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 みんなで花火をみた真夏のあの日を思い出す。


 サヤカさんは義姉さんと夏祭りに行くために、家に泊まりにきていた。


「こんな可愛い女の子二人だけで祭りに行くなんて、危険すぎる!」


 浴衣を着た二人を見た父さんがそう言って、僕は渋々一緒に行くことになった。


(義弟が付いてくるなんて、義姉さんもサヤカさんも嫌だろうに……。)



「ごめんね、フウマ。なんか付き合わせちゃって。大丈夫? フウマは予定とかなかった?」



 気遣う義姉さんに、僕はまたイラついた。

(いい子ぶりやがって)



「べつに」



 明らかにふて腐れた態度の僕を見た、サヤカさんが苦笑した。


「せっかくなんだし、楽しもー! ほら、カオリも! 両手に花☆」


 カラッとした笑顔のサヤカさんが僕の右腕。困ったような顔の義姉さんが、僕の左手に手をからめた。


 申し訳なさそうな義姉の目に、僕は自分の子供っぽさが嫌になる。

 僕らがギクシャクしていることに気付いただろうサヤカさんが、僕の頭をくしゃくしゃに混ぜた。


「な! なにするんですか?!」

「まぁまぁまぁ。アタシにも弟がいてね。これがかわいいんだー」

「だから何だというんですか!!」

「いやぁー。男の子は大変だねー」

「だから何がですか!」



 はははっと笑うサヤカさんは、僕の質問にはまるで答えない。一方的に自分の話だけを、展開していく。



「小さいときは、アタシの後ろばかり付いてきてウザいくらいだったのに、小学校高学年くらいからかなー。急に大人になったような顔して離れていって。でもさ……」



 なぜか自分と自分の弟の話を始めるサヤカさんに、意味が分からず湿った視線をむける。



「どうしたらいいか分からないだけなんだよね、きっと。……自分よりできのいい姉って劣等感持っちゃうよね。でもそれは単純に年齢が少し上だったり、それまでの経験だったり、悉くいろんなことに向き合う姿勢だったり。そういう色んなことが、積み重なっての結果なだけでね」



 なぜか馴れ馴れしく僕の頭をなで続けるサヤカさんの手を振り払おうとしたそのとき、サヤカさんが僕の耳元で静かに言った。


「カオリのこと嫌いなの?」



(義姉さんのこと嫌い? 僕が?)



 僕は頭を横に振った。


「そう」


 サヤカさんが目線で義姉さんを見るように合図する。その視線を辿るように義姉さんを見ると、僕の頭をかき混ぜるサヤカさんを、羨ましそうに見つめていた。



「カオリは仲良くしたそうだけど……?」



 義姉さんの表情でそれは僕も感じたが、だからと言って、すぐに打ち解けられるはずもない。



 その夏祭りは、サヤカさんの計らいで、いつもよりは友好的に話せたと思う。


 これからもたくさん時間はある。明日は自分からおはようと言ってみよう。ご飯が美味しかった、いつもありがとうと言ってみよう。


 明日は今日の続きで。それは永遠に連続的に続くものだから。



 義姉さんは袋に入った綿菓子を、サヤカさんはリンゴ飴を食べながら、僕たちは帰り道を行く。

祭りの会場から離れるにつれ、人混みは消えていく。


 家のほど近い交差点で、義姉さんが一瞬、息をのんだのが分かった。義姉さんの視線の先には見知らぬ男の背中。信号は青。進めば彼に追いつくのは可能だろう。



 彼の後を追いかけるように家への道を辿る。家に近付いたとき義姉さんが思い切ったように口を開いた。



「タケル!」


 タケルと呼ばれた男が、驚いたように振り返る。



「カオリ……」



 僕の左側の腕に風を感じた。義姉さんの手は僕から離れタケルという男の背中を追っている。



「……元気?」



 義姉さんのか細い声に応えようとタケルが口を開けた、そのとき。



ドン!

ドンドンドン!!



 空に花火が上がった。言葉を失い、真夏の夜空を眺める。



 終わったことにも気付かず、ただの闇を眺めていた。



「いいの撮れたわ」


 優しげな声に振り返ると義母がスマホを構えて立っていた。


「ほら、みんなにあげる。いい写真よ」



 義母からサヤカさん、タケル、僕、義姉さんに写真はシェアされた。



「あれ?」


 嬉しそうにLINEを開いたサヤカさんが首を傾げる。


「この緑のなんだろ?」


 その言葉に僕も義姉さんもタケルもLINEを開く。



 闇夜に広がる花火。手前に僕たち4人の後ろ姿。その横に歩いている緑色の何か。



「猫ぽいですね」

「でも緑の猫なんている?」

「しらねー」



 その緑色の猫ぽいものは、花火の色と溶け合って、スマホのカメラが誤写したのだろうと。


 そういうことに、なった。



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