第三十五話 呪術使いと黒幕
まともな人もそこそこ居るようですね。
分身体に学園へ行かせ、私達は髪の色を変えてフードを目深に被り、偵察に出かける。
私にもシェラドさんにも、隠蔽した光の膜を張る。
人ごみに紛れ、例の場所まで辿り着く。
魔力の気配が濃い。
『シェラドさん、塀の向こう、手ごわそうな魔力使いが居る』
『解った。場所は?』
『シェラドさんの位置から3m程真っすぐ進んだ所』
『瞬殺する』
ひそひそ話で打ち合わせすると、一気に塀を飛び越える。
と、同時にキィン!パリン!とバリアでシェラドさんの剣を防いだが砕かれた音が聞こえた。
杖に尋常じゃない量の魔力が貯められている。
まさか。
「シェラドさん、杖に触れられないで!操られる!」
老爺はすぐに再度バリアを展開する。
ぐぐっと体を撓めたシェラドさんは、飛ぶように老爺に襲い掛かる。
1の太刀でバリアを割り、返す2の太刀で老爺の首を飛ばそうとして杖が伸ばされた事に気づき、飛びのく。
魔法杖を振り回す老爺の攻撃を避け、杖を持つ手首に一撃。
痛みで杖を取り落とす老爺の首を刎ねた。
その間5人ほどの護衛の魔法使いが居り、こちらに火魔法などを飛ばしてくるのを足に魔法を掛けて全て避ける。
そして心臓に一突き。こちらの5人は呆気なく沈んだ。
「あと、1人…居るのか?中に…」
「居たとしたら、呪術使いは死んだのだから主の名を口に出来る筈だ」
「シェラドさんナイス」
いつも通り、魔法陣から地下へ入る。
外に老爺を含む護衛を置いていた所為か、一人の如何にも偉そうな幹部が魔法陣の書き換えを行っていた。
アキレス腱を切り、その集中を解き、体勢を崩す。背に乗り上げて手首の腱も切る。
「…ぐっ…此処の関係者を殺して回ったのは君達か?」
「答える必要性を感じない」
「…表に居た呪術使いは殺したか?」
「…殺した」
すると、幹部はふうーっと長い溜息を吐いた。
「聞け。今は口外出来ぬ呪いも解除されている。王の背後を探れ。王はそもそもこのような事を企むような方ではないのだ。だが、深夜に何者かと逢瀬を繰り返す度におかしくなっていった。多分王はその何者かに指示された事に操られている。そして私以外にはもう魔法陣の構成を知っている者はいない。メモは王宮の魔法塔の最上階、私の部屋の黒色のチェストの2段目に入れてある。部屋の鍵は私の懐を探ってくれ。入っている筈だ。…私では王を救えなかった。そなた達にこの国を救って欲しい…。最悪、私の頭の中の情報を盗み見る能力を持つ者が現れないとも限らない。私の事はもう殺してくれて構わない。――書面は必ず処理してくれ」
「――ありがとう。本当は貴方のような人は殺したくないけど、こればかりは見逃せないの。ごめんね。せめて楽に死んで。国の事は私達がやれるだけやってみるよ」
「感謝する」
その言葉と共に、シェラドさんの剣が鋭く一閃する。遅れてずれ落ちた幹部の顔は穏やかだった。
魔法陣をまた野菜召喚に書き換える。
「…頭の中の陣構成図さえなければ力になって欲しい人だったね…」
「うむ。しかし――王の背後、か。どう探る」
「深夜に逢瀬していると言っていた。深夜に王宮の寝所に踏み込むくらいしかないだろうね。でも無関係の兵なんかは殺したくないな…。無理だろうけど」
「一先ずここですぐ騒ぎが起きるだろう。その前に魔術塔の最上階まで行くぞ」
「ん。塔って言うからには多分あれだろうね。ちょっと考えがあるから見つからないようこっそり行くよ」
王宮関係の建築物が並ぶ中、一つだけ『塔』としか形容の出来ない高くて細い円柱形の建物があるのだ。
