第三十三話 幹部とその事情
幹部さん達にも色々な人が居る、という事です。
「やったじゃん!幹部撃破!…王は動くのかな」
「関与していないと見せるためには無視するかも知れないし、単純に王宮の人間が殺害された、と言う事だけ公表するかも知れない。関与してるかどうかを確認するのはこれだけじゃ難しいかもね」
「資料も燃やしたんだろ?」
「幹部全員殺したわけじゃないからね…頭の中に魔法陣が残ってる連中がまた残す可能性が高いね」
「――うーん前進はしてるんだろうけど、なかなか駆除するのは難しそうだね」
「昨日聞き忘れたんだよね…幹部の人数…まあ嘘つく可能性の方が高かっただろうけど」
「あ――スッキリしない!面倒くさい!ユーリちゃん頑張って!!」
作物を採取しながらそんな雑談を交わす。
アボカドは増えてきたが、まだまだ全然数が足りない。
柿はまだまだ生らない。
コーヒーは実を採取したはいいが、どうしたらいいか解らず家庭科の先生に相談するそうだ。
果肉取ったり乾燥させたり、確か工程が多かった筈。
魔力を使って育てているので全ての実がぷりぷりに大きく育っていて、選抜する手間は省けるようだが。
確か果肉は甘酸っぱくて美味しいのでジュースなんかに再利用出来る筈だ。
ただ、私の知識はTVで特集していたのを見た程度の曖昧な知識だ。
家庭科の先生の方が詳しそうだ。
全員が採取を終え、私はアボカドを1つ貰う。
「…いいの?」
「コーヒー豆はコーヒー飲めるようになってからコーヒー淹れるセットと共に渡すよ」
「ありがとう!」
コーヒー。シェラドさんは好きそうな気がする。
私はモウの乳でカフェオレにしたい。
ペーパーフィルターは多分無理だろう。
ネルフィルターになるだろうな。
うちは父がコーヒーに拘る人だったので、いつもネルフィルターを使っていた。
根起こし、整地、堆肥を混ぜて耕して畝作り。そして種植えをする。
種植えが終わったら魔力を流していく。
順調に器は育っているようで、農地を魔力で満たしても半分程の消耗で済むようになった。
田んぼはまだ青々としている。
堆肥だけ撒いておく。
いつも通り、家には籠を運んでもらい、学園前に風呂に入る。
野菜の商店は、家庭科と数学の先生には遠慮して貰う事にして、化学や物理の先生が売り子をしているそうだ。
まあ、少し量を増やしてみたそうなんだけど、1時間以内に売り切れる所は変わっていない。
サイクルを掴んだ人は店を出す前から既に列を作っているようだ。
学園に行くと、王宮で死人が出た噂などもなく、実に平和な雰囲気のままだ。
公表もしないのだろうか。
「ここのとこ孔開かないね。平和で嬉しいな」
「そうだよな。でもどうせまた直ぐに開くんだろうな。今年は1年程頻繁に開く筈だからさ」
「学園に居る時は開いて欲しくないんだよね。窓ガラス割ると担任の先生が禿げそうだから」
「あー…あの人日和見したいばっかりに却って気苦労多そうだよな」
「解る~。素早く対応する為に割れる窓なら仕方ないだろうにね」
「下校終わってからか、登校前に開いて欲しいなあ」
「そんなに担任の毛髪事情に気を使わなくていいと思うけど」
「校長の許可貰ってるんでしょ?」
「まあね」
最終的には、昼にも強襲に行く心算だ。
光で生んだ陽炎を分身として扱う特訓を始めている。
分身に学園に通わせながら、本体は王宮裏に潜む予定なのだ。
ただ、分身体から光が漏れてしまうので、それを収めないと実用出来ない。
少しづつだが、光は減らすことに成功している。
もう少しで昼でも偵察に出られる。
学園が終わり、私はごはんを作る。作りながら分身を出し、手伝わせる。
「あ。光出てない」
それなりに魔力消費はするけれど、今の私の魔力量なら半日は持ちそうだ。
「うん、明日は朝から行ってみよう」
リムザのロースを焼肉に、野菜たっぷりの挽肉入りグラタン、コーンスープ、山盛りソーセージ。
久々の焼肉に、シェラドさんの尻尾がふりふりしている。
可愛い。
野菜をぎゅっと詰め込んだグラタンも、美味しいと言って貰えた。
コーンスープはどうかなと思ったが、モウの乳のお陰か、クリーミーで幾らでも飲めそうだと言い、おかわりもしてくれた。
ソーセージは飽きる事がないようで、ばっさばっさと尻尾を振りながら嬉しそうに食べている。
「あのね、シェラドさん。明日から暫く、昼に強襲しようと思うの。分身に学園に通わせて…」
言いつつ、分身を横に出す。
「アリバイも出来るし良いと思うぞ。ただ、孔の戦闘時にうっかり分身を出すなよ。バレるからな」
