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第九話 願いの一射


『いつまで(ほう)けておるのじゃ。気を引き締めよ若僧!』


 娑伽羅(しゃがら)(かつ)に空気が揺れた。浪牙(ろうが)は我に返る。


「……申し訳ない。」


 浪牙は深い拝礼で気まずい顔を隠した。


『全く…一族揃って世話の焼ける…。』


 娑伽羅は呆れて呟いた。


『ごほんッ……よく聞け。ここはこの世とあの世の間にある『(うろ)』じゃろう。この世ではない為に我を喚び出せたのじゃろうが……我のこの姿が、本来より遥かに小さいのはここが術中(じゅっちゅう)であるが故じゃ。』


「本来は今より巨大だと!?」


 浪牙が顔を上げて驚く。


「今でも充分大きいですが、確かに夢で会った時より…小さいです。」


 華江(はなえ)は娑伽羅を見上げて納得した様に頷く。


『外に出れば本来の姿に戻るじゃろう。しかし我々のような者が本体の姿で長くこの世に顕現(けんげん)するというのは、図らずも予期せぬ影響を世界に与える事がある。』


「予期せぬ影響……。」


 不穏な言葉に浪牙は険しい顔をした。


『よって此度(こたび)は例外的に三分だけの顕現とする。三分ならば言い訳も立とう……。それで地の眷属(けんぞく)と片を付けよ。』


「3分…ですか…。」


華江は不安そうに呟く。


(たった3分であの猪の化け物を倒せるとは……とても思えないです。)


「『三分』とは?」


 浪牙には聞き慣れない言葉だ。娑伽羅が説明をする。


『だいたい百と八十を数える間じゃ。』


「!?その様な束の間であの怪物を倒せると言うのか!」


『とある星の英雄(ヒーロー)は三分だけ現れ、(そら)から来た大怪獣を倒して民を守り、また巨大な自身の姿を隠すと言う。……まあ…あれじゃ…なんとかなるじゃろ。』


((適当過ぎる!!))


 娑伽羅の緩さに華江と浪牙は困惑しながら顔を見合わせた。

 不安気に(うつむ)いた華江に、浪牙はキュッと胸を締め付けられる心地がした。


(ああ、その顔が曇るのを……見たくはない。)


 浪牙は華江の前に歩み寄る。

 身長差がある為、華江を覗き込む様に背を丸めてやや(かが)む。華江の瞳を隠す前髪を払い、そのまま頬に手を添えて真っ直ぐ見つめた。


「…大丈夫だ。何があっても必ず護り抜くと約束しよう。」


(それこそ…命に変えても護ると。)


 何とか華江を元気付けようと必死の浪牙を見て、娑伽羅がまたニヤニヤと笑う。


『うむ。若僧の癖になかなか良い眼をするではないか。』


 華江は浪牙に気を遣わせたと思い、薄く笑って払拭(ふっしょく)し切れない不安を隠した。


「…ありがとうございます。頑張ります。」

(……私は結局いつも守られてばかりですね…。)


 華江の脳裏には姉ふたりの後ろ姿が浮かぶ。


 浪牙は華江が無理に笑ったのだと悟ると、言い様のない無力感にやるせなくなる。


(……()いた女ひとり、励ますこともままならん。)


 浪牙は奥歯を噛みしめた。



『腹が決まれば後は勢いじゃ。華江よ、その手にもつ三鈷杵(さんこしょ)に力を込めてみよ。』


「さんこしょ…?」


『その手に持つ道具じゃ。御仏の法具(ヴァジュラ)の一種じゃが、我が力の媒体にしておる。発動させてみよ。』


 華江は戸惑う。


「発動…って一体どうすれば…。」


『お主は……どうなりたい。』


 娑伽羅が優しい声音(こわね)で問う。

 華江は手に乗せた三鈷杵に視線を落とす。


「私は……。」


(私は……いつもいいなって眺めてた。)


 華江が眼を閉じると、姉達の背中が前にある。華江が手を伸ばすとふたりは振り返り、笑顔で手を差しのべる。頼もしい姉達の姿が目蓋(まぶた)の裏に浮かんで消えた。


(……私もなりたいです。優しくて賢い雪菜(ゆきな)姉さんの様に…!勇敢で格好いい月世(つくよ)姉さんの様に!!)


