第二十六話 訃報と都民
学園に行く前に色々やりすぎていますね。実際授業が始まるとどうする心算なんでしょうか。激・早朝からやるんでしょうか。
結局大木と鳥羽は失血が酷く、助からなかった。
瀕死で1人生き残った田代は多分もうこちらに向かってこないだろう。
群れていると人は気が強くなるが、たった一人生き残った田代にその気概はないと見ている。
クラスメイト達は訃報を告げるが、悼んでいる様子がない。
少し気まずいような表情をするばかりだ。大方クラス内でも何か横暴を働いて、鼻つまみ者だったのだろう。
それでもクラスメイトだ。ショックを受けていない事にショックを受けている子も居た。
孔との戦闘で、生死を間近に見てきた者としては当然の事とも言えたが、それでも納得仕切れない何かがあるのだろう。
私は淡々と事実を受け取り、気を取り直す。
「じゃ、作業に戻ろうか」
農地の方はもう実っている。桃やアスパラも成っている。
アスパラは多年草だから、何度か収穫できるので、一度取っても潰さないように、と家庭科の先生から伝言があった。
籠を持って、まず代表の生徒が見目の良い野菜をあれこれ見繕って籠に詰めている。
3籠分くらい収穫し、桃とアスパラも添える。これは王家への献上品だ。
後は皆好き好きにわっと作物に群がっていく。
私もまざって、以前持ち帰れなかった野菜をメインに籠に入れていく。南瓜好きの私には南瓜は欠かせない。
最後に桃を数個とアスパラを貰った。アスパラはそんなに数を育てていない。
三分の一程貰ってしまう事になる。
「…いいの?」
「アスパラは明日も採れるから、そっから枯れるまでは私達が貰うよ。それでいいでしょ?」
「うん、解った!ありがとう!」
「米は明日かなー」
「そうだね、また千歯扱き大変そうだけど、頑張ってね!今回は私はうちで精米するよ」
私はまた3人の男子に手伝って貰って作物を家に運んで貰う。
その男子は献上用の作物を背負った3人だ。
他の生徒は来なくていいのか聞くと、王城は緊張するから任されてしまったとの事。
3人を連れて王城へ向かうことにする。
街行く人々の視線が痛い。
何をそんなに見られているのかと思うと、3男子の持つ籠の中だった。
瑞々しい野菜に目が釘付けになっている。
なんだか居心地の悪い気分になりながら、王城へ上がった。
いつもながらの名パスなのか、待っている人達より早く名を呼ばれる。
謁見し、3つの籠を王の前に出す。
「使用許可を出して頂いた農地で取れた野菜です。どれも美味しいので、献上に上がりました」
「ほう…市で売られているものと随分違う…生き生きした野菜だの。これは美味そうじゃ。早速今晩にでも食べさせて貰うとしよう…時に。これは定期的に頂く事は可能なのかね?」
「地代として収める、という事で飲める条件です。如何ほどの周期で御持ちすれば良いでしょうか?」
「そうじゃの…聞けば信じられぬ程凄く早く作物が実るという。それならば週に1度、お願いしても良いか?」
「解りました。大丈夫です」
守護結界に、誰か複数人が触れた痕があった。盗もうとしたのだろう。
影からチラチラと農地を伺っていた人間も複数確認している。
どうも、一騒ぎ起きそうな気がしてならなかった。
今日は贅沢に野菜を使おうと思う。実は迷惑を掛けた、と腸詰と一緒にベーコンを頂いたのだ。
ベーコンとキャベツ、じゃがいも、ニンジン、玉葱。
コンソメはないのでじっくり煮て素材から味を引き出すしかない。
そういえば出汁の類は全くと言って良いほど見ない。皆味噌汁とかどうしてるんだろう。
私は豚肉を入れてなんとか誤魔化しているけど…。
出汁、欲しいなあ。
ソーセージは山盛り焼いておく。ベーコンでアスパラベーコンも作った。
もろこしはまだどう食べるか考え中だ。
ごはんが炊き上がった頃に、シェラドさんが帰って来た。
想像していた通り、ソーセージは凄く受けが良かった。
これなら腸を洗うのを毎日手伝ってもいい、とまで言ってくれる。
私もきちんと燻製されたソーセージの美味しさにほっぺが落ちそうだ。美味しい!
スープも勧めると、野菜が一杯なのに気付いたシェラドさんがちょっと眉尻を落とすが、食べてみると「どの具も美味しい!」と言ってくれた。
魔力かな。やっぱり魔力の所為な気がする。
気付くとアスパラベーコンも半分なくなっていて、慌てて自分の分を確保する。アスパラは貴重なんだよ~。
「この巻いてあったやつの野菜が特に美味しかった」
「あぁ…何回も魔力吸収してたからねえ…、でも貴重だからあんまり採れないんだ。ごめんね」
「いや、また喰えるならそれでいい」
相変わらずシェラドさんの胃袋は宇宙だ。スープも全て平らげてしまった。
デザートに桃を剥いて出してあげる。真ん中の種は使うから、噛み砕かないようにだけ注意した。
かぷりと一口。
「―――んんん――!!」
「ん―――!!!!」
甘い。桃の風味も強い。物凄く美味しい。
こんな桃初めて食べた。
何度も魔力を受けた事に関係しているだろう。
アスパラも物凄く美味しかったから。
でも、でもね、甘味で美味しいのは特別なんだよ…!