「今日はいつも通り深夜で」
「解った」
ご飯を食べたら片づけて、水で体を拭いたらシェラドさんの懐に飛び込んで眠った。
深夜。例の場所へ行くと、通行止めの立て札が立っており、見張りも居なかった。
魔力を這わせて確認もしたが、生体反応はなしだ。
私達は小屋に入り、地下に移動する。
其処にはエシェスより少し年嵩で威厳のようなものがある人物が1人居た。
他に人の気配はない。
魔法陣の書き換えをしている彼を、シェラドさんが素早く拘束し、剣を首筋に当てる。
急な衝撃で、その幹部からの魔力は途切れた。
「何者だ?昨日エシェスを殺した者か?」
「ご想像にお任せする。それより幹部は他に何人居るんだ。1人居たら30人は居ると思えとは言うなよ」
「ふははっ、30名は多すぎるな。いいとこ6分の1といったとこだよ」
「…何故、素直に人数を答える?」
「…疑問だからだ」
「何?」
「召喚はこの国を豊かにもするが、弊害として天災が起こる。大量の人間が死ぬ。…それが正しいのか疑問に思うようになってから、誰かが打開しに来てくれるのを待っていた気がする」
「…私は絆されない。頭の中に魔法陣を持っている人間は全員殺す。命乞いにはならないぞ」
「解っている。私を除いて残りは5人。主に昼に此処へ来るやつしか残っていない。魔法陣のメモは新しく制作されたが、この施設が狙われている事から、王宮の一画に保存されている。見つけるのは難しいだろう。そして――主の名を口に出来る者は居ない。名前を言おうとした瞬間に口を封じられ、惨たらしく殺されるからだ。呪術のようなものだな」
「そうか、それで…」
「だが、託していいだろうか。巨大孔も、獣人の国の攻撃計画も、私は加担したくない…だが、命令に逆らえなくされている。どうか殺してくれ」
「…貴方のような人も居ると知れて、とても嬉しい。殺さねばならないのが惜しいくらいだ。せめて痛みを感じる間もなく死んで貰う」
「…この国を正しく導いてくれ。お願いだ」
その言葉が終わるや否や、早く鋭い剣閃がその首を落とす。
首は穏やかに微笑んでいた。
なんとも切ない気持ちではあるが、魔法陣の知識を持つ上に傀儡として操られて魔法陣を書かされているのであれば殺さざるを得ない。
関係者は殺し尽くす。
その決意に揺らぎはない。
それでもなんとも遣る瀬無かった。
魔法陣をまた野菜召喚の陣に書き換える。
少し溜まっていた魔力が変換されたのか、稲のようなものと白菜が現れた。
…惜しい、白菜はカットされている。
これじゃ種は取れない。
稲は…米?それとも…雑穀なのかもち米だったりするんだろうか。
明日植えてみる事にして、私は大事にそれを持ち帰った。
「え―…良い人も居たんだね…でも操られてるなら仕様がないね…」
「うん…残念だったね…でも残りの幹部が5人って解って良かったじゃん」
「で、その事なんだけど、今日から1日おきにしか魔力注げないんだ。本当は当分注げないって言おうと思ったんだけど、それじゃ皆食べる物に困るでしょ?だから昼勤の幹部は1日おきに撃破しに行こうかと」
「うわ、足引っ張ってごめん…否でも待って、私達も数だけは居るから1月くらいなら代わりに頑張れるよ!!ただ、1月以上は持たないと思う。ごめん」
「…いいの?」
「もう犠牲者見たくないからね。作物は家に届けて置くから!」
「此処には来るよ!手伝える事は手伝うね!魔力を温存しなきゃダメなだけで…」
「分身に学園に通わせるんだよね。凄い事出来るなあ…。でもアリバイ大事だもんね」
「種まきとか苗植えくらいならなんとか出来るからよろしくね!」
農園の水やりや田んぼの稲刈りを手伝う。脱穀機から溢れた米を袋詰めするのも手伝った。うーん。でも今はまだ米余ってるからな…。
「今回は米まだいらないよ。次の刈り入れの時にお願いしていい?」
「ああ、2人暮らしだものね。シェラドさんは相当食べそうだけど大丈夫?」
「此処の所、マカロニとか米じゃないのを出してたから…」
「あー、なるほど。それがなきゃ食べきれてるって事かな」
「うん。シェラドさん相当健啖家だから。あ!これ、作物召喚で出て来たんだけど、米なのか雑穀なのかもち米なのか見分け付かないから植えてみて欲しいの」
「もち米かも知れない!?勿論植える!」
田の面積を増やす切り取り作業だけは魔力で手伝った。全員で土を運び、耕して異物を取り除き、新しい耕作地が出来た。
田の根起こし、整地、堆肥を混ぜて耕し、水を張る。苗植えは私も手伝える。