 華江は眼を開けた。

 その瞳は力強く、先ほどまでの弱気な揺らぎは消えていた。


「私は!……姉さんたちの様に強くなりたいです!!」


 華江が手に持つ三鈷杵が(まばゆ)い光を放つ。

 光を反射して爛々(らんらん)と輝く華江の瞳に、浪牙の心がゾクリと(うず)いた。

 娑伽羅が声なく笑った。 


 眩い光は徐々に弱まり、華江の手にあった三鈷杵は光に包まれて形を変える。

 光が消え、華江の手には宝弓(ほうきゅう)か握られていた。


「!!?これは…弓!?」


 華江が小柄な為、和弓の用な形状の宝弓は、かなり大きい。華江はどの様に持つのかさえ分からず、取り敢えず両手で宝弓の(にぎり)部分を持つ。

 宝弓の握には三鈷杵の握と同様の装飾があしらわれている。


「弓なんて私…使ったことないです!」


 華江は慌てて娑伽羅と浪牙を交互に見た。


「弓術ならば俺が心得ている。」


 自信があるのだろう浪牙が余裕の面持(おもも)ちで言うが、フンと娑伽羅が鼻で笑った。


『お前ではこれは扱えん。なんせ矢が出せんじゃろう。』


 娑伽羅の言葉に、浪牙はきょろきょろと矢を探す。


「…矢はどこだ。」


 不思議そうに浪牙が尋ねる。


『その宝弓の矢は宝箭(ほうせん)と言う。宝弓の所持者の法力で造られるのじゃ。若僧に宝箭は出せん。』


 娑伽羅の言葉に華江が動揺する。


「わわ私…法力なんてありません!」


 娑伽羅はクククと得意気に笑う。


『安心せい。ちゃんとある。』


「え?」


 華江はきょとんとした顔で首を(かし)げた。


『姉達も見事|法具(ヴァジュラ)を使いこなした。お主に出来ん筈がない。そうじゃろう。』


 華江は両手で持つ弓を見つめる。


『弓の引き方に不安があれば、若僧に習うとよいじゃろう。なあ若僧よ。』


 またも役立たずかと下を向いていた浪牙は、急に話を振られガバッっと顔を上げる。


「あ、ああ!俺が教えよう!任せてくれ。」


 浪牙は嬉しそうに両手で拳を作り、やる気を見せる。


『ガァハハハハ。若僧じゃが腕は確かなはずじゃ。ふたりでならば足場が多少揺れようが、地の眷属を射止めれるじゃろう。』


 娑伽羅は浪牙の一喜一憂(いっきいちゆう)が可笑しいのか笑っている。しかし娑伽羅は浪牙の腕前を信じてか、将又はたまた華江の法力を信じてか、まるで上手くいく確信があるかのような力強さで太鼓判を押したのだ。


『しかし練習などする時間はない。お主の魂の(いた)み具合を思えば、一刻も早くここを出るべきじゃ。時間が惜しい。集中して宝弓を構えよ。』


 娑伽羅の言葉で華江は慌てて宝弓を見た。


「どうやって構えれば…?」


『案ずるな。先ずは落ち着いて、何事も「(いち)から順に」じゃ。』


 娑伽羅がゆっくりと優しく話すと、華江はひとつ深く息を吸い込み吐き出した。


「はい。……浪牙さんよろしくお願いします。」


「ああ、弓の構え方を教えよう。」


(…流石の度胸と精神力だ。確かに弓術に向いているようだ。)


 浪牙が内心で感心する。


「左足を前に、そちらを向いてくれ。」


 浪牙は華江の後ろから指示を出す形をとる。


「弓は左手でこう持つ。」


「はい。」


「真っ直ぐに前を見ろ。…安定した正しい姿勢の為、足は開いて立つ。これを『足踏み』という。」


「はい。」


 華江は落ち着いて言われた動作に入る。


「宝弓を左膝へ、右手は右の腰へ。そうだ。そのまま顎を引いて背筋を伸ばせ。重心は腰の中心に置くよう意識しろ。」


「はい。」


 呑み込みが早いのか、なかなか様になっている。


『お主の造り出す宝箭には、願いが込められる。』


 娑伽羅が華江に語りかけた。


「願い…ですか。」


『そうじゃ。お主はどんな(ちから)を望む。』


「どんな力……。」


(私は……。)


