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義姉さんが事故にあって数日。僕はこれまでの後悔の赦しを乞うように、義姉さんの病室に張り付いた。
今日の続きは明日だと、なんの根拠もなく当たり前に確信していた自分を殴ってやりたい。
どうして今日と同じ明日が来ると思っていたんだろう。
そう思い続けて、あの花火の夜から2年が経っていた。その間も僕は素直になれず、たまに、美味しかった、とか、今日は茶碗僕が洗うから、とか。そんなことをごくたまに言うことしかできなかった。
ぶっきらぼうな僕の言葉に義姉さんは、それは嬉しそうに微笑んでいた。僕にだって分かっていた。義姉さんがどれだけ家族を大事にしているのか。その家族に僕も含まれているってことも。
僕はそんな義姉さんの想いの上に胡座をかいていただけだった。義姉さんなら僕をいつまでも待って、受け止めてくれると信じていた。
その信用は間違いではないと思う。実際に時間があったなら、義姉さんはきっと、待っていてくれたはずだ。
それが分かるから、僕は後悔に押しつぶされそうになる。
眠り続ける義姉さんを見て、明日が来ない日があるのだと、胸が締め付けられる。
どれだけ後悔しても、泣いても、自分を痛みつけたって、何も変わらない。
眠り続ける義姉さんがそこにいるだけ。
ふと、あの夏の日を思い出した。義姉さんと一番長く喋ったのは、あの夏祭りの日だったと思う。
義母さんからもらった写真を開いた。そこには緑色に淡く光る猫ぽいものが映っていた。
「そうだった。この猫ぽいものはなんだ、ってみんなで話し合ったっけ」
僕の右腕にサヤカさん、左側では、僕から手を離した義姉さんがタケルに手を伸ばしている。
にゃー
(猫の声……?)
いつの間にか寝てしまったらしい。
……ぼこぼこと何かが煮える音が聞こえる。目の前には鍋。暗闇の中、手元が見えるくらいのガスコンロの灯り。猫の声がしたはずなのに、猫はいないようだった。正確にはいるかもしれないが、暗くて見えない。
「誰かいるの?」
くぐもった声が聞こえた。女の人だろうことだけは分かった。
「はい」
夢だろうに、ガスコンロの火が温かく感じる。
「ねぇ、こんなこと聞くのもおかしいけど、これって夢よね? いや、夢の中で他人に夢かどうか聞くって言うのも、シュールなんだけどさ」
笑い声は聞こえるが、その切れの悪さから空元気なのだと分かった。
「僕もこれは夢だと思っていますが、この火熱く感じませんか?」
その女性の掌が火に近付くのが見えた。
「本当だ! 熱い! え? でも夢? だよね?」
「……そう思いたいんですけどね」
パチンと音がしてドスンと何かが落ちる音がした。
「いてっ? くそっ。ここどこだよ!」
「あれ? また一人増えた?」
「あぁ? なんだよ? 誰だ? てか、ここどこだよ」
イライラしたように話す男性っぽい声も、くぐもって聞こえる。
「それより。僕には、お二人の声がくぐもって聞こえるのですが、そちらも同じでしょうか?」
「うん、なんかクリアに聞こえない。なんでかな」
「俺もだ。おめぇらボイスチェンジャーとか使って、俺をハメようってんじゃねぇだろうな」
「そんなことして僕たちになんの得があるっていうんですか」
「そうよ。ここがどこか分からないどころか、現実かどうかも分かってないのに。アンタのことなんかどうだっていいわ!」
「……うわぁー。めっちゃ直球じゃん。俺ちょっと傷ついたわ」
「あんたがうるさいから。こっちだって、あんたが来るちょっと前にここに来たばっかで、何の状況も掴めてないの」
「おい、あんたって言うなよ。タケル!」
喧嘩腰にタケルと女性は自己紹介しあう。
「そっちは?」
「あ、僕はフウマといいます」
「そう」
3人が自己紹介して、ここはどこだ。どうしてこんなところにきたのかと話あっていると、ふわりと風が吹いてガスコンロの火が揺れた。
僕の鍋をはさんだ正面に、誰かが来たことが分かった。
「また、誰かきたのか」
「誰? 女? 男? 名前は?」
その人は何も喋らなかった。だけど不思議と「カオリ」だと分かった。それはなぜか、あの緑の猫ぽいものの仕業のような気がしたけど、本当のところは分からない。とにかく僕たちはその人を「カオリ」と認識した。
そして、闇鍋パーティが始まった。誰も入れた覚えのないソレをとった者が秘密を話す。説明された覚えのない、そのルールを僕たちは守り続ける。




