第二十三話 食糧問題と口の肥えた学生達
皆村の食事でもう舌が肥えてしまっているので、今更不味いものが食べられなくなってます。贅沢を覚えちゃったね!
――良く考えたら王都まで電線が引かれて各家庭に配線されるまでは、冷蔵庫もコンロも使えない。
がっくり肩を落として竈を見やる。いや、村へ行くまでは、こんな立派な竈も無かった。
元に戻っただけだ。元に…。冷蔵庫がないから買い溜めは出来ないな。これも元に戻っただけだ。
シェラドさんを連れて市場を見に行く。野菜を探すが殆ど見かけない。
見かけても萎びたようなしょんぼりした野菜が店の片隅に置かれているのみ。
これはダメだ。畑が欲しい。
王都の外へ一歩出ると、平原が広がっている。
農地は見当たらない。他の村から輸入しているのだろう。
ふと気付くと同じように平原を見に来ている学生達が居た。
お互い苦笑し、王への謁見を求めに行った。
「王都の外に農地を作りたいと?」
「はい。市場では手に入らないもので…自分達で作りたいのです」
「ふむ…其処は私の直轄地だ。好きにして良い。農地は新しい守備隊員のものであると周知させよう」
「ありがとうございます」
「うむ」
許可を貰ったは良いが、500人の口に入る野菜や米を育てようと思うと、相当広い農地を作らねばならない。
土から作る事を考えると結構時間が掛かりそうだ。でも私は美味しい野菜が食べたいのだ!
ぞろぞろと300人程出て来て全員農具を構えている。
私はまず、どの位の大きさの農地が必要か話し合ってガリガリと地面に印をつける。
広い。生徒達の学園一つ余裕で入りそうだ。
次いで、川に近い方の土地に米を作る農地をガリガリと印を付ける。
こっちも広いが野菜の農地よりは狭い。川の水位の方が農地より低い。
用水路は深めに掘らなければならない。
他の生徒達が既に耕しに掛かっているので、私は太めで長めの木杭を用意し、光を纏わせて土に半分埋め込み、農地の外側を覆っていく。
最後に買って来た落ちない塗料で『新規守護者達の農地・荒らすな』と書いて金属のワイヤーでしっかり杭に括りつける。
何せ広いので、数メートルおきに括り付けた。
野菜泥棒ダメ・絶対!
一応、効くかどうかは解らないが、神聖魔法を掛けておく。光の盾が使えたのだから行ける気はする。
「この農地に関わる者以外、この地に足を踏み入れること罷りならぬ。守護結界!」
残りの学生200人は狩りで肉と換金を目的に森へ足を延ばしている。お金は500人と私で分けると最初に決めてある。狩り組と農地組は交代制にしているのだと聞いた。
1月後には学園への編入が決まっている。それまでに土を作り上げたい。巨大コンポストを作り、有志で森に腐葉土を取りに行く。
農地で私は光魔法で土を細かく切り裂いて行く。全ての農地でそれをやるとMPがすっからかんになった。
「うわ、めっちゃ柔らかい!耕しやすいよ、ユーリちゃん!」
ぱたりと倒れた私を介抱して木陰に寝かせてくれながら、女生徒は「いつもありがとうね」と言ってくれた。
コンポストまで生ゴミや糞尿を運ぶのも交代制と決められている。
私は、藁を混ぜて置くようにすると水分が減って運びやすいかも、と言っておく。
どのみち汲み取り式のトイレだ。自分達で処理場まで持っていくか農地に持ってくるかの差しかない。
因みに3問題児は農地には近づけないようにするらしい。私が来るからだ。
スライムは他の異世界物語と違って稀少なようで、全都民の汲み取り集積所に20匹くらい放たれている。これでギリギリ間に合うそうだ。
各家に置くほど数が居ないようだ。貴族はそれでも一家に1匹持っているようだが。
私がぶっ倒れるまで光の剣を使っただけあって、腐葉土と混ぜて耕す作業は農地の分は夜までに終わった。
明日は米の農地を耕して水路を引いて行かねばならない。多分水路を引くのは私だろう。
種籾は水に漬けて置くように言ったが、まだ芽が出たばかりで苗にもなっていないそうだ。
私はそれを持って来て貰って光の魔力を流しておく。効果があるかは解らないが、やらないよりは良い気がした。
全員泥だらけの作業となったので、川で手が洗えると言っても、紙で包んだサンドイッチをお弁当にした人は偉いと思った。
全員が帰りに藁を大量に購入しておく。
さて、バスタブは優美な形の物が各部屋、うちにも大きめが1つ、既に配置されていたが、井戸から水を汲んで焼き石を入れるところは変わっていない。
石を焼くのは出来るが、井戸から水を組むのは腕力的に難しい。
悩んでいるとシェラドさんが獲物の肉を抱えて戻って来て、井戸から水を汲んで入れてくれた。
泥だらけのまま調理はしたくなかったので、ありがたくお風呂に入る。
折角の湯だからと、冷める前にシェラドさんも一緒に入った。
木箱を足台に、肉多目…というより、村から貰ったほんのちょっぴりの余り野菜しかない。
袋に入れて塩もみして野菜サラダにする。
肉には村から貰ったソースを使って調理し、市場で買った余り美味しくない硬いパンを添える。
竈にはオーブンも付いてるし、酵母菌を早く育てねば。農業で頭いっぱいで忘れていた。
シェラドさんは肉の多い食卓にご機嫌のようで、しっぽがふりふりしている。可愛い。
「美味い!王宮の肉より美味いぞ!!」
にこにこしながら肉に齧りついているシェラドさんはやっぱり可愛いお兄さんだと思う。
私は皿洗いをしているシェラドさんの横で大口のビンと蓋を煮沸消毒し、酵母菌と水を入れた。
明日の朝にはシュワシュワしてるかな?
