第二話 河童じゃん
視界を遮る強い光はいつの間にか消え、月世は強く閉じた瞼をそっと開いた。
ん?ここは?……どこ?……あっれ?お寺は?
さっきまでお寺に居たよね???夢?
見上げると木々の隙間から、空に高く昇った太陽が見える。
朝になってるよね!?いやもうこれ昼くない?
周りは森だ。見渡す限り森である。月世がいくら辺りを見渡そうが前後左右に道は無く、木々に囲まれている。姉 雪菜の見舞いの為に慌てて病院に駆けつけた月世は、紫のフード付きパーカーに黒のスカートと、森をさ迷うには随分ラフな格好である。
立ったまま寝てた!?…な訳ないかぁ。寝相はいい自信あるし!
キリっとドヤ顔をして拳を握る月世。そんな場合ではない。
「……まずここがどこか分からないと…。こんな森あったっけ?城跡の方?それとも隣町との間辺りかな?」
ふらふらと歩き出した月世に考えなど全く無く。
「めちゃくちゃ広い森なんてこの街には無いし、数分歩けば道に出るよね~♪」
出ないのだ。
____約30分後。
「出ないの! ?」
出ないのだ。
「そーだスマホ!」
………画面真っ暗なんだけど!!!
____約1時間後。
「まーだ道に出なーい……」
出ないのだ。
____約3時間後。
「全然道に出なぁぁぁぁぁい!!」
出ないのだ。
頭を抱えて叫ぶ月世の声が静かな森にこだまする。喉は渇き、睡眠もまともにとれていない月世は既にへとへとだ。
水ぅ~水が欲しい~……
そんな折、月世の視界が開けた。そこには湖が広がっていた。
「うひゃー!みっずだぁ~♪」
月世は湖に勢いよく駆け寄り、急停止した。
「あれ……うわぁ何これ~……泥?……うへ~なんかボコボコしてない?」
湖は茶色く濁りボコボコとガスを出す。月世は手で鼻を塞ぎ顔をしかめた。
「うわぁ~ダメだ…臭いきっつい……はぁ~戻ろう…」
月世のテンションが急降下する。湖から離れる為、先ほど抜けた茂みを掻き分けようとした。その時、視界の端に緑色の何かを捉えた。
「あれ何か……」
立ち止まって凝視し……固まった。
……………………???
「…………河童…じゃん」
その視界には集団でしゃがみこみ頭を抱える緑色の生き物が移り込んだ。
「えっ………河童じゃん!!!ね!?」
想像より丸いフォルムなのは甲羅のせいかな?
その緑色の生き物は一斉に声の主を見た。皆一様に困り顔である。
「えっ……あ……その………どしたん話聞こか?…なんちゃっ…てぇ……へへ」
やっばぁ普通にどうしよう…何これ……に…逃げるか!?
「あのぅ…わしらの話……聞いて頂けるんでしょうかぁ……」
緑色の生き物の中から一際年老いた者が前に出た。小さな体に白く長い眉毛と顎髭。仙人の様な杖をつき、背負った甲羅も年期が入ってか無数の傷が見える。
「あ...うっ…うん!聞く聞く!!……あの…多分私じゃ聞くだけしか出来ないと思うんだけどね…聞く!聞くよ~長老さん!」
「おお!なんと!!このわしが長老だとよくお分かりになりましたなぁ!」
いや…どうみても長老……
「これは!今朝の伝令の御使い様なのでは!?」
ざわつく緑色の生き物基河童たち。
伝令の…御使い様?……何それ?
「さぁさぁとりあえずこちらへ」
よく分かんないけどついてって見るかぁ~♪
「はーい♪」と返事を返したその時、背後の茂みがガサガサと動いた。
「えっ?」
反射的に振り返る月世。そこには無数の影があった。人の形……とはやや異なるだろう無数の影。『頭が大きい』というよりは首から下が痩せ細り手足が骨の様なので頭が大きく見えるのだろう。背中が曲がり鎖骨も肋骨もくっきり浮き出た異様な黒い影たちが、こちらをギロリと睨んでいるのだ。
「いかん!!さぁ早くこちらへ!!!」
長老が叫ぶと同時に月世は走っていた。直感が逃げろと叫ぶのだ。河童集団に着いて走る。
ッ………!河童足はっや!!!長老めっちゃ走るじゃん!?杖なに?!
しかしそんな河童集団の中から、子どもがひとり躓いたのか月世の前に転がり出た。
「あわ!!?」と月世は咄嗟に避けた。子どもが月世の後ろへと転がる。
「爽太ぁ!!」
女性の悲鳴に近い叫びが響いた。
!!!
