第三十話 騎士と魔法陣
王都の暗部に一歩踏み込みます
早朝、農業をしていると、いつもの女騎士ーラナが農地に駆け込んで来ようとしてバリアに弾かれる。
「この葡萄は毒があるんだ!食べてはいけない!」
わざわざ忠告をしてくれるラナに、礼を言う。
「忠告ありがとうございます。でも、この葡萄は毒抜きしてあるんです。食べても問題ありません」
騎士は目を見開いて驚いてから、ふぅ、と息をつく。
「いや、急に現れてこんな事を確認して済まない。本当に毒抜きまで出来るのだな…」
すごい勢いで突っ込んで来た為、そこそこの怪我を負っている。
「…光よ癒せ」
女騎士の怪我が癒えていく。
「…癒しも。農作物を急激に成長させ、異形を1撃で屠る…凄い力だ」
何故か少し悔しそうに女騎士は私を褒めると踵を返した。
今日は水やりくらいしかやる事がない為、私が抜けても特に問題はない。
私はそっと目線で合図し、農地を離れた。
気付かれないよう足に光魔法を掛けると屋根に上がり、そっと女騎士の跡をつける。
王城へ入るかと思いきや、王城を迂回し、王城裏側にある物置小屋のような場所へ入っていく。
そっと扉の隙間から覗いていると、両側に置かれていた本棚から白い本に二冊、両手で触れる。
すると足元に転移の魔法陣が描かれ、騎士は多分地下へと転移して行った。
すぐに追いかけたくなる衝動を押し殺し、そっとその場を離れ、誰にも見られずに王宮を後にする。
今追いかけては最悪囲まれてしまう。深夜に出直す必要がある。塀を飛び越え、ポイントを覚えておく。
そのまま農地の皆の所へ戻った。
「なんかキナ臭いわよねえ…こっそり魔力を注がせようとしたり…本当に良いものだったら堂々とお願いすればいい訳だし」
「うー…戦争とか嫌だなあ…魔法陣が満ちたら何処に攻撃する心算なんだろう…」
「攻撃魔法と決まった訳でもないし、最悪の想像から語るのやめい」
「じゃあなんだって言うの?…うーん…良いほうなら、土地を豊かにするとか…悪い方だと、他の国家を衰退させるとか…他の土地から奪った生命力とか魔力をこの国に還元してるとか…」
「そもそもずっと種族で分かれて暮らしてるんだよね、ここの国の人達。その中で人の国だけがやたらと繁栄しているようには思う。だから戦争…の可能性は低いかも知れない…否でもどうだろう…ただ人類圏を広げて更なる繁栄を、というのであれば…。発電所とか獣人の国にありますから、獣人の国を狙う可能性は高いかも知れません。日本と巨大孔が繋がってるのは獣人国だけみたいだから、どの施設も獣人国にあるし」
発電施設と電力会社員が揃っているのだ。
遊具施設や駐屯地、色々と昔に召喚された建物を考えるとガスや何かの製造会社だって有るかも知れない。
それを考えるとあの王ならば獣人国の土地を奪おうとしてもおかしくないと思う。
「まだ…魔法陣を見ても居ないから本当に推測しか出来ない。――だから、今晩、深夜に忍び込んでみようと思う。明日の農作業手伝えなかったらごめんね」
「農作業より大事だと思うし、気にしないでいいよユーリちゃん」
「そうよ、なんなら皆で一度試しに土地に魔力流せないか試しても良くない?」
「おお。毎回ユーリちゃん頼りっていうのも申し訳ないし、それいいね」
「うんうん、そんな感じで…無理せず、農地は任せてくれていいよ!魔力が無理でも1日待つだけだし!」
農地班は水やりだけだったが、田んぼ班は稲刈りだ。
残った刈り取りを光刃で刈って手伝う。
千歯扱きしている生徒達の米を袋に詰めて行く。
残った農園班が田んぼの根を起こして取り除き、堆肥を入れて耕し直す。
水を引いたら苗を植えていく。
米を家に持って来て貰って皆も学園に行く前の風呂、と言う事で解散だ。
学園の美術の授業で描いたシェラドさんの顔は結構上手く描けたと思う。
学園には学食もあるが、基本的に私は弁当持参派だ。
ミラちゃんも弁当派だったけど、クロード君は学食なので、3人で学食でご飯を食べている。
「ユーリちゃんの描いた男の人格好良かったねえ」
「あ、俺も思った!こうキリッとしてて、細マッチョで。でも耳が付いてて可愛さがギャップで」
「へへへ、保護者なの。自分でも上手く描けたと思うんだ。狩りをしてる時とか恰好良いよ!」
私では上手く出来ないが、シェラドさんの剣を真似てひゅんひゅんと箸を振る。
誰かに当たりそうになる前にすっと止める。
「これが5倍速くらいで1撃づつで敵に止めを刺していくの!格好良いんだ~!」
「今のも十分格好良かったけど、これが5倍速で、1撃で敵を仕留めるとか憧れるよ」
「うんうん!強くて格好良くて可愛いなんて、素敵な保護者さんだねえ!良いなあ」
てへへと照れ笑いをしてご飯に戻る。
いつ見ても思うのが、皆のお弁当の茶色さだ。
緑がない。トマトの赤もない。
お弁当を見て、いつも2人は「綺麗で美味しそうだね」って言う。
私は若干の申し訳なさを覚えてしまう。
でも、都民全員分の作物を夜明けから学園までの間に育てる事は出来ない。
出来ない事は口にする事も出来ないので二人の食べているものには何も言わないようにしている。