期待しながら、今日は早めに眠りについた。
起きたら早朝からパンを捏ねる。1次発酵、2次発酵と終えてテーブルロールを焼く。
私の手でも作りやすいからだ。
焼きあがったパンと肉で朝食にする。焼きたてパンはとても美味しかった。
私が作ったというと、シェラドさんも1つ食べてくれた。嬉しい。
農地に行くと、全員が「…汚れちゃった…」とでも言いたげな切ない顔で石鹸を使って川でじゃぶじゃぶ手を洗っていた。
私もコンポストに生ゴミや汚物を流しいれ、手洗い隊に混ざる。
まあ、気持ちの良いモノじゃないよね。
その後、コンポストに魔力を流して発酵を促進する。充分に発酵して使用可能になった、と思える頃に手を放す。ギリギリ水路を開けるくらいは魔力が残っていそうだ。
田に関しては土地が高すぎるので、稲を植える部分だけは抉っておかねばならない。農地と川、どちらにも充分な畦道を取って、光の剣で切断する。
だが、土の除去は私では力が足りない。皆にお任せだ。
人海戦術でそこそこ早めに土の除去が終わる。
内部の土はそんなに固くなかったようで、皆さくさくと耕していく。
農地よりは狭いので、それも思ったより早く終わった。
お昼にする。昨日と同じサンドイッチだったが、誰も文句は言わない。
何せ物資が足りないのだ。それよりちゃんとふわふわしたパンで作ってあるのが嬉しい。
木串のついたウィンナーを齧る。あ、ちゃんと腸を洗ってミンチにした肉を詰め込んだんだな、と解る味に頬を綻ばせた。多分家庭科の先生が燻製室でも作ってくれたんだろう。
なるべく中央に近いエリアの住宅地で、色々とやり取りしているようだ。交流が出来ていて良かった。
昨日魔力を通した種籾は、立派に苗に育っていた。
「なぁ…」
「ん?」
「田んぼって肥料どうすんだ?」
「堆肥って聞いた事あるけど、コンポストのやつ漉き込んどく?」
「あ――…どうなんだろ…コンポストも使うとして、偶に肥料代わりに魔力流しとく?」
「出来るならお願いしたいわね」
「ん、解った」
堆肥を漉き込んでから低い位置に水路を空けて川から水を引く。
川の高さは、丁度いい具合に田を浸すように高さを調整してある。
水抜き方法に今頭を悩ませてる所だ。刈り入れ前に水を抜かないといけない。
皆で田植えの開始だ。
なんか前世は鳥の糞なんかを肥料にしていた記憶があるが、余り良く覚えていない。
でも確か、田起こしとその後一回何処かで、2回肥料を撒いた記憶が朧げにある。
立派に育て~!と念を込めて魔力を篭めた。
そして魔力切れでぱたりと倒れた。
倒れる前に目に入ったのは、田んぼをすいすい泳ぐ小魚だった。
気がつくとまた木陰で介抱されていた。
「ごめんね…私達ユーリちゃんに頼りすぎだよね…」
「そんな事ないよ!私は力仕事は出来ないから、持ちつ持たれつだよ!」
眠ったおかげで少し魔力が戻っている。動けそうだ。
皆はコンポストから汲み取った肥料を混ぜながら農地を耕している。畝も作ってある。
完全に発酵させた堆肥はさほど臭わない。忌避感が少し薄らいだのか、そこまで悲痛な顔はしていない。
ミミズは益虫だから殺しちゃダメだと言って置く。
女子が殺してしまいそうだったからだ。
種まき班と田植え班に分かれて種を撒いたり苗を植えたりしていく。
稀に通りすがる都民は、妙な物を見るような目でこっちを見ている。
むう。余っても売ってやらないからな!!
ユーリちゃんは頑張りすぎないで、と言われながら、ほじほじと種を撒いて土を被せていく。
今私が持ってるのはカボチャの種だ。
何しろこの国、春夏秋冬にほぼ気温の差がない。むしろ四季がない。
米が育つか心配ではあるが、村では収穫できていたのでなんとかなるのだろう。
上手く野菜が実ってくれれば、余るかは解らないが、余った分は王様に献上しておこう。
種まきと田植えの終わった私達は、「一山超えたねえ!」と喜びつつ、手を洗って帰宅した。
上手く野菜が出来るといいですね。お米も。しかし米を献上した場合、王家は食べ方が解るんでしょうかね
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