第二十四話 急成長と孔
人間の国は深刻な守備隊人員不足だったようです。
後で植えた分布を聞くと、大豆の割合が凄く高かった。
発酵食品として欠かせないからね、しょうがない。
その他、胡瓜やキャベツ――なんとキャベツ群生地を見つけて、花が咲いて実がなるまで放置してみたそうだ――じゃがいも、にんじん、小豆、アスパラガス(種の下処理は先生がやってくれたとか)ブロッコリー、トマト、カボチャ、なすび、だいこん、里芋、ゴボウ、ピーマン、玉葱。
それぞれがそこそこの広さで植えてある。
しかしアスパラ。成るまで3年掛かるけどいいの?
試しに一画に桃を植えてみた、と言ってたから、桃とアスパラが一緒に収穫出来る様になるのね。甘味大事。
砂糖はある程度出回っている。小豆が出来れば餡子も出来るだろう。今から楽しみだ。
水遣りと、既に生えてきてる元気な雑草を抜いて、コンポストはまた発酵させておく。
ここからそんなにじゃぶじゃぶ肥料を与えすぎるとそれはそれで作物が育たないので、注意しておく。
暫くは足さないで貰った方が良いかも知れない。
あと、醤油や味噌が安定供給出来るまで枝豆も自重しようと話をする。
している間に、無視しようとして仕切れなかった田んぼの話になってしまう。
「早すぎるよね?青々わさわさしてるよ…後は実るの待つだけって…」
「明日もう実ってるんじゃない?」
「いや、笑えない。本気で実ってそう」
「2回肥料要るんじゃなかった?堆肥撒いとく?」
「ああ、そうだね。撒こうか」
「千歯扱き作っておかないと…」
「ね、ユーリちゃん、農地の方にもちょっと魔力流してみてくれない?」
「う…うん、解った…」
美味しく育てー!!念を乗せた魔力を農地に流すと、その広さも相俟って、私はぱたりと倒れた。
「ごめん調子に乗っちゃって!!でもありがとう!!なんかすぐ芽が出て来た!!」
私は木陰で介抱されて女子の膝枕で寝ていた。
「あー、お役に立てたなら…あと私も早く野菜食べたい…」
見ると、桃の場所には若木が出て来ている。3年は掛からないだろう。
「あ、そういや数学の先生、DIYとか工具弄りが趣味らしくて、パスタマシン作ってくれたんだけど要る?」
「えっ欲しい!!あと腸詰作って行ったら燻してくれる?」
「あ、そんなら腸詰用の機械もあるから持って行きなよ。へへ、これでちょっとはお返し出来るね」
多分腸詰は、シェラドさんが喜ぶと思うんだよね。嬉しそうな顔が見たい。
水遣りも魔力流しも追肥もやったので、今日はお弁当を食べるほど時間が掛からなかった。――ただし。
「千歯扱きするのに小屋が要ると思う。風で実とか飛んじゃうから」
学生達の間から「あ――…」という反応が返る。こっちにも土木の人は居ると思うけど、ただの小屋を建てるだけならシェラドさんと私達でどうにか成りそうな気も…いや、やめておこう。隙間風が凄そうだ。
皆でギルドで土木工事を請け負ってる店は何処か聞いて、頼みに行く。
住む訳じゃなくてただの作業場なので、小屋さえ建てば良いのだと説明すると、面白くなさそうな顔をされた。
「そんなもんなら金1でいい。今建てちまっていいなら明日には出来る」
「お願いします!明日必要なんです!」
私は財布から金を1枚取り出しておじさんにお願いする。
「一番チビに金出させてんのかお前ら…」
おじさんは呆れた顔をするが、シェラドさんのお陰で私が一番裕福なのだ。
でも多分特許を取り始めたら、家庭科の先生が一番裕福になると思う。
「あの、いいんです、私が預かってただけなんです」
「そうか?嬢ちゃんは頭が良さそうだな。騙されたりはしちゃいかんぞ」
「大丈夫です、皆信頼出来る仲間ですから!」
「よっしゃ、それじゃとっとと建ててやるから場所教えな」
王都の外、田んぼの近く――拡張を考えて近すぎない程度に――に、建てて欲しいとお願いする。大きさはそれなりの人数が入って作業出来るように、そこそこ大きめだ。
ガリガリと木で地面に痕を付けて大きさを提示すると、親父さんは少し顔を顰めた。
「思ったより大きいな…金1じゃアシが出ちまう…悪いが銀5追加だ」
「はい!」
私は親父さんに銀貨5枚を渡す。
「よっしゃ。じゃあ明日昼引渡しだ。書類にサインだけしてくれ」
「はい!」
物のついでに私がサインしておいた。
学生たちとエリアに向かって戻る。皆はこれから必死で千歯扱きを作るのだろう。
数学の先生の居る住居にお邪魔し、パスタマシンとミンサーと腸詰の機器を貰って帰る。
「助かります!ありがとうございます!」
「いや、こちらこそ君には随分と世話になっている。これからも宜しく頼む」