「…護りたいです。護る側になりたいんです。」


 浪牙は華江の後頭部に眼を落とす。


(怪物を『倒したい』…ではなく。誰かを『護りたい』と願うのか。)


「何故だ…何故護りたいと願う。あの街の者たちは、そなたには他人だろう。ましてや、我が身可愛さにそなたに犠牲を強いた。」


 浪牙の口をついて出た問に、浪牙自身がハッとした。


「何故…ですか。…ん~…。多分…『私の姉達ならそうするだろうから』です。……私は自分を犠牲にしなくちゃ生贄を止めることが出来ませんでした。でも姉さん達ならもっと上手く出来たと思います。」


 浪牙は数刻前の自分を思い出し眉間に皺を寄せる。苦渋の決断とはいえ、民を切り捨てたあの無力さと惨めさを思い返す。


(俺も力を望んでいる。だが俺は……。)


「私は姉さん達と胸を張って並べるように、これからも一緒に居れる様に、護る力が欲しいです。」


 蒼い光の粒が、華江が宝弓を握る右手へと集まる。光は矢の方になり、華江の右手に(たずさ)えられた。


「!!矢が出ました!浪牙さ…ん?」


 華江は嬉しくて浪牙を振り返る。

 しかし浪牙の様子が何やら違った。


「あれ?…浪牙さん、どうしました?」


 華江はぱちくりと瞬きをしながら浪牙を見上げて問う。

 華江を見下ろす浪牙の顔はドキリとするほど切なく歪んでいた。


「そなたは誠に素晴らしい。……どうか、どうか……俺と共に歩んではくれまいか。」


「えっ!?…えっとぉ???」


 華江は眼を見開き頭いっぱいに『?』を浮かべる。


(どどどどういうこと?いい今?一体なにが???)


「俺と……結納を結んでくれ。」


 浪牙は真っ直ぐに華江を見つめて伝えた。


(ゆゆゆ結納ってぇ!!?確か…結婚!ですか!?)



 その時、華江の手に持つ宝弓と宝箭が蒼く輝き、華江の耳に遠く鐘の音が響いた。


『ーーーー♪︎』


「!!……今の音!」


 華江は顔を上げてきょろきょろする。


(今あの音が……。)


 姉妹をこの世界へと導いたあの音。はっきりと確かに聞こえた。

 しかし浪牙はきょろきょろする華江に不思議そうな顔をした。



 娑伽羅が眼を細めてニヤリっと笑った。


『話は後じゃ!さあ行くぞ!!』


「えっ!?」


 何故か上機嫌な娑伽羅に(さえぎ)られ、華江の思考は無理やり絶たれた。


『衝撃に備えよ。』


「ええっ!!??」


 既に衝撃を受けて絶賛大混乱中の華江を他所に、娑伽羅は振り返り、自身の背後の壁と向かい合うと、口を大きく開いた。


 娑伽羅の口の前に、回転しながら水が集まる。みるみるうちに回転する巨大な水の球が出現した。


 娑伽羅が()えると空気が揺れた。水の球からは大砲を遥かに(しの)ぐ威力の強力な水が一線放たれた。

 超高圧の水は岩の壁を容易(たやす)く砕く。


 空間が揺れるほどの大きな衝撃と音から華江を庇う様に、浪牙は左腕を前に出し(ほう)の袖で華江を覆って肩を抱く。華江はしがみつく様に宝弓を抱えて強く眼を閉じ、浪牙の腕の中に収まる。


 壁の中にあったのだろう空間を維持する為の『何か』が壊れたのか、空間を包む岩に(ひび)が入り砕けた。辺りを(まばゆ)い光が包み、視界は白一色となる。


 浪牙は薄目を開け、状況を把握しようと眼を()らした。

 次第に浪牙は周囲の白が、まるで自身が霧の中を移動しているかのように、後ろへ流れて動いている事に気付いた。

 きょろきょろと辺りを薄く開けた眼だけで見回す。次の瞬間、白い視界は途切れ、暗闇に大きなやや楕円の月が現れた。


「!!?」


 浪牙は薄眼を見開く。

 

(……これは夢か!?)