さくさくと皆で苗植えをすると、すぐに終わった。
そして学生が新しい種籾を新しい耕作地に植える。
「もち米だといいねえ」
「ただの米だったらごめんね」
学生皆が田んぼの周囲を囲むように並ぶ。
「美味しく育て―!」
ぶわっと皆から魔力が立ち上がり、田んぼに魔力が行き渡るのが解る。
そして全員ぱたりと倒れる。
私に出来る事は無いので、倒れてる皆におかしな攻撃を仕掛けてくる者がいないかを警戒する事くらいだ。
暫くすると皆が目を覚ます。
「なんとかなったかな」
「うん、ちゃんと魔力が行き渡ってたよ」
「おお。それなら良かった」
皆で家に戻って風呂に入り、シェラドさんに今から夕方まで偵察に出ると話す。
朝ごはんを食べて私は分身体を出すと、学園に向かわせる。
「皆に1月、時間を貰ったから、1月の間に5人を炙り出さなきゃ」
「解った。付いていく」
「ありがとう。助かってるよシェラドさん」
昼に黒ずくめは目立つので、大き目のフードのついた服で、二人、顔を隠す。
念の為、私は自分の髪の色もピンクに変えて置いた。
シェラドさんは紫にした。似合ってる。
昼、雑踏に紛れながら例の地点に向かう。
さっと物陰に隠れるが、暗殺者に見つかり交戦――と思った瞬間には暗殺者の首は飛んでいた。
相変わらずシェラドさんの腕は凄い。
そのまま見つからないようさっと小部屋に入る。
――あの女騎士が居た。
「君たちか。魔法陣を害しているという輩は。この国を豊かにする為の魔法陣を乱すとは何の意図あっての事だ?」
「お前は此処にあるのが召喚陣で、巨大孔を召喚するものだと知ってそう言っているのか?だとしたら血も涙もない騎士だな」
「――は?そ、そんな訳…国内の土地を豊かにする魔法陣だと聞いているんだ!」
「魔法陣を解析した。召喚陣で間違いない。魔力を貯め込んで10年に1度巨大孔を開いてあちらの知識を持つ人間を浚うのが目的だ。あともう一つ、人間の施設を手に入れる為に獣人の国の王都に巨大魔法を打ち込む計画も耳にしている。お前は情報収集を怠っている。誰に言われた情報か知らないが、裏は取ったんだろうな」
「そんな…私…私は…。…っ、裏どりすればいいのだな!間違いなく国土を豊かにする魔法陣だったなら責任は取ってもらうぞ!?」
「機密情報だと思うから、通常の方法では情報は手に入らないと思いますよ。頑張って下さい。私達はこれ以上の被害を出したくない。獣人の国を一方的に蹂躙するやり方も気に入らない。だから此処に居る」
「…それが本当に真実なら、私は貴方達に手を貸すだろう。では情報を収集…」
「あ。これだけ持ち出せた。見るか」
獣人の国への侵攻計画の書かれた書面を見せる。
女騎士の顔色がどんどん変わる。
顔を青くして冷や汗を書いている女騎士から書面を取り戻し、懐に入れる。
「…この筆跡は……本腰を入れて裏情報を探る。情報提供感謝する」
私達は女騎士を見送り、地下へと侵入した。
魔力持ちが10人程度――以前マーキングした者も居る――と偉そうな服を着た幹部が一人。
幹部は魔法陣の書き換えをしようと魔力を注いでいる。
合図をする迄もなく、転移したと同時に駆けたシェラドさんが魔力持ち達を瞬殺していく。
私は幹部の鳩尾を蹴り飛ばして転ばせるとアキレス腱を切り、喉にナイフを突きつけた。
「ぐぁああ!足…儂の足が…!!」
「…ああ。そうか。もう聞くことないか…一応、獣人国侵攻の魔法陣はもう作っているのか?」
「獣人??何だそれは?知らん!!他国を攻撃するなんて考えられん!どこでそんな噂が出たんだ!」
演技には見えない。
足の痛みに耐えながら此方を睨みつける幹部は真っすぐに私を見ている。
私は溜息をついてその首を掻き斬った。
そして魔法陣を野菜召喚にまた書き換えておく。
「幹部でも下の方だったかな。人数減らした以上の成果はなさそうだね。帰ろうか」
帰って着替え、私は分身と交代する。
家の方へ現れたと思しき分身は消しておく。
「?どうしたのなんかびくっとしてたけど、何かあった?」
「あ、ううんちょっと寝不足でうとうとしかけただけだから」
「寝れないの?――あ、そっか、農園やってるんだっけ?夜明けと同時に作業なんて大変だね」
今日からは食後から眠って夜明け前に目を覚ます生活が1月続く。
生活サイクルの急変で体調を崩さないように気を付けなければ。
女騎士は殺されずに裏情報を掴む事が出来るのでしょうか?
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