…ッ………あの子は!あの子どもは!
「……君はソウタくんていうんだぁ。」
月世は立ち止まっていた。ぐっと拳を握りしめて振り返る。そして転がる子どもの方へと駆けた。
座り込み泣く爽太の前にしゃがみ、手を差し伸べた。
「立てる?爽太くん」
「……うん…!」
爽太は月世の手を掴んだ。
「よし!偉いね♪」
座り込んだ爽太を月世が引っ張り上げる。
「このままママのところまで全速力だ!」
「!!…うん!」
爽太が駆けていくのを見送って、ゆっくり振り返った。無数の影と対面する。体が震えた。
「……だってしょうがないじゃん。名前…知っちゃったんだ……。お母さんが叫んでたんだ…。子どもが……泣いてたんだよ?……………あーあホント私……どうしようもないな。」
影が一斉に月世に飛びかかった。ギリギリまで惹き付け右に避ける。そのまま河童集団とは違う方向へ走り出した。必死に足を動かし、茂みを掻き分け、道なき道を突き進む。もう体力はとっくに限界を越えている。
「これで逃げる時間くらい作れたんじゃない?」
……もう……いいんじゃないかな。………………………なんてね!
疲れ果てた思考が生きる邪魔をするのだ。
「ダメ!!」叫んでそれを振り払う。
その時不意に茂みを抜けた。そこは。
「……さっきの湖!?」
前方に泥の湖。後方に迫る影。
「ッ……………」
逃げ場は左右にしかしない。月世は湖に沿って右へ走った。
左に湖を見て走る。もう一度どこかのタイミングで茂みに入るかを悩む。
すると突如、右真横の茂みから黒い影が飛び出た。真横から襲われ咄嗟に左へ飛んだ。
「あ」
どぷんっ!!!!!
月世は水面を背後にし、豪快に湖に落ちた。
ぼごぼごぼごっ
あー沈む沈む沈む。
体が重たい。これ水圧?泥圧?
あの子は……爽太くんは……無事にママの元に帰れたかな?
はぁ…私…家族でひとりだけ泳げないんだよな……
溺れかけたのだ。それまでは泳げていたのにその一件以来、急に泳げなくなった。別に水が怖い訳じゃない。唯、体が「浮かない」のだ。泳ごうとしてもゆっくり沈んでいく。
あれは学校行事の「着衣水泳」だった。警察や消防も協力して行われるそれは、着衣のまま海に落ちた時の危険性と対処法を学ぶ為、年に一度浜辺で行われる。一通りの講義と実践が行われて、残り時間は自由行動。みんなびしょ濡れの服を脱ぎ、服の下に着ていた水着になり遊ぶ。
浅瀬で海面に浮きながら海底を観察する月世は、小さな魚や綺麗な貝殻やシーグラスを見つける。しかし泳ぎの邪魔になるので拾わない。
ん?あれは……紫の勾玉?
気になった。勾玉がとても気になった。気になったが海ではあまり拾い物をしたくない。人工物なら尚更だ。プール・温泉・海など水周辺で何か拾っても持ち帰ってはいけないのだと、よく母は言っていた。月世は勾玉を無視した。
……一旦浜にあがろ♪
油断だったのだ。海から上がる際、足を置いた砂の段差が崩れた。ずるッと滑り海に引きずられる。慌てて踠く。口を開き叫ぼうとするが、口に海水が流れ込み叫べない。
ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!沈むぅ!!…あ……カニだ……。
その時、ガシッと腕を掴んで引っ張り上げられた。月世は両足でしっかりと砂を踏みしめ立っていた。水位は小学校の月世の胸下くらいで、助けてくれたガタイのいい一個上の先輩にしたらヘソの高さだ。
浅い!!
変な沈黙が流れた。助けてくれた先輩は無言で去って行った。
はっずかしぃ~!!逆になんか言ってくれ~!
後日、別で暮らす海女さんの祖母にこの話をしたのだが、祖母は月世を抱きしめ「気に入られてもそちらへいっては駄目よ……」と言った。浅瀬だったのだと笑い話になると思っていた月世は、予想外の祖母の言動に「?」を浮かべたのだった。
……あれ…あの時助けてくれた……誰だっけな…
……………………。
『目を開けよ』
泥で絶対目ぇ痛いから開けない。
『開けよ』
嫌だって。
『開けぬか!大丈夫じゃ!痛くない!痛くないぞ!』
えー嘘だ~………って誰!?