 首を巡らせ辺りを見渡すと、前後左右に雲海が広がっている。


「俺達は……飛んでいるのか!?」


「え?あわっ飛んで…!!?」


 浪牙の声で華江は顔を上げ、辺りを見渡して驚く。


『案するな。そこは我の上じゃ。』


「「!!」」


 響く声にふたりは慌てて足元を見る。すると蒼い鱗の上に立っていた。

 再び辺りをよく見渡せば、後方の雲海の所々から、月を反射して輝く美しい鱗と(なび)(たてがみ)が見てとれる。不思議と空気抵抗は然程(さほど)無い。


『では向かうとするか。いざ、怪物退治へ。』


 娑伽羅が高度を下げて雲に潜る。


「返事は後でいい。今は集中しろ。」


 耳元で浪牙の声が聞こえた。


「はわ…わわわ……」


(集中出来るかーーーーーーーー!!!!!)


 華江は心の中で叫んだ。




 雲の下へと出ると上空を旋回して黒森を見下ろす。

 黒森の中央には山のような黒い塊が、燃えるような赤い眼でこちらを睨み付けている。


グオォォオォォ!!!!!!!


 怪物の咆哮(ほうこう)が森を揺らす。


『ヤツは今の今まで、あの空間を維持する為に(リソース)を割いておったのじゃろう。手足を捥がれた上、術も破られ……何とも憐れよ。』


 娑伽羅は言葉とは裏腹に一切の情など無いが如く、()てつくような声音(こわね)でいい放ち、怪物を見下ろした。






 怪物が突然()えた為、足元にいた雅之(まさゆき)は耳を塞ぎながら慌てて怪物から離れようと走る。

 しかし雅之の体力は、とうに限界を越えている。ふらつき真っ直ぐに走れない。足が(もつ)れて(つい)には前のめりに倒れる。


「おっと危ない。大丈夫か。」と倒れ込む既所(すんでのところ)で雅之は腕を掴まれ引っ張り上げられた。

 そのまま腕を担がれ、横を見ると幸泰(ゆきやす)がニカっと笑っている。


「幸泰副将(ふくしょう)!!」


「なかなか頑張ったじゃないの。おら、もうちょいだ!おじさんに掴まれ。」


「ありがとうございます!」


 雅之は仲間と合流出来た事に、胸を撫で下ろした。


「どうやら皇子様はなかなかの無茶をしたらしい。」


 空を見上げて勝利(しょうり)が笑う。


「勝利大将!と有利(ゆうり)大将!」


 上司ふたりの安否も分かり、安堵するも束の間。ふたりの大将の見上げる先を、雅之も見上げて絶句した。

 雲から巨大な蒼い龍が降りてきて、上空を旋回しつつ、こちらを覗いているのだ。


「あれが伝説の龍王様かぁ!凄まじいなこりゃ…。」


 いつも調子のいい有利が珍しく苦笑いを浮かべる。


「退路は私が切り開く。急げ!撤退だ!!」


 有利の号令と共に、四人は街へ向って駆け出した。







『さあ、矢をつがえよ。』


 娑伽羅が更に高度を低くし島の外の海上を大きく周る。


「大丈夫だ、(まと)は大きい。落ち着いて、よく狙え。」


(落ち着けるかぁ!!)


 耳元で聞こる浪牙の声に集中力が削がれ、手が震える。


「落ち着いたら右手を弦にかけろ。」


(だから!落ち着けないんですが!?さっきの何ですか!!?)


 華江はどんどん吹っ切れてきた。感情が一周回ってだんだんと腹が立ってくる。

 怒りに変わったせいか手の震えが消えた。


 華江は言われるがままに右手を弦に持っていく。


(まと)をよく見ろ。整ったら(まと)を見据えたまま両手を頭上へと持ち上げろ。」


 華江は姿勢を崩さず両手を頭上へと上げた。


「そのままゆっくり引分けて、止まれ。」


 華江はゆっくり弦を引いて止まった。

 すると宝箭が蒼い光を(まと)った。


「そうだ。そのまま、左肘はしっかり伸ばせ。右肘はもう少し上げろ。……もう少し肩の力を抜け。」


(最初はそれが難しい。……これでは外す…。……いや寧ろ一度…。)


「良いと思った瞬間に放て。」


「……はい。」


 華江は緊張からか固い声で返事をする。


(よく狙って……良いと思った瞬間……!今です!)


