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第九話 それぞれの道

漸くそれぞれの人が動きます

 他エリアではまだ暗雲の掛かった場所もあるとの事だったが、増援は要らないとの話だ。


 ならばまずしなければならないのは人員の再配備だ。数百人が保護されたシェルターもあれば10人程度のシェルターもある。3・4エリアのシェルター人員を集める。高校生の彼らには悪いが、非常時には全員を一緒に居させてあげることは出来ない。全員が戦士としての才能を持つのならば余計に全シェルターへ散る事になるだろう。


 当然だが、その事を伝えると猛反発が起きた。


「嫌!奈緒ちゃんと離れたくない!」


「私も京子ちゃんと離れるのヤダ!」


「ええと、ゆうじんグループとか、こいびとどうしとかは、いっしょになれるように、はいりょします」


「でも…皆と離れるなんて…」


 500名近くても20のシェルターに分けるとなると、25人になる。


 クラスメイト全てという訳にはいかない。それに、今回のような災害が起こらない限りは何処に住んでもいい。全員が直ぐ近くに住んでも許される。


 そう説明すると、ホッとしたように学生達は頷く。災害時のみ離れてしまう、という事であれば、と。戦士予備軍だと言うのであれば、住民達も家作りに協力してくれるだろう。問題はそれ以外の人々だ。流石に多すぎるのだ。


「シェラドさん、人のりょういきには、すまわせられませんか?」


「何故だ?」


「人のやくに立つ、ちしきをもってるからです。この国では活きません」


 獣人の国は狩猟がメインで肉を中心に喰らう。こちらに暮らす人間も、パンなどを手に入れようとするとかなり苦労する事になる。


 大きな共通パン焼き釜を提案し、小麦や果実などを人間の国から仕入れて彼らの為に分けて貰える様交渉した。天然酵母の作り方などは、学園の家庭科教師などが知っているのではないだろうか。


 本当は戦士に、と請われている者達も最終的には人間の国で暮らした方が幸せなのだろうが、獣人の戦士もかなり消耗している。それは口には出せなかった。


 獣人達も、戦力になるものが増えるのならば、手間を割いてやってもいい、という態度があからさまだ。他の住民に対してそういった措置を取ってくれるとは思えない。


 完全に定着した各施設から、葡萄の苗や実、稲などの農作物、そういったものを取って来て貰う。人間の国に行った際にその人の為になると思ったからだ。


 ウニクロの衣服などはこちらの住民と半々だ。これを売って当面の生活費を賄わないと人々は暮らしていけない。文房具や役に立ちそうな書籍なども運び出す。


 後は、野菜や肉、米やパン、菓子、惣菜などの食べ物だ。ただ、今回助けた人員が食べると1~2食でなくなってしまうだろう。腐ってしまう前に惣菜は食べてしまわないといけない。わたしもライトをつける役で参加した。


「シェラドさん、わたしも肉だけでは育てない。くだものやこくもつ、やさいなんかがひつようなの」


「そうなのか?人間とは面倒な生き物なのだな。肉とモウの乳だけではダメなのか」


 モウの乳。少し野性味があるが、ほぼ牛乳だ。薄められていないので大分と濃い。


「モウのちちもほしい」


「そうか。沢山飲むと身体が強くなる。飲めるだけ飲め」


「ありがとう」


 そう言いつつも、私はデパ地下のお惣菜を並べている一画で木皿を手に取る。しかしテーブルまで手が届かない。ギリギリ届きはしそうだが、そうすると引っくり返してしまいそうだ。見かねたシェラドさんが抱っこしてくれる。


 お陰で欲しい物を木皿に盛る事が出来た。これから先、肉が増える事を考えて、野菜や海草が多目だ。シェラドさんは目を丸くする。


「そういう草を食べないとダメなんだな?」


「草だけど草じゃないの。やさいって言うの」


「解った、俺も探して来よう」


 …自生しているようなものなのだろうか。ちょっと私は不安を覚える。自然薯やムカゴ、山芋や野いちご、ブラックカラント、桑の実、栗くらいなら自生している気はする。獣人の国は山が深い。きのこは危ないので手出ししたくない。