逆側で農地を育てている人達が、市場に流せる規模の農地を構えてくれればいいんだけどなあ。
今日も私の弁当は、野菜も肉もとても美味しい。
ごはんももっちもちで美味しい。
あー。もち米も欲しいな。お萩が食べたい。
学校から帰ると、夕食を作る。バターとモウの乳と卵を買って帰り、固形コンソメを少量の湯で溶かす。
バターと小麦粉を炒めてぷるぷるにし、コンソメを足して味見をする。
固いようなので少しモウの乳を入れて緩め、ご飯もバターライスにして間にひき肉と玉ねぎとトマトとコンソメで作ったミートソースをライスの間とライスの上に乗せ、ホワイトソースを更に乗せる。
チーズをたっぷり掛けてオーブンで焼く。
かなりの大皿で作ってしまったけど、きっとシェラドさんの事だから食べつくしてくれるだろうと信じる。
ブロッコリーとじゃが芋とコーンと厚切りベーコンののマヨネーズ焼きもオーブンで焼く。
シェラドさんには肉が足りないだろうと、厚めに切った豚肉でとんぺい焼きを作る。
お好みソースはないけど、とんかつソースとマヨネーズをかけておく。
シェラドさんは、とん平焼きが気に入ったようで何枚も食べている。
ミートドリアも好評だった。
やっぱり挽肉がお好きなようだ。
マヨ焼きも、ブロッコリーとベーコンがお気に召したようで、いつもの笑顔で言ってくれる。
「全部美味しいな!ユーリは本当に凄いな!!」
わっさわっさと尻尾を振りながら食べている最中にキナ臭い話はしたくない。
たっぷり食べて満足して貰ったら後片付けをする。
ミートソースは応用が利くので3倍の量を作って残りは保管してある。
明日はミートスパゲティを食べよう。
食後のデザート、桃を食べて種を保管してから話を始める。
深夜に起きて王宮裏の魔法陣から、先日魔力を奪われそうになった件で疑問に思った件を明らかにしに行く事を話した。
すると当然のように付いていくと言うので、チビの私が黒い服を着てるとほぼ見つからないだろうけど、シェラドさんは目立つ、と言って動向を断った。
シェラドさんと仮眠を取り、真っ黒な服に、黒い布で頭を巻いて目だけ出す。
暗闇ではほぼ解らないだろう。
昼のように屋根伝いに走り、塀を飛び上がって超え、小屋周りに人が居ない事を確認する。
昼間の騎士がやっていたように左右の白い本に触れる。
ぎりぎり指先が届いてよかった。
足元の魔法陣が輝いた時、何者かがその魔法陣に便乗してきた。
転移先でそれがシェラドさんだと解る。
本当にこの人は過保護だ。
周りに誰も居ない事を先に確認する。
「シェラドさん…嬉しいけど過保護だよ?」
「…心配だった。すまん」
今、絨毯の敷かれた端の方に居るが、部屋のど真ん中に巨大な魔法陣があるのが解る。
大きい。
建物が1つや2つくらい入りそうな大きさだ。
シェラドさんに抱き上げて貰い、全体像を見る。
「これは…召喚陣…?一体何の…」
何の召喚陣かは解らないまま、この召喚陣を見ていると不安感を物凄く煽られる。
私は魔力で召喚陣に干渉する。
召喚陣である事はそのままに、現代の野菜果物各種が召喚される陣に変更する。
これ迄溜めて来た魔力で、ぼぼんと召喚陣の上に作物が現れた。
あっ。アボカド。貰っとこう。あっ柿…私は種のない作物をメインにちょいちょい拝借し、召喚陣の間を、入った時と同じやり方で脱出する。
家までバレる事無く帰り着いた。
これであの召喚陣は魔力が溜まるたびに作物を吐き出す装置となった。
再構築出来るのかも知れないが、私が今ほぼ魔力切れしている事から、1から構築するには私の倍以上の相当な魔力量を持つ人でないと再構築出来ないだろう。
ただ、最初に構築した人が居たんだから、時間稼ぎにしかなっていない気はする。
「…巨大孔の気配がした。もしかしたら間違いかも知れないけど、あの感触は多分…」
「巨大孔の召喚をしているのは人族の王族だと?」
「解らない。王が黒幕なのかどうかも言い切れない。ただ相当上の位の人だと思うよ」
現代を巻き込む巨大孔と、副作用のような孔。
そんなものを召喚するのが国の上部に居るというのは非常に腹が立つ。
何人の死人が出ていると思うのだ。
でもそうか。現代から来た人から一番恩恵を受けているのは人間の国だ。
――許せない。
いくら国を繁栄させる為だからとあちらの人間を浚う為に災害を起こすなんて。
暫くは野菜召喚で凌げるだろうが、あれを根本から破壊し尽くして1から構築させない為にはどうすればいい。
知識を持ってる人間を殺し、陣の設計図を探して破棄。
そこまでして漸く安心出来るが、どっちも誰なのか、何処に在るのか解らない。
何処から手をつければいいかも解らない。
だからと言って仲間として潜り込むには私の魔力は多すぎるし特殊過ぎる。
危なくて下手に潜り込めない。
――私は唇を噛み、夜明けになった為、服を着替えて農園に向かった。
魔力は殆どないが、何かの役には立つだろう。
召喚陣から魔力が抜け、山盛りの野菜と果物が出てきてるとこを見て驚く犯人が見てみたいですね。
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