月世は思わず目を開いた。そして驚く。周囲は泥どころか青くどこまでも澄んだ美しい水だった。
「あ!え!?………ぼこっぼッ…息!!!」
『出来る出来る。苦しゅうないわ。』
月世は水の中で上下左右が分からないままに、声の主を探してぐるぐる回る。
『こっちじゃわ!こっち!』
声の方へ向いた。そこには、大きな蒼い龍がいた。あんぐり口を開けた月世を見て愉快そうに笑う蒼い龍。
『良い反応をする。実にいい。』
「あ…ゆ…夢で……!!?」
『そうだ。主たちは、我らが声に耳を傾け、意思を汲み、それらを伝える者たちだ。我らが古き友よ。』
「あ...あの…私……泥沼に落ちて……」
『この湖は泥沼ではないぞ。あの瘴気はお主がが今浄化したろう。』
「浄化?なに言って……」
『おっと時間が無いわい。この我は、水に映る絵に過ぎぬ故な。』
蒼い龍は静かに月世を見つめ話を続けた。
『しかしまぁ!既にかなりの力が解放されておるではないか!……それならば…少し力添えが必要だろう。』
楽しそうに龍が笑う。左手の中で何かが光った。
『知らせたので直に|迎えが来るだろう。』
「迎え?さっきの河童?」
『河童ではないわ。あの河童どもはこの湖の民じゃろうな。』
…そうなんだ。
『詳しい話は迎えの者に聞くがよい。ではな。』
そう言って蒼い龍は消えた。
月世が左手を見ると|独鈷杵が握られていた。
……何これ…尖った…武器?分かんないけど泳ぐにはちょっと……邪魔かも。
落とさないようにスカートのベルトに差した。
こぽこぽこぽ
泡と水の音が聞こえる方を見た。猛スピードで河童集団が飛んでくる。文字通り水の中をすっ飛んで来るのだ。
わぁペンギンみたい。
「ごぼごぼご………ごば…!!!!?」
あれ?息できてないじゃん!?えっ…ちょっ……!!
「ぼばばばばば!!!!!」
さっきまで息出来てたよね!?えッ……苦しッ!
溺れかけたその時、河童集団の先頭を泳ぐひとりの河童が月世の腕を掴んだ。そのまますごい速さで湖の中を駆け抜ける。
ざっばあーーーーーん!!!!
「減圧症ぉおぉぉぉぉ!!!」
水飛沫と共に宙を舞いながら月世は叫んだ。水に深く潜り、急浮上すると起こるアレである。こう見えて海辺出身の月世には、水難事故の知識がしっかりとあるのだ。腕を掴んだ河童の手は小さく、するんと滑って腕から離れた。水面から天高く飛び地面へと吸い寄せられる。
「おっおお落ちるぅーーーっ!!」
「おっし任せろー!」
地面に叩きつけられる寸でのところで、地面と月世のお尻との間に何かが滑り込んだ。
「!!!?」
「ナイスキャッチですわ嶺岩」
茂みから天女の様な格好をした、可愛らしい少女がぴょっこり出てきた。
「ふぅー間に合ったなーよかったよかったぁー」
子どもの声がし横を向くと、少年が月世を抱えて尻餅をついていた。
「あわわわ大丈夫!?怪我は!?」
慌てて飛び退く月世。
「大丈夫大丈夫!これくらい余裕だって♪︎」
あわあわする月世を他所に立ち上がり尻についた土を払った。
子どもだよね!?……男の子と女の子のふたり?
その時、茂みがガサガサと揺れた。月世には覚えのある音だ。
またあの影が来る!
「き…君たち危ないから下がってて!!」
咄嗟に先ほど龍に貰った独鈷杵をベルトから抜いた。
いったいこれ、どうやって使うの!
分からない。分からないが、とりあえず茂みに向かって独鈷杵を構える。
影が茂みから続々現れる。その数は先ほどの比ではない。
……ッ!怖い…逃げたい……だけど……。
月世はチラッと横目で少年少女たちを見た。
………私がやらなきゃ!誰がこの子たちを守る!!
強く独鈷杵を握りしめた。すると手に納まる長さだった独鈷杵はみるみる伸びて槍へと変形した。
「!!!武器に..….なった!?」
「御使い様!これは独鈷戟ですわ。槍のように扱う武器ですわ。」
天女の様な格好をした少女の説明を受けるも、槍など勿論触ったこともないのだ。
「槍!?槍なんて…どうすれば!?」
「来るぞ!」
蒼い服の少年が言った次の瞬間、黒い影が一斉に襲いかかる。蒼い服の少年が手を翳すと何もない空中から棍棒が出現し、少年はそれを掴んだ。
「如意宝棒!鉄砕破!!」
少年の一突きは波動を生み、一撃で影が5~6体の影を掻き消した。
……す…凄い!!…どう…どうするの!?
