第三十二話 拉致と計画書
早く幹部陣を全殺害して書物やメモも全廃棄したいところですね。所で皆、コーヒーの採り入れと処理の仕方、知ってるんでしょうか?…数学の先生頑張れ!
「うーん雑魚っぽいねー」
「あんまり事情も知らずに協力してる人だったかも知れないな」
「幹部じゃあないね」
「うん、それは解ってるんだけど、関わった人間は皆殺しにするって決めてるから」
深夜の報告をすると、生徒の反応は戸惑ったような声が多かった。
「頭の中に元の魔法陣の知識があるかないか解らないからね」
苦笑しながら皆を眺める。まだまだ殺人に忌避感があるのだろうなと思う。
「私は、もう二度と、巨大孔を召喚させる気はない。魔力を注いでいる者も同罪と見做す」
「…うん、ごめんね、ユーリちゃんを責めてる訳じゃないんだよ」
「俺らの覚悟が足りてないんだよな」
「帰る召喚陣なんてないかしら…」
「呼ぶ召喚があるんだから、探せば帰す召喚の陣もあるんじゃねえか?」
「それありだな」
「うーん。どうかな。あんまり希望持たずに、見つかったら奇跡、くらいに考えて貰った方がいいかも。だって、折角呼んだあちらの人を帰す召喚陣を研究すると思う?」
「あ――。それな…」
「まあ、また何かあったら報告するからね。一先ず、魔力持ちの死人が出た事で王がどう動くか、かな」
農園に水やりをしながら作業を終える。
田んぼの稲刈りと脱穀機―数学の先生は1から設計して鍛冶屋に頼んだらしい―で、田んぼの作業もさくさく進むようになった。
根起こしして整地、堆肥を混ぜて水路を開ける。
苗植えだけは数学の先生も設計に悩んでいるらしい。
頑張ってほしい。
人海戦術でそれなりに早く苗植えを終え、私は田んぼに魔力を流す。美味しくなーれ!
「もち米欲しいよね…」
「そうそれ!!欲しい!私赤飯食べたい!」
「俺普通に餅食いたい!」
「何処かで見かけたらいいねえ…」
「定期的に農作物が召喚されるなら偶に覗いてみるとか…」
「うーん。見張りの人なんかの数によっては考えてみるよ。前もアボカドとかコーヒー持って来れたしね」
脱穀した米を袋に詰めながらもち米トークが炸裂する。皆も餅食べたかったんだなあ。
米を詰め終わるとそれぞれ持って帰る生徒と、私の家に持って来てくれる男子生徒。
お礼を言って、腸詰を持って家庭科の先生に燻製して貰いに行く。
すると、先生は特許の件で打ち合わせ中だった。
どうも今まで本格的に燻製などをしていた人が居なかったらしい。
打ち合わせが終わった頃合いに覗くと、職員のふりをしていたらしき人物が、先生を無理に何処かへ連れ去ろうとしている。
鳩尾に当身、その男を気絶させると、周りにいた者が慌て始める。
「何をなさるんですか!私どもはサエキ殿に王宮勤務の提案を…」
「私は生徒達から離れる気はないと言ったら無理やりに連れて行こうとするなんて、真っ当ではありません!」
「…先生の言い分が正しいですね。首を縦に振らないなら無理矢理、なんてマトモじゃありません。どういう事ですか?王はご存知なのですか?」
「く…王に報告する気か。私達は優秀な人材をあるべき地位に就けて差し上げようとしただけだぞ!」
「大きなお世話です!私達教師は、今や生徒たちの母のような存在になっています、離れる訳にはいかないんです!」
「…はぁ…先生が正しいです。王に報告しますから、もうお帰り下さい」
「くそ…我々は…」
まだ粘ろうとする職員の首筋に光の剣を翳す。
「…!!?っ解った、今回は引いてやる。諦めたと思わない事だな!」
王宮部署の職員達はバタバタと気絶した男を背負って消えて行った。
「…数学の先生にも気を付けるよう言った方がいいですね…」
「ええ、そのようですね…ありがとう、ユーリちゃん」
持ってきた腸詰を大量に――シェラドさんが毎日のように作るので――差し出し、先生は苦笑気味にその腸詰を受け取ってくれた。
今回は助けてくれたお礼だと言って、ベーコン塊とスモークチキン、スモークチーズを貰う。香ばしい燻製臭が心地いい。
お礼を言って、3日後取りに来ると約束する。そのまま一礼して家に戻った。
風呂に入ったら学園だ。もう遅刻は確定しているが、仕方ない。あちらの世界と違い、やる事が多いのだ。
遅刻した件を担任教諭に謝罪し、席に着く。
休み時間になると、ミラちゃんとクロード君が話しかけてくる。
「今日はどうしたの?献上じゃないよね?」
「うちの関係者の先生が無理強いされていたので、戦闘して撤退させていたよ。勘違いの甚だしい人が王宮勤めしているのって迷惑だよね」
「え―何…そんな事あったの?大変だったね…お疲れ様!」
「無理強いって…拉致?有り得ないわ―」
二人が眉を顰めるのを苦笑しながら見る。
私に絡んで来ていた女生徒は最近姿を見ない。別のクラスに移ったのだろうか?