人目を引きつけないようこっそりと監視の網を張りながら移動する。人が来ると茂みに隠れる。そんな事を繰り返しながら塔の裏側へ辿り着いた。
「シェラドさん、私にしがみついてくれる?」
身長差の所為で屈みながらなんとか私を抱きすくめる形でしがみつかれる。
「すっぽ抜けないよう、しっかり掴まって。いくよ!」
足に集中させていた魔力を爆発させるように推進力に変える。
頂上を少し超えた所で落ち始める。
二人で建築物にしがみ付き、頂上の部屋の窓から侵入した。
黒色のチェストの2段目を探って魔法陣の構築図を見つける。
「シェラドさん。この紙だけ燃やして。部屋は、此処の主への感謝も込めて残しておこう」
「うむ」
シェラドさんは紙を灰にした。
他に裏で動いている者が複写した、という事がない限りは、巨大孔の設計を知っている可能性があるのは――王と、王の背後の者。
特に王を唆した背後の者が怪しい。
また構築図を作られてはたまらない。
「片付いた…とは言えないね」
「そうだな」
家に戻ると、今日の学園は分身に任せて私はぼふっと布団に横になる。
これは分身の得た知識を統合時に回収出来るからこそやれる事だ。
そうでなければ、成績が垂直落下してしまう。
幹部はこれで全員倒し、魔力持ちもかなりの数を叩き潰した。
あの施設には当分用がない。
王宮の奥深く、王の寝所に深夜忍び込む方法を考える。
夜警の兵が居るだろうが搔い潜りたい。
シェラドさんと二人、黒装束で忍べばある程度戦闘は避けられるだろう。
シェラドさんは夜目が利く。
暗闇の中を先導して貰いながら進むのが一番効率がいいだろう。
問題は場所がさっぱり解らない事だ。
豪華な間を目指せば謁見室になってしまう。
その奥にあるのだろうか?
そこから豪華な通路を選んで進めば王の執務室や寝室などに繋がっていたりするだろうか。
うんうん唸っていると、分身体が学園から戻ってくる。分身を解いて1人に戻る。
学園から戻ったと言う事はご飯の用意の時間だ。
ほぼ毎日だがソーセージは焼く。
毎度焼くだけでは芸がないかと思ってぐるぐると丸く形成したソーセージに卵液を流し入れ、薄いパイ生地で包んで焼く。
リムザの肉は分厚く切ってステーキにする。
野菜はカボチャスープに沢山入れて、鳥ミンチの肉団子を入れる。
デザートは桃のゼリーだ。
帰ってきたシェラドさんが、今日も美味しそうにごはんを食べる。
ソーセージのパイもステーキソースを掛けたステーキもカボチャスープも全部美味しそうに平らげてくれる。
私は自分の分をうまうま食べる。
デザートがぷるっと揺れるのを不思議そうに見ていたシェラドさんは、一口口に含んでふりふりと尻尾を振った。
可愛い。
喜んで貰えたようだが、パイの方が好みのようだ。
次はパイにしてあげよう。
後片付けをして体を水で拭いてシェラドさんの懐に潜り込む。
早朝まではおやすみなさい。
早朝、起き出して農園に向かう。
今日からは深夜に行動するので、魔力を注いでも問題ない。
そう言うと、皆から有難がられた。
やっぱりかなりキツかったらしい。
「あ、あと、もち米だった!!餅パーティーした!!美味しかった!」
わっと歓声が上がり、次はもっともち米ゾーンを広げよう、という意見と、小豆も広げたいという意見が出る。
作物を採取しながら気づく。
今日は献上日だ。
少し王宮の様子を魔力で探れないだろうか。
「あっ、柿、もうすぐ実が成りそうだよ!次は採り込めそうだね!」
「そういやソラマメご飯美味しかったねー」
「次は赤飯を目指す!」