月世の目の前にも影が迫る。そして一斉に…襲いかかる!!
「……ッえい!!」
月世は力いっぱい槍を振るった。槍からは巨大な斬撃が放たれた!!木々が薙ぎ倒され1本の道が出来る。木々と共に切断された無数の影が掻き消えた。
えーーーーーーー。
唖然として両手で槍を握り縮こまる月世。
「やるじゃねぇか!!」
「さすが御使い様ですわ♪」
何これ!こっわ!!
「私も負けてられませんわ!金剛鈴!」
天女の様な格好の少女は手に持ったベルの様な形のそれを鳴らした。
「甲の縛」
すると木や草から根が伸び影に絡み付いた。影たちの動きが止まった。根はみるみる伸びて影をきつく締め上げた。
「さぁ…お逝きなさいな。」
再度少女がベルを鳴らすと影は跡形もなく消滅した。
「……ッ……はぁ~…勝った……んだよね……!?」
月世はその場にへたり込む。
「あの黒い影はいったいなにぃ!?」
「あれらは邪見。人の道に背くもの。心に巣くう邪悪そのものですわ。」
月世の疑問に天女の様な格好の少女が答えた。
「御使い様。今お召し物を乾かしますわ。『丙の結』。」
天女の様な格好の少女がハンドベルの様な鐘のひとつ鳴らす。すると薄い透明な半円の膜が月世を覆う。膜の中はポカポカと暖かい。月世を包んだ薄い膜はどんどん狭まり、こぶし大の玉になる。膜から出た月世の服は、すっかり乾いていた。
「!?……乾いてる!」
月世が薄い膜の玉を見た。よく見ると玉の中には、水らしきものが見える。次の瞬間、玉の中の水は沸騰しみるみる蒸発する。玉は段々と小さくなり消えて。
何これ……!?魔法???
月世は驚きすぎて空いた口が塞がらない。
「御使い様ぁ~ご無事ですかなぁ!!!」
長老の声が聞こえ辺りを見回す。湖の畔を河童集団が走ってくるのが見えた。
「おねぇちゃーーーん!!」
先頭を走る爽太くんが大きく手を振る。
「爽太くん!」
爽太は走った勢いのまま抱きついた。
ぐはっ!
爽太は頭は月世の腹にクリーンヒットした。
「おねぇちゃん手ぇ離してごめん!」
「あ~大丈夫だよ~溺れてたから助けてくれたんだよね?ありがとう!」
月世は爽太の頭を優しく撫でた。爽太
は月世のお腹にぐりぐり頬擦りした。
「うちの子を!うちの子を邪見から助けて下さり、ありがとうございました!!」
河童集団の方を見ると、爽太の両親らしき河童が深々と礼をしていた。
「いえいえ。自己満でやったことなんで~。」
えへへっと照れ笑いをする月世。
「あの時爽太がひとり後ろから走って追い付き、龍王の御使い様も邪見も一向に来ず……大切な御使い様に、もしものことがあればと………!」
爽太の両親は悲痛な顔で言った。
「うちの子が!本当に申し訳ありませんでした!!」
爽太の両親は再度深く頭を下げた。
「……もう大丈夫ですってぇ。顔を上げて!皆無事だったんだからそれでいいんだよ♪それに子どもの命より大切なものなんて私には分かんないよ。」
「御使い様ぁ~」
爽太の両親は涙を流し月世を拝んだ。
「ところでその~…『御使い様』って……何?」
月世は頬を掻きながらバツが悪そうに聞く。
「私が説明致しますわ!」
先ほど出会ったばかりの天女の様な少女が月世の前に拝礼の形をとり膝をつく。それに合わせて先ほど月世をキャッチした少年 嶺岩と河童集団も月世に膝をつき拝礼する。
わっ何?何?