あと2つある。明日食べよう。今食べきっちゃうと勿体無い。
「何だこれは?初めて喰うが滅茶苦茶に美味しいな!!これも貴重なやつか?」
「うん、増やすけどね。増やすのにその種が必要なの」
「そうか…毎日でも食べたいくらいだな…。次を楽しみにしてる」
「明日の分だけは取ってあるよ。勿体無いから今日はもう終わり」
「明日も喰えるのか!楽しみにしておこう!」
皆多分種持って来て嬉しそうに植えるんだろうなあ。
ちなみにシェラドさんは早速腸を洗っていた。ミンサーと腸詰器で、ソーセージの形になるところまで私は手伝った。ハーブ入りなんかも作りたいけどハーブがねえ…。
次の日に農地に行くと、都民の群れが其処に居た。
「なぁ、あんた達だけずるくないかい?」
「そうだ、俺等輸入したしなしなの野菜を少ししか買えないってのに、あんたらだけ新鮮な野菜を食べ放題!」
「横目で運んでいくあんたらの野菜を見てる皆がどう思ってると考えてんだ!」
「ちょ…俺達は自分で農地を借りれるよう手続きして、毎日自分達で世話をして、自分達で育てたものを自分達で食べてるだけだ!!何も変な事じゃないだろ!?」
「そうよ!食べたいなら自分で同じように土地借りて農業すればいいじゃない!奪おうとするあんた達はなんなの!?泥棒なの!?」
都民はそこでうっと言葉に詰まる。
「でも…都民は平等で……」
「そうだ…お前らだけ……」
「五月蝿い!農作業やってから言え!どんだけ大変だと思ってるんだ!」
「そうよ、汚物だって毎日運ばなきゃならないし…」
「なんなら農家のある村に遊びに行って作物食べてくればいいじゃん。うちら500人居るから、口を満たすのにいっぱいいっぱいよ!」
「王都に他に野菜で口を満たせる奴らなんかいねえんだよ!」
「農地を作ってないんだから当たり前でしょうが!」
「いいから作物を俺等にも寄越せよ!!」
言い争っている間に、騎士が2名到着する。
「其方達、何を言い争っている?双方の意見を聞こう。代表者、双方1名づつ出よ」
「王都民は皆平等な筈なのに、こいつらだけ毎日新鮮な野菜を食べているんだ。俺らは遠方から輸入するしかないからしなびた野菜が少し入ってくるだけで満足に食べられないというのに!こんなのはずるい。我らにも分けてくれて当然じゃないのか?」
それを聴いた瞬間、ぴくりと騎士の顔が歪んだが、こちらの意見も聞くために一旦沈黙する。
「私達は王にこの土地の借り入れを申し入れ、受けてもらった。そして自分達で土地を均し、雑草を抜いて耕し、あらかじめ農家で買っておいた種を撒いて世話をし、やっとここまで来た。どうしても野菜が食べたいから皆で努力した。私の魔力で発酵や成長を促すという事は他の人には出来ないが、それでも他の人でも地道にやれば農地は作れるはずだ。何もせず、其処にあるからと言って盗んで良い訳ではない。私はこの農地と田に守護バリアを張っている。人が裡に持つ魔力で、こっそり盗みに来た奴の手形とあんた達を照合するのも可能だ。例えばそこのお前とかな。こっそり盗めないからと言って、集団で盗む言い訳をしに此処にわざわざ顔を見せたお前達の頭の程度が知れない。学校を出たんだろうに」
「そこまで。私達は守護者達の言い分に賛同する。野菜が食べたい者は農地が借りられるよう代わりに申請してやってもいい。どうだ」
「はぁ!?なんでこんなチビのいう事に納得されているんですか騎士様!?」
「チビというが、そこのお嬢さんは我らと同僚だ。騎士だよ」
「はぁああ!?」
「孔発生時に、王都の異形を3分の1を倒した2人組の片割れがお嬢ちゃんだ。今生の勇者だよ。それはさておき、こっちと逆側に農地を借りることは可能だ。どうしたい?」
「…俺は…仕事があるから…」
「私だって家事と育児が…」
「あ…私…助けられておいて…」
あれだけ言っておいて、自分たちでは動きたくないのだ、この人達は。
「もう何月か経てば、作物によっては余剰が出て来る可能性がある。その余剰分だけなら販売に回しても構わないと思っていた。が、なかなか採取出来ない特殊な野菜や果実はまず回らない。数もそう多くも無いだろう。その程度には考えていたのだが…考え直す必要がありそうだな」
これは生徒達とも話し合って居た事だ。このペースで作物が手に入るなら1月か2月後には少しくらい市に出してもいいのではないかと話していた。
それを前にこの騒動だ。都民にもお裾分け代わりに販売しようか、という気持ちが萎んでいく。
これなら王家への献上品を増やした方が有意義な気がする。
都民たちの顔がさっと青ざめる。
「売って貰えるならそれでいいんだ!!早く言えよそんな事は!!」
「そ…そうよ、適正価格で買えるんなら私達はそれで…」
