねーよな。二人が両片思いだって知っちまったら、あいつのこと好きなこいつは無理だろ」


「アタシね、弟の部屋でエロ本見つけたの。ソレも結構エグいやつ。こんなの見てんのかーってショックだったけどさ。……ここからが本題なんだけど、アタシ弟とお風呂入ってたこともあるからさ。その、さ。弟のアレはポークビッツみたいのしか知らないの。けどさ、もうポークビッツじゃないってことだよね?」


「僕の父のギャランドゥは結構見物です」



 そんなどうでもいい話をお互い続ける真夏の夜。蒸し暑いはずなのに鍋の火は優しく体を温める。その違和感に、ここは現実でも夢の中でもない。違うどこかだと3人とも気づき始めていた。



 僕とサヤカさん、タケル君の3人が。



 “カオリ”はなぜかソレに箸をつけることはなく、喋ることはなかった。だから“カオリ”の声を聞いたことはない。




「俺、高校生んとき尖ってたんだよなー。なんであれをかっこいいと思ったのかね」


「アタシ、実は進級ヤバかったんだよね。順位で言うとラストワン?」


「僕の父のお腹も結構見応えあります」




 だけど、仄かに灯る火が“カオリ”の口元を映す。




「俺、ヨーグルトの蓋、実は舐めてる」


「アタシ、毎朝鏡みて、『今日の自分もサイコー』って言ってる」


「僕の父の頭、内緒だけど、ある部分が結構見物です」



 “カオリ”の口元は雄弁で、弧を描いたり、口角を結んだり。

 その動きに見覚えがあった。




「……俺、緑色の猫ぽいもの見たことある」

「……。アタシもある」

「僕もです」




 “カオリ”の唇が少し開く。何かを思い出したときのカオリ---義姉さんの口元。サヤカさんもタケル君も、ハッと息をのんだことを空気の揺れが僕に伝えた。



***


 翌日。

 僕はいつものように、義姉さんが寝ているベッドの脇でパイプ椅子に座っていた。



 二つの足音が病室の扉を隔てた先から聞こえてくる。扉の開く音の次に覗いたのは、予想通りタケルくんとサヤカさんだった。

 


「今日。お二人が来ることを、僕は知っていたような気がします」

「……だよな」

「……うん」



 義姉さんの死んだように眠る姿を見て、二人は。



 サヤカさんは静かに涙を流した。タケル君は握りこぶしを作ったまま。でもきっと爪の痕が掌に残るくらい、力がこもっているだろうことは容易に想像できた。



「これなんだけど」



 そう言って、タケル君があの日の義母さんのくれた写真を見せる。



「うん」と言って、サヤカさんが自分のスマホを見せる。


 僕もそれに続いた。


 三人のスマホに映る緑の猫ぽい形。




「あの闇鍋のところに行くのは、決まって花火を見てるときなんだ」

「それで、緑に光る猫が」

「鳴くんですよね」


「それで気付いたら闇鍋に参加してる」

「うん。アタシもそう」

「僕もです」



 各々自分のスマホで緑の猫ぽい何かを見る。



「これって」



 3人の声が重なる。



「チャンスなんだと思う」

「うん。カオリを取り戻せるチャンスだと思うの」

「それを、この緑の猫ぽいものがくれたのだと僕も思います」



 この非現実的なチャンスを活かしたいと。



 少しずつ“カオリ”との共通の話題の秘密を喋った。



 夏の終わり。明日は最後の花火。



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