浮かれた気分で自分の家へと歩いていると孔が開く。
ささっと見える範疇の異形を光刃で散らして家の方角へ向かう。
担当エリアは家の周辺なのだ。家まで退治しながら戻ると、既にシェラドさんが交戦していた。
私は家に貰った機器を置いて追随する。
「南側はもう駆逐した。西から来たな。殲滅済みか?」
「家の中はまだ!」
「じゃあ西の残りを片付けてくれるか。俺は東方面に行く」
「解った!」
西側守備エリア内の家を確認して回る。
異形の居た家は15件、都内の家の人は隠れるのが上手だったが、重傷者が1名。癒してから次へ向かう。
シェラドさんの行っていない北側だ。北側も先に路上に居るものから光刃で倒し、家の中を探っていく。
こちらは18件。なるべく瞬殺したのだが、軽傷者3、重傷者2、死者なし、という結果だ。
全員癒しておいた。自分達のエリアが終わったら、其処から範囲を広げていく。他の守備隊の人が間に合っていないのだ。
路上の異形をさくさくと処理していくと、気付いた隊員に「助かる!」と礼を言われた。
家の中の6件の異形も瞬殺していく。
――死者1、重傷者2。重傷者は癒すが死者はどうにもならない。
沈痛な顔で次へ向かう。シェラドさんも見当たらないので助勢に行ったのだろう。
結果、王都の約3分の1を私とシェラドさんが倒して回った、という結果になった。守備隊の人は呆然としている。
「獣人と勇者か…なんてスピードで倒すんだ…おかげで死者が大幅に減った!礼を言う!ありがとう!!」
「もうちょっと私の足が速ければもっと倒せたんですけど…すみません小さくて」
「いやいや、あれだけ倒しておいてそんな事言わないでくれ。本当に、助かったんだ、ありがとう小さな勇者」
「学生さん達もほぼ自エリアは死者なしで倒してたみたいだし、君たちは本当に凄いよ。王都に来てくれてありがとう!心から歓迎するよ!」
3名と少ないが死者も出ている事から、歓迎パーティーは日を改めてやりたいと言われ、打ち上げもなしだ。
そのままシェラドさんと手を繋いで帰る。
今日は卵を買って帰ってラードで揚げたトンカツを大量に作った。
シェラドさんはとんかつソースを掛けながら大喜びでトンカツを食べている。
私はトンカツを1枚とパンだ。
ああ、キャベツが欲しい。
食後、私はリムザの腸を丁寧に引っ張り出して、何度も水を変えながら徹底的に洗う。
切った部分から裏返し、中の部分もぬるぬるが取れるまで水を替えて洗う。
これは結構大変だな。腸詰を作るときは一気に作ってしまった方がいいな。
シェラドさんが手伝おうか?と顔を出したので、ミンサーでリムザ肉をミンチにして貰う。
なんとか洗い終わった腸を再度引っくり返し、腸詰め機器にいっぱいいっぱいで取り付ける。
箱部分にミンチを入れて貰って最初は空気抜きのために腸は結ばない。
肉が出て来たところで、余り部分の空気を抜いて端を縛った。
其処からはにゅるにゅると物凄く長い腸詰が出来上がっていくのが見てて気持ち良い。
大体このくらいの長さで捻って区分けして欲しいとお願いし、シェラドさんは捻り係になる。
腸を使い切るまで肉を詰めて最後に縛る。明日は燻製して貰おう。
「この珍妙なものは食べ物か?」
そのまま口に入れようとするシェラドさんを必死で止める。
「まだ!まだ処理出来てないから食べられないの!燻製してもらってから焼いてあげるから!!きっとシェラドさん気に入ると思うから!今はまだダメ!!」
なんとか諦めてもらって、涼しい場所に腸詰を置いておく。豚肉・生駄目!絶対!
次の日に農地へ向かうと、アスパラや桃以外の作物が出来上がっていた。
何てことだ、魔力で促成栽培出来てしまうのか!
なんとなく予感がしていたのか、今日の学生は400名、大きな籠と袋を持って来ている。私にも籠と袋が渡された。
「ユーリちゃんは自宅で食べたい野菜を、その籠いっぱいに取ってくれて良いからね。米も、その袋で必要なだけ持って帰って?あ、種用の野菜と種籾は持って帰っちゃだめだよ」
どれだけを種用にするかはもう学生の間で決めてあるようだ。この生育具合なら、明日には種も取れそうだ。
私はカボチャを一番先に籠の下に2つ、後はキャベツやブロッコリ、茄子やピーマン、ニンジン、玉葱やじゃがいもなどをほくほくしながら採取した。里芋もいい。ぬめりが好きだ。長持ちする玉葱やじゃがいもは多目に貰った。
何故か水のはけている田んぼから、重そうに頭を垂れる稲を次々刈っていき、運ぶのは生徒達に任せる。
そろそろ昼だ。あの小屋、入っていいんだろうか?