「え?なんで逆切れしてるの?これ以上私達の心象を悪くして良い事なんて一つもないと思うんだけど」
「そっ…それはっ…お…おねがい、します…、野菜を、売って…下さい…」
勢いの良かったおじさんは歯軋りせんばかりに私を睨みながらなんとかそう口にする。
それ以外の人々は、それぞれうなだれ、頭を下げ、私達に謝罪を口にする。
「申し訳なかった…野菜に目が眩んで…」
「ごめんなさい…子供にも食べさせてやりたくて…」
「本当にごめんなさい!あの時助けて貰ったのに…」
「すみませんでした…」
「…はぁ…まあ、今はまだ無理ですが、もう少し待って貰えたら、余ったものから売りに出す、でいいですね?基本的には私達は、自分達の口に入れる為に必死で頑張って農地を作ったんです。都民全員の口に入るような量は絶対に出せませんし、早い者勝ちでそれなりの量しか提供できません。それでも不満な方は農地を借りてください」
「そんな…!」
「うむ。道理だな。彼らは王都民に野菜を提供する為に野菜を作っているのではない。自分たちの為に作る、と王にも伝えてこの農地は彼らのものだと周知するよう言われている。実際そう看板が下げられているだろう」
「うう………」
「毎日のように野菜が食べたければ自分たちで頑張りたまえ。いつ農地を借りたいと申請してくれてもいい。私達は騎士の詰め所に居る。話は通しておく」
「だって…こんな……」
どうにも納得が行かない都民がそれなりに居るようだ。知った事ではないけども。
「それ以上の事は出来ません。貴方方は貴族の保有する金銭が多いからと大挙して押し寄せてその金を平等に配れと言い募る心算ですか?」
「………」
「それは貴族でない私達を舐めているからいいだろうと思ったんですか?」
「………」
「私達は全員守備隊の者ですよ?護ってあげようという気持ちを失ったらどうなるか考えなかったんですか?」
「………」
「これ以上は作業の邪魔なんで解散して下さい」
「………」
無言で肩を落とした都民が散っていく。私はほっと胸を撫で下ろした。
騎士は言う。
「どうか王都を嫌いに成らないで欲しい…あんな者達ばかりではないのだ。孔での活躍を私は願っている。…勇者どの。その年でその弁舌、感嘆した。これからも王都の護りを宜しく頼みたい。この通りだ」
腰から頭を下げて騎士は礼を示した。そして去っていく。
「はぁ~、作業前から疲れたねえ…」
「まあ、そうも言ってられない。稲取り込むぞー。農園班は根起こしと整地、堆肥撒いて畝作ってな」
私は先に新しく足された堆肥と、放り込まれる野菜屑を発酵させていく。
確りと発酵させ、稲の刈り取りに混ざる。
さくさくと刈っていく稲を皆は次々千歯扱きに掛けていく。
「これも楽になるような機械、数学の先生、作ってくれないかなあ…」
「機構が解れば作ってくれそうだけど…相談だけしてみる?」
「だよねえ。凄く体力使うししんどいからなんとかして欲しい」
文句を垂れながらも、稲を振るう姿は雄雄しい。
私は農園班の種まきに混ざる。皆食べた後の桃の種を持参していた。
ある程度の距離を上げながら植える為、耕してもらう。
堆肥を混ぜ、桃の種を植えて行く。
単純計算で3倍の桃が採れるようになる筈だ。まあ、暫くは育たないが。
「アスパラももう少し増やしたいよね。一回種取る?」
「あーね。その方がいいかも」
「じゃ、次は一回種を取るのに放置って事で」
「その分何処空ける?」
「んー…縦に拡張する!」
アスパラはふちに面した部分に植えられていた為、耕し足して小石などを除いて堆肥を足して畝を作る。
他の作物はほぼ種植えが終わったようだ。
女生徒に頼まれて魔力を流す。倒れる一歩手前でまた踏みとどまれた。
でもやっぱり女子に運ばれて木陰で寝かされる。
寝ている間に、千歯扱き、米の回収、稲の根起こし、整地、堆肥を混ぜて水を引き入れるところまで終わっていた。人数の力って凄い。
「あー…途中から任せちゃってごめんね」
「いやいや、ユーリちゃんの魔力があるからこんなに短期で採り入れ出来るんだから気にしないで。米は運ばせるわね」
まだ未精製の米を大袋に一杯、男子が家に運んでくれた。いつもありがたい。
「いつも運んでくれてありがとう!助かってるよ!」
さて、都民だ。懲りずに盗みに来るだろう。
夕食の用意をしながら、バリアだけは欠かさないようにしようと思った。
しかし、学園が始まったらどうするんだろう?
まあ…入れる隙がないかと盗人は出続けるでしょうね。ユーリが居ないと色々と成り立たない農園&田んぼです。
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