小豆の耕作面積を増やしながら女生徒が宣言する。
「魔力持ちがどんだけ残ってるか解らないけど、柿が出来ても王宮には持って行かない方向で」
「そうだね、桃より魔力が高そう」
献上用の籠を3籠、それ以外を皆が担ぐ。
私は籠に入れるだけで持ち上げられない。
「家まで運ぶね」
男子生徒がいつも通り言い出してくれて家まで運んでくれる。
そしてそのまま王宮へ献上に上がる。
名パスで通され、いつも通り籠を出して献上していると、空間がひび割れる気配がした。
孔が開き、今にも王を襲おうとしている。
光刃を飛ばして異形を倒し、王宮内の異形を倒すべく、扉を開く。
不謹慎だがラッキーだ。
このまま王の寝所まで探り当ててやる。
あちこちにうろつく異形を倒して回る。
室内の異形を倒したら、隠れている人を助け出す。
それを繰り返していると、ひと際立派な部屋がある。
中へ入ると異形が居たため、瞬殺し、部屋を整えていた女官を隠れていた場所から助け出す。
多分ここだ。
ベッドの奥に誰かが入れそうな幕の引かれた空間がある。
私は位置を頭に叩き込む。
そして王宮内の異形を倒し終わった時点で外に飛び出して、担当エリアに向かう。
道々の異形を倒しながら家に向かう。
途中でシェラドさんとすれ違う。
「南側は終わった、北側を今から駆逐する」
「了解!東に向かうよ!」
孔が開いた時間はまだ登校時間の前だ。
学校には…ああ、しまった。
先生と用務員さん達が居るかも知れない。
「ごめん、キャンセル!学園見てこないと!」
「解った、気を付けて行ってこい」
急いで学園に向かい、職員室、用務員室、図書館などを回り、異形を倒して教師や司書、用務員を助け出す。
その後は校庭・体育館、クラス棟、屋上と見て回り、ふらふらしている異形を倒して回り、学園を後にする。
エリア東側に向かうとまだ路上に敵が残っている。
シェラドさんは先に西側へ向かったようだ。
東側を一掃し、西側へ向かうと、既に異形は残っていない。
エリア外へ足を延ばし、他のエリアの駆逐を手伝う。
2時間も掛からず、異形の駆除は終わった。
「シェラドさん、私謁見の途中だったから戻るよ」
「解った」
王宮へ戻ると、もう王宮内では落ち着きを取り戻し始めていた。
クラスメイトの男子も、顔色を悪くしながら籠の傍にへたり込んでいる。
王は、いつも通り玉座に掛け、私の戻りを待っていたようだった。
「駆除、終了しました」
「ご苦労、いつもながら、大活躍してくれたようだな」
「出来る限りを尽くしたのみです」
「作物も今回も非常に美味しそうだ。楽しみに食べさせて貰うとする。…ところで、最近王宮で死人が多く出ているのだ。犯人について何か知ってる事はないか?目撃した者は全て死んでおる故に風体も人数も解らないのだ」
「申し訳ありませんが、寡聞にして聞いたこともございません…」
「…そうか。いや、おかしな事を聞いて悪かったな。口外は無用で頼む」
「承りました」
王宮からの帰り道、男子生徒達が言う。
「重いからって帯剣を怠ったのが間違いだった…」
「農作業中だった可能性もあるよな…面倒がらずに帯剣するよう他の生徒にも言っておくよ…」
「ユーリちゃんは流石だったね。瞬殺して直ぐに他の救助に回って」
「まあまあ、急がないと学園にもう皆行ってるんじゃないかな?」
「あ、そうだね。それじゃあここで。また明日ね!」
場所は解った。だが、動くのは深夜だ。
私は気を入れ直し、準備をして学園へ向かった。
残るは主犯ですね。そろそろこのお話もラストが近いです。残り2話くらいかな