まずは私1人で小屋に入ると、作業している親父さんが居る。
「後どれくらいで出来上がりそうですか?」
「よっと!――これでしまいだ。引渡しのサイン貰えるか?」
最後の釘を打ちつけ、親父さんは書類を渡してくる。ちゃんと条項も読んでからサインした。
「ありがとうございました!」
「ん、また何かあったら言ってきな」
親父さんはどっこいしょ、と腰を伸ばすとそのまま小屋を後にした。
周辺に置いてあった千歯扱きを中に入れ、皆がわっと稲を持って押し寄せる。
「先生にさ、精米機作って貰う予定だから、ユーリちゃん明後日あたり取りにおいでよ」
「わ、いいんですか!物凄く助かる…瓶に入れて手で突くと凄く時間掛かるから…」
「うへ。そんなちまちましたの、やってられないよ。明後日まで待った方がいいよ」
「ある程度余裕出来るまで、促成栽培お願いしてもいい?あ、種取って土耕してからだけど」
そういわれると、長持ちしない野菜も多い事に気付く。
それが切れたら数ヶ月野菜なし?…駄目だ耐えられない。毎回促成栽培決定だ。米は様子見てからでいいだろう。
「じゃあ、精米してから持って行ってあげる。米重いからね」
すいません、今回の大籠も充分過ぎるほど重いです…欲張った私が悪いのか、力が足りないのが悪いのか。
「ありがとう!…あの、籠なんだけど、運ぶの手伝って貰う訳には…」
「あ!そうだよね、忘れてた。あの籠ユーリちゃんの身長の3分の2はあるよね…よし、男子に手伝わせて家まで送って貰おう。おーい男共~!」
わいわいと話し合って、3名の男子が籠を持ってくれる事に成った。ありがたい。
私は見ているだけで申し訳ないのだが、かなり長い間、皆は交代しながら頑張っていた。
終わった後の落穂拾いは手伝う。
手伝うが、重くて袋は動かせない。
機械的に置かれている袋に落穂を入れる事に集中する。
終わってみると、綺麗に1粒残さず落穂は袋に収まっていた。
余った茎や葉の部分は藁の代わりに使えそうなので全員で分ける。
大籠に米。皆重さでうんざりした顔になっている。
その上3人は私の家まで籠を運んでくれるのだ。大変に申し訳ない。
だが、嫌な顔もせずに、男子生徒は私の家まで籠を運ぶと、手を振って帰って行った。
私は腸詰を持って、家庭科の先生が居るエリアへ向かう。
燻製して欲しいと差し出すと、快く引き受けてくれた。
明後日取りに来て欲しいと言われたので、精米機と同じタイミングだ。どっちも寄って行かなきゃ。
今日は南瓜でそぼろ煮を作るんだ!!小豆もちょっと持ち帰ったのだけど、シェラドさん甘いもの好きだろうか?
そぼろ煮だけでは肉が足りないであろうシェラドさんには、卵とモウの乳を買ってきて朝のパンをおろし金で粉にして、昨日の挽肉の残りでハンバーグを焼いた。
5つか…足りるかな?心配だったので鳥の脚も焼いておいた。
シェラドさんが帰って来ると、ハンバーグを見て目を丸くしていた。
美味しいよ、と薦めて、ウスターソースを掛けて、ケチャップも少し掛けてどうぞと目の前に置いてあげる。
フォークで刺して1個を一口で食べたシェラドさんは、「んー!」と唸っていたが流石に何を言ったか解らない。
ばさばさ尻尾が振られているので美味しかったのだろう。
私はパンと一緒にそぼろ煮を食べる。ぁあああ米、米が来てから作ればよかった!!
シェラドさんもそぼろ煮を一口食べて少し驚いた顔をしている。
「野菜なのに、これは美味しいな!これならいくらでも食べられそうだ!」
あっ全部はやめて、私の分もあるんで!
脚肉には久々に塩コショウ。ソース味ばっかりっていうのもね。
それも美味しそうに食べてくれる。
基本的にシェラドさんは肉が美味しく食べられればご機嫌だ。
久々の南瓜の味にうっとりしながら、私は少し食べすぎてしまったようだ。
残りはシェラドさんが全部食べた。
明日は種取りと田んぼの整地、土作り。野菜くずもコンポストに入れないと。
魔力を肥料にするなら、連作障害のことは考えなくていいのかもしれない。
お腹いっぱいでうとうとしてると、シェラドさんに風呂に入れられ一通りわしゃわしゃ洗われた。
農作業してるんだから汚れてたよね、うん、お手間掛けさせて申し訳ない。
その後は、落ちるように眠った。
促成栽培が可能なら、王に献上できそうですね。市場で売るのは今の所考えてないようです。何せ自分達の人数が多い。
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