今日の学園では、数学のテストで満点を取った。
学園から帰るとご飯の用意をする。
スモークチーズはスライスして間に茹でた野菜を挟んでいく。
腸詰のストックが半端ないので、2本分を焼いて山盛りにしておく。
鶏ガラスープに野菜と鳥肉を入れ、掻き玉で仕上げる。
悩む。悩んだ挙句、鳥の手羽元を照り焼きにして足しておく。
狩りから戻ったシェラドさんは、チーズがお気に召したようだ。
挟んだ野菜ごと、美味しいと食べてくれる。
山盛りのソーセージにも幸せそうに噛り付いている。
スープも手羽元も美味しいと言ってくれる。
相変わらずの健啖家ぶりが気持ちいいと思いながら、私も食事を摂る。
片づけて、体を水で拭いたら、仮眠だ。
深夜に備えてシェラドさんと一緒に眠る。あったかい。
深夜、黒装束で例の地点まで赴くと、騎士は使えないのか、暗殺者といった風貌の男二人が入口を警護している。
昨日の件で警戒されているのか、それとも幹部が魔法陣に接触しているのか?
ナイフを構えると、またシェラドさんが既に首を刎ねていた。
暗殺者であっても、獣人の瞬発力の前には為すすべがないようだ。
そのまま施設内へ魔法陣の転移を経て入り込む。
10人ほどの魔力持ちと、一目で偉いと解る、ローブの色と質が違うものを着ている者が1人。
私の書き換えた魔法陣を元に戻そうとしているようだ。
目線で合図すると、シェラドさんが魔力持ち達を瞬殺で一蹴する。
集中が途切れて魔力を止めた男は、こちらに反応する前に、シェラドさんに確保され、喉元に剣を押し当てられていた。
焦った顔で私達を見る男はギリギリと歯噛みしている。
「何者だ…この施設が重要な国の機関だと知っての狼藉か!?」
「ええ、知ってる。何を召喚するのかも。――答えろ。お前がエシェスか?」
「!? 何故私の名を知っている!?スパイが居るのか!?」
「お前がこの施設の主なのか?」
「――は!主は私なんて比べ物にならない程偉い人間だ。お前達では太刀打ち出来ないだろうよ!」
「なら貴様は管理者ってところか。この魔法陣を記した書物はあるのか?」
「…何故私がそんな事に答えなければならない?」
私は持っていたナイフを無造作にエシェスの腹に刺し込む。
「くはっ…!?ま、待て、私を殺すと書物の在処は解らないままだぞ!?」
「答えない相手なんて生きてても死んでても関係ないよね」
ズズ、と更に押し込むとエシェスは喀血する。
「ま、て!緑、の本だ!其処の管理室にある!だから、命、は」
「此処の主は誰?」
「………」
「此処の主は誰?」
「……言えぬ。殺せ」
其処でエシェスの首を、シェラドさんが刎ねる。
主の名だけは吐かなさそうだったので、腹の傷の件もあってあの辺りが潮時だっただろう。
私は管理室へ入り、書類や本が乱雑に置かれているのを見つける。
緑の本だと言っていたが多分ブラフだろう。
緑の本を捲ってみると、魔法陣の監視記録だった。
順に書籍を漁っていると、本棚の奥のボタンを見つける。
目で合図してそのボタンを押す。
また転移陣が発動し、狭い小さい書架のある書斎に転移する。
本棚を漁ると、緑の本に召喚陣の構築に関する事が書かれていた。
シェラドさんは火属性だ。
緑の本ごと、全ての書籍を焼き払う。
何やら企画書のようなものがデスクに有った為確認すると、獣人の日本人施設のある辺りの土地を掠め取る計画が記されていた。
身体的スペックが獣人に及ばない為、戦争での奪取は諦め、攻撃用魔法陣を設置し、それで獣人の国の王都を焼き払う計画となっていた。
「ああ…やっぱりこの計画もあったんだ…」
企画書には魔法陣の構築の事も書かれている。私はその紙を懐に仕舞う。
それ以外を全て火の海に沈め、私は来た場所に戻り、魔法陣で元の管理室へ転移した。
念の為、管理人室も全て燃やして貰う。
野菜を採り続けて居たのに、今まで魔法をまともに発動させて居なかったシェラドさんは2部屋を燃やすのに十分な魔力を蓄えていた。
完全に燃え尽きるまで見届け、他に部屋などがない事を確認し、隠れて見ている奴が居ないかを探ると1人の暗殺者が見つかった為、その暗殺者もシェラドさんが殺す。
魔法陣をまた野菜召喚の魔法陣に書き換える。
私達は施設の外に出て、その日は家に戻った。
昨日の件では王は沈黙していた。
目撃者が居ないのだから仕方がないのかも知れない。
今回も目撃者は居ない。
作物献上の際になんらかの反応がないか確認するしかない。
「幹部は1人始末したけど、1人だけとは思えない。何人か居るだろうね。全員が魔法陣構築のメモを書けると思った方がいい…から、早めに見つけて始末したいな」
「獣人の国への攻撃魔法陣も、幹部の誰かが書いたものだろう。そいつらが死なない限りいたちごっこになるだろうな」
「あぁ…早く全員死ねばいいのに」
「そのうちそうなる」
「…そうだね」
今回はまだ夜明け前まで時間がある。少しだけ眠って、私は農園に向かった。
やっと一歩進んだ感じでしょうか。でもまだ残党が多いのでこれからが戦いですね。
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