「私は大海龍王 娑伽羅様が御力が一端。龍王様の使者であらせられる貴女様に仕え、支える為に遣わされました。名を春姫と申します。」
「オレは嶺岩と言う。……本当なら神殿に呼ぶはずだったんだがちょっとしたトラブルで……三人ともバラバラに飛ばされたんだ。」
それを聞いて月世はハッとする。
「三人!?……そうだ!雪ね……雪菜姉さんと華恵も!?…ふたりもいるのね!?」
嶺岩はマズったという顔をした。一瞬苦い顔をした春姫は直ぐに表情を取り繕い正直に答えた。
「残念ながら……お二人はまだ…発見されておりませんの……力が及ばす…申し訳のしようもありませんわ。」
しょんぼり項垂れる春姫がなんだか可哀想で、月世は空気を返るべく励ます。
「あーほら!まだ見つかって無いなら私も探すから!ね!大丈夫大丈夫!直ぐ見つかるって!」
「御使い様ぁ」
大きな目に涙を溜めた春姫は涙を袖で拭い、ぱぁーっと明るい笑顔を見せた。
「お心遣い痛み入ります御使い様!優しい方にお仕え出来て春姫は幸せものにございます!」
うわぁ~美少女だ...眩しい!
「そ…そう?それは良かった♪︎……私は月世。月世って呼んで欲しいな。よろしくね春姫ちゃん!」
「月世様~✨」
この場にいる皆が月世を拝む。中々の居心地の悪さに月世の顔がひきつる。
「そ…それにしても…本当に私がその『龍王の御使い』なの!?」
「間違いありますまい!あの瘴気に汚染された『伽羅湖』をこうも綺麗に浄化してみせたのじゃ。間違いなくこの国の危機を救うべく、龍王様が遣わせた御使い様に違いないわい。」
長老が立ち上がり語りだす。
「今この竜宮玉燐国では過去に類を見ない異変が次々起きておるのですじゃ。各地で突如として瘴気が溢れ、水が穢れ、海が荒れ、邪視や魑魅魍魎が徘徊しておる。この湖もその1つですじゃ。」
河童たちが太陽に美しく輝く湖をうっとりと眺める。
「我らはこの湖『伽羅湖』で生まれ、長くこの伽羅湖と共に生きてきたのじゃ。……じゃが数日前、突如として伽羅湖の底から瘴気が溢れた。とてもじゃないがあれは住めたものではない……。御使い様……わしらは、貴女様が来なければ、ただ干からびるのを待つだけだったんじゃよ。」
皆一様に月世を見つめた。
「邪見から逃げておった時、爽太が追い付いて貴女様を助けてくれと言うたのじゃ。国からの伝令が本当ならば、貴女様方はわしらの『希望』そのものじゃった。もう直終わる命より、皆『希望』を選びあの道を引き返したのじゃ。そこで瘴気に満ちたあの伽羅湖に落ちる貴女様を見た。もう駄目じゃと…希望すら費えたのじゃと……皆肩を震わせたわい……。水面が輝きだすまではのぉ。」
月世の落ちた場所から輝き出し、あっという間に湖全体を光が包んだという。立ち込める臭いも、瘴気も消えさり、水は美しく澄み渡った。
「これを奇跡と呼ばずしてなんとしますじゃ。御使い様。どうか!どうか!!この国をお救いくだされ!!!」
うひゃ~……浄化ったってよく分かんないな…正直沈んでただけだし……。
「ま…まぁ……その…私に出来ることなら…なんとか…頑張ります。はははっ。」
我ながら頼りない返事だな~と月世は苦笑いする。しかしそんな答えにも河童たちは湧いた。
「おー御使い様!」
「我らの希望だー!」
「素晴らしい!!」
「ありがとう御使い様!」
御使い様コールが続く中、口を開いたのは春姫だった。
「さて!事は一刻を争います。」
凛とした声で、御使い様コールが止む。
「早速ですが、月世様は神殿『龍の宮』で待機を」「探すよ」と春姫の言葉を遮り月世が言葉を紡ぐ。
「探すよ…だって……大切な私の家族なんだから!」
「月世様………分かりましたわ。一度他の捜索隊と合流いたしますわ。状況の報告も兼ねて、その旨を私から浪牙様に進言致しますわ。」
「ろうが...様?」
「この国の現国王が嫡男。つまり皇子様であらせられますわ。」
「皇子様!?」
「少々お待ちくださいませ。」
春姫は一人端へ行き、茂みに向かって金剛鈴を一振する。すると空中に何かが浮かび出た。しかしそれが何かは春姫は背中で隠れて見えない。
暫し後、春姫が戻ってくる。
「それでは只今より、浪牙様率いる近衛捜索隊の拠点参ります。」
こうして河童たちに別れを告げて月世・春姫・嶺岩の三人は伽羅湖を後にする。|
かぼちゃの煮物食べたい。