 もぐもぐとシェラドさんとごはんを食べていると、近くに学園の生徒が座る。


「小さいのに君凄いのね。今日は助けてくれてありがとう!」


「光が飛んで行って敵を一撃!格好良かったよ!」


 素直な賞賛がくすぐったい。ちょっと顔を赤くし、2人を見上げる。


「ありがとう。おねえさんたちもすごかったよ!」


 2人は次いでシェラドさんを憧れの混ざった目で見上げる。


「凄い身体能力でした。並みの速さではなかったです」


「私達も訓練次第で速く動けますか?」


「いや…人と獣人では身体能力に差がある。しかし、技を磨くのは人間の方が得意だ。一長一短、どちらが凄いとは言えないな」


 いつの間にか集まってきていた生徒達が納得したように頷いている。


「あの異形達を牽制しながら逃げていた時間。きちんとした得物があり、弱点が解っていれば君たちは倒せた筈だ。焦る事無く鍛錬に参加して欲しい」


 生徒たちは嬉しそうに顔を見合わせていた。


 ただ、今日の今日で家が出来上がるはずはない。学園に戻って体育館に藁を一面に敷いて貰い、布を掛けて使用するようお願いした。


 その他の人々の寝場所には、現地の人が家に戻ってシェルターを空け、そこにどうにか人々に納まってもらったのだが、かなりきつい状態だ。


 しかし、移動するにはもう遅い時間だし、人間の国に行っても当分は寝場所に困るだろう。こちらにも藁を敷き、布を掛けて使用して貰う事になる。戦士の護衛も外れる。内部で性犯罪が行われないよう、男女で分かれている。それだと家族が離れてしまう事もあったが、それよりも、安全を取った。


 翌朝、獣人の長も連れ、他のエリアからも人が集められ、人の国へ行く事になった。


 それぞれのエリアの巨大(ホール)から集めた『売れそうなもの』を荷車に詰み、自分達が必要と思うものも別の荷車に載せてある。


「おじちゃんたち、おばちゃんたち、元気でがんばってー!」


 手を振ると、旅立つ人々も疎らに手を振り返してくれた


 異形は出ないが、野生動物の肉食獣などは出るとの事で、道中戦士も何人か同行している。私は彼らに、なるべく土地を譲ってもらって自分達で村を興して特産品としてあちらでの技術で作ったものを売るのがいいのではないかと言って置いたが、案を使うも使わないも彼等の選択次第だ。


 下働きなどをしているとその才が埋もれたままになるのが忍びなかっただけなのだ。私は共に行く訳ではない。いい噂が流れて来るよう祈るだけだ。


 あちらからは逆に獣人が送られてくるようだ。そして、黒髪の人間はものづくりに長けているという噂がある為、ある程度あちらでの日本人の待遇は担保されているようだ。多分私はシェラドさんと暮らす事になるのだろう。そのような事をシェラドさんが言っていたからだ。


「…みんな、しあわせになるといいんだけど」


「大丈夫だろう。こちらも受け入れ作業をしなければな。先ずは戦士達の家から建てなければ」


 校長からの要請で、学生寮のようなものを作って欲しいとの事だ。だが、獣人の国の者は建築技術が拙い。土木をしていた人員は人の国に旅立った。


 物理の講師が昔土木を少しやっていた事があったとの事で、その知識と手元の材料を見て、セメントとコンクリートはなんとか作成出来そうだとのこと。日本と違い湿気が少ないからなんとかなるだろうと言っていたそうだ。既存の学園をある程度改築し、棟を増やして対応したいとの事。


 力仕事を獣人の方に手伝って貰いながら、建築は進んでいるようだ。


 自衛隊の方々はそれぞれの基地へ戻ると寮もあるそうで、そちらで寝起きする事になったようだ。


「ベッドがワラなのがちょっとしんぱい。今の人はなれてない。わたかうもうがあればいいんだけど」


「うもう?羽毛か?それなら用意出来るぞ鳥は良く狩るんだ」


「ほんとう?じゃあがくせいのみんなにつたえてあげて!」


 敷布団には向かないかも知れないが、多分藁の上に乗せるだけでも大分と違う筈だ。スポンジのようなものがあればもっと良かったが、誰もそんなものを使っているところを見た事がない。ベッド自体は自衛隊から貰ったサンプルを見ながら、獣人の人が木から削り出したりしてくれている。


 布はある事から、敷布団や布団を包む布の強度を伝えて織ってもらう。


 そこに羽毛の柔らかい部分だけを入れて掛け布団を作って貰った。


 それ以外にも、私達には狩りをして食料を手に入れる仕事がある。サーベルタイガーに似た獣と、鳥を数羽、それと大きなトカゲだ。どれも血抜きを済ませてからシェラドさんの集落に戻る。私の光刃は首だけを切ることも可能なので、血抜きに困る事はなかった。


 肉を持ち帰ると、集落の人が必要な分だけ切り取って行く。交換で渡されるのは織物やモウの乳、なんだかつぶつぶした赤い実などだった。


 この実はじつは実ではなく虫の一種だ。非常に栄養価が高く日持ちがする為、携帯食として優れているのだ。普通の日本人なら多分食べないのだろうけど、私はこの虫を前世に何度か食べている。特に拒否感はない。


 もう日も暮れて辺りは薄暗い。シェラドさんの家に帰った私は、抱っこされながら藁の布団で眠った。


皆がそれぞれ、不幸にならず生活基盤を築く事が出来ればいいですね。

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