 華江が宝箭を放った。

 光を纏った矢は彗星の様に夜空を駆けた。空が明るくなり、撤退する勝利たち四人も空を照らす光の矢に眼を奪われ立ち止まる。

 しかし宝箭は怪物の横を通り過ぎ、後方の海へと飛んだ。


「外した!!!?」


 華江が叫ぶ。


(やはりか……。)


 浪牙は至って冷静に逸れた宝箭を見送る。

 宝箭は怪物の後方で、海面すれすれを飛ぶと、その威力で海面を割った。


(凄まじい威力だが……。)


「そんな!私…外しちゃっいました!外しちゃ駄目なのに!!!」


 華江は酷く取り乱た。いつもの大人びた敬語が崩れ、肩が震えている。


「どうしよう私!」


「外して駄目なことはない。」


 取り乱す華江を、浪牙が両腕で包み込んだ。


「言っているだろう。『大丈夫だ』と。」


「私…私……。」


 焦る華江に浪牙は優しく語りかけ続ける。


「大丈夫だ。もう一度、弓を構えろ。何度でも矢を放て。……当たるまで、何度でもだ!」


 包み込んだ腕の中で、華江が顔を上げる。


 「当たるまで…?」


「ああ、当たるまで付き合おう。何度でも。」


 華江は浪牙の顔を見上げて眼を合わせると大きく頷いた。

 浪牙の腕を抜けると、もう一度、自ら怪物を見据えて立つ。


「もう一度です!」


 華江の右手に光か集まり、宝箭が現れたる。


『もう少し近づこう。揺れるぞ。しっかり掴まれ!』


 娑伽羅が怪物に近づく為、島の内側に入る。すると怪物の周りに巨大な砂の鞭が五本生えた。

 砂の鞭はしなりながら、娑伽羅へ目掛けて振り下ろされるが、娑伽羅はするすると躱して怪物に接近する。


 華江は揺れる娑伽羅の頭上で弓を構える。先程より激しく揺れる為、浪牙は華江を支えた。


ガァァア!!!!!


 怪物の正面に降り立つと、娑伽羅は咆哮ひとつで五本の鞭を砂へと戻した。空気が揺れて怪物が怯む。


(今です!)


 怪物が土煙に包まれる前に、華江は怪物の隙を見逃さず宝箭を放った。


ゴオォォオォォ!!!


 そのまま土煙が立ち込めて視界を塞ぐ中で、怪物の呻き声が響いた。

 しかし土煙の中にある赤い眼は、未だこちらを強く睨んで光りは衰えない。

 土煙が晴れると、見事に怪物の肩にぽっかりと大穴が空いていた。


「当たった!当たりました!」


「……まだだ。残心を忘れるな。」


 当たった嬉しさで怪物から目を離す華江だが、浪牙の言葉に再び怪物に眼を向けた。


「まだ動くんですか!?」


 怪物はこちらを睨み、再び砂の鞭を造り出した。今度は近距離で十本の鞭が蠢いている。


『ひとつ覚えとは芸の無い…三下(さんした)が。』


 娑伽羅は(わずら)わしそうに吐き捨てた。


『……しかし今のわしの力で此奴(こやつ)を消すとなると、島ごと消し飛ぶじゃろう。』


「それでは俺の部下が巻き込まれる。華江殿……悪いがもう一度射てるか。」


 浪牙が華江に問う。


「はい。射ちます!何度でも!!」


『よし!では鬱陶(うっとう)しい砂を避ける為、今一度、上空へと昇るぞ!!しっかり掴まれ!』


「「 !!!」」


 咄嗟に浪牙は娑伽羅の角に腕を回し、華江を抱き寄せた。


ガァァア!!!!!


 娑伽羅の咆哮で再び巨大な鞭は、さらさらと砂へと戻った。

 酷い土煙が怪物を包む。


 娑伽羅は土煙から飛び出し、空を垂直に昇った。浪人は華江を抱えたまま角にしがみつく。

 やはり空気抵抗は本来より少なく、急な上昇による気圧の変化も感じない。


 娑伽羅は上空で頭を水平にし、怪物の居る土煙を目玉だけを動かしてギロリと見下ろした。

 浪牙と華江は娑伽羅の頭上で立ち上がる。


『さあ、よく狙え。』


 華江は眼を閉じて願う。


(悪いものから護る力を……私に下さい!!)


 華江の手に光が集まり宝箭が現れた。


 華江は瞳を開き、土煙を見据えて弓を構える。

 今の華江には緊張も不安も怒りも焦りもない。正しく平常心で弓を構える。

 上から身を乗り出して下の怪物を狙うため、浪牙は後ろから華江の腹に腕を回し抱き支えた。


 凄まじい集中力で弓矢をもつ両手を持ち上げ、打越(うちおこ)しからゆっくりと引分ける。

 すると先程の二射とは異なり、宝箭の纏う光が龍の姿に変わり、光の龍が矢に巻きついた。


 華江は薄くなる土煙の中、キラリと光るそれ目掛けて、躊躇いなくを矢を放つ。


「護法夜叉・除災の一射『破魔宝箭(はまほうせん)』。」


 矢の威力で土煙は消し飛び、一瞬で視界が晴れる。

 黒森から撤退途中だった部下たち四人は、矢の威力による風圧に押され転がりながらも、飛ばされまいと地面や木の根にしがみついた付いた。


 風圧が止んだ。


 空を覆っていた分厚い雲に、ぽっかりと穴が空き、月光が暗い森を照らした。


 月光に照らされた怪物は、眼を射貫かれて頭蓋に大穴が空いていた。

 爛々と輝く炎のような赤い眼はもう何処にも無かった。

 怪物の身体は次第に朽ちて灰のように風に舞う。


ふははははは!!


 満足そうに娑伽羅の高笑いが響き、ぽっかり穴の空いた上空の雲は散り散りに消えた。


『うむ。……時間じゃな。では、またの。』


「「え?」」


 娑伽羅の姿は足元から忽然(こつぜん)と消えた。

 浪牙と華江は突如として空中に放り出される。


「えっちょっと待っ!?」


(落ちてますぅ!!!?)


 パニックになりバタバタと腕を振る華江を浪牙は咄嗟に空中で抱きしめ庇うように抱え込んだ。

 華江も浪牙にしがみつき、きつく眼を閉じる。


 浪牙の視界に地面が近づく。

(くっ……。)



水天(すいてん)風波(かざなみ)!」


「「!?」」


 猛スピードで近づく地面との間に、勢いよく水が滑り込み、 ふたりの身体が持ち上がる。


「……なんとか……間に合いました。」


 衝突の衝撃を殺した水流はいつの間にか消え、浪牙は華江を抱えたまま地面に着地して転がる。

 無事に着地したふたりを見て、幸泰に担がれた状態で剣を握る雅之はホッと胸を撫で下ろした。


「あっはっは。慌てて引き返して正解だったみてぇだな。」


 有利は浪牙の無事を確認し豪華に笑う。


「今のは何だ!?」


 華江を抱えたままの状態で、地面から上体を起こして浪牙は問う。


「話せば長くなりますが……。」


 雅之はちょっと困ったように笑った。


「……どうやらそれは、そちらもの様ですね。浪牙様。」


 勝利は、華江を大事そうに抱えたまま離そうとしない浪牙と、浪牙の腕を抜けたいと暴れる華江を見て言った。


「ああ、幾つか報告がある。が、まず一番大事な報告だ。俺は結納することとなった!」



「「「「は?」」」」


 綺麗なまでに、四人の声がハモった。


「え?」

(え?)


 疲れ果てた華江の脳は遂に処理落ちした。浪牙に抱えられたまま固まる華江。全くもって理解が追い付かない。


(あれ?決定されてます?何故です???いつ???)






これ本当に三分で三射も射れてる?と思ったそこのあなた。安心してください。書いてる本人もずっと同じ疑問でした!!!!三分?短いわ!!!!

ウルト○マンは偉大だ!!!



宝弓と宝箭は対で、色んな仏様がお持ちですよね。

厄払いや破魔・開運や良縁などなど、あらゆる意味があるそうです。

しかし弓術の動作は描写が難しいですね。


結納については、まだ『結婚』という明確な形の無い時代、男性が女性の家に贈り物をし、これを儀式としたのが起源だとか。

今回は色々な考えもあり、結婚ではなく敢えて結納という言葉を選びました。


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