第二十一話 恩返しと再会
ピーターさん達は、いつもいつもどうやって恩を返そうか悩んでいます。
隣村は、井戸も出来、男湯と女湯に分けた浴場も出来、40人分の家を建てるのも、そろそろ終わりが見えてきた。
畑などは、朝食後に耕して腐葉土を混ぜ込み、コンポストも作ったようだ。土作りが終われば種を買って植える予定なのだろう。
食事はまだまだうちの村頼りで、その分のお金を払おうとピーターさん達は差し出すのだが、誰もお金を受け取らないので、隣村が落ち着くまでは無料飲食を約束されている。
家が出来上がっていないので、まだ会議堂に住み込んでいる。少しづつ身体も戻ってきており、狩りでの効率も上がったようだ。
毎日沢山の獲物の肉を村に提供し、素材はギルドで売っているようだ。
私は中学生になった。勉学についても、小6からやり直したお陰でなんとかついていけている。一応優等生な点数は取っている。1位はムリだった。
周りはそのまま持ち上がっているので、面子に違いはない。説明のしなおしが必要ない分ラクチンだ。
学業に押されて狩りや鍛錬の時間が減っているのだけは不満だ。
「身体、もうすぐで戻りそうだね…ピーターさん達」
「そうだな。…王都へ向かうのももうすぐだな」
「…村から、離れたくない…」
ぽつ、と零すとシェラドさんが頭を撫でてくれる。ぽろ、と涙が零れた。
王命であるからには断れない。延期して貰っただけで破格と言える。
だが、あの怪しい魔力に関しての情報が手に入るかも知れない。其処だけが利点の王都行きだ。
「身体が戻るのは良い事なのに、喜べないなんて複雑な気分だよ…」
「…安心しろ、何処に行っても俺はお前の保護者だ」
ぎゅうっとシェラドさんに抱きつく。
一度家族として受け容れた者に何処までも優しい、狼の獣人の特性が凄く助かっている。
「王都行きまで、もう少しある。充分にこの村を堪能して、忘れない記憶に刻むよ」
「そうするといい。この村の人々は気持ちが良い者ばかりだ」
原油は動物の近づかない沼、と言われてる場所から湧いていたようで、原油や鉄や銅と鍛冶職人が寄越された事もあり、今村は忙しい。
ピーターさん達が、電気会社への行き来に関して護衛を買って出てくれる。食事もピーターさん達の残りの人が運ぶのを受け持ってくれる。
やっと一つ恩返しが出来る、とピーターさん達の顔は明るい。
「ほんとに貰うばっかりだったからな、心苦しかったよなあ」
「やっと1つ、って所ですよね。フィグスが持ってた趣味の家庭菜園の種、もしあの村にない野菜だったら分けような」
「そんなの勿論だ。後出来ること……あの村かなり生活レベル高くて貢献するの難しいな…」
「鳥の羽毟って羽毛布団作って配ってみるとか…」
「いや、もう持ってそうな気がする…」
「あ、枕、藁詰めの枕配られてたから枕を羽毛枕で配ってみるとか!」
「ああ、それはアリかもな」
荷物を運びながら、村へ如何に貢献するかを話し合う彼らの顔は明るい。
身体の肉付きは7割戻ったという所か。
これも全て村のお陰だと、ピーター達の感謝の気持ちは深い。
襲い掛かってきたピアンサもざっと擦れ違い様に首を刎ねる。
「剣も切れるし、ほんとに有り難い…こいつは肉も美味いし皮も高く売れるぞ。やったな」
「異形を倒すのも楽になったしな。感謝しかないな」
「取り合えず鳥用に銃はもう弾切れだから弓を作ろう。確か竹あったよな?」
「竹弓か。届くかな。あの鳥かなり高いとこ飛んでますよ」
「ダメなら軍の施設に戻ってボウガンやらコンポジットボウを持ってくるか…ちょっと距離はあるけど、モノは確かだ。矢はなるべく回収、足りなくなれば木材から作るしかないな」
「海には岩場ばかりで森もなかったから使えなかったですけど、ここだと補充できますしね。剣もあれば良かったですねえ」
「現代の戦争で剣使う奴なんて居るわけないんだから其処はしょうがないさ」
「まだ10名ほど人手がありますから、今のうちに携帯食料と水を持って行って駐屯所まで行って貰って取りに行って貰いますか?」
「そうだな。そうするか。10人居れば40人分の装備は取ってこれるだろう」
今の食事を届けて帰ったら、留守をしている10人に伝えよう、とピーター達は話し合った。
歴史の授業は、日本のものではなくこの世界の歴史を学ぶ。
500年前の巨大孔の一件から、約10年ごとに巨大孔が開き、あちらの人間が送り込まれてくる、とも。
そして文化の発展もそれに伴って向上したと説明される。
それはそうだろう。あちらの人間の技術をどんどん積極的に取り入れているのだから。
獣人の国とは全く違う。あちらは技術の大事さを知らない。
『今』を維持することに心血を注いでいる。そして人間の事は奴隷程度の認識しか持たない。
そのうち学園の生徒はこちらに移ってくると踏んでいる。許可があろうがなかろうが、あの国のやり方では不満も爆発するだろう。
…この村に来るだろうか?王都に来たりしないだろうか。
あれだけの数の戦士なのだ。王都に招かれてもおかしくない。村では戦士が多すぎる事になる。
ぁあ、私はきっと寂しいのだろう。知り合っては別れ、知り合っては別れ。こちらに来て、そんな事ばかりだ。
授業を受けながら溜息をつき、早く村に帰りたいな、と思いながらもノートを取る。
そう、紙も鉛筆も消しゴムまであるのだ。こんな末端の街ですら。獣人の国が如何に貧しい生活レベルなのか、身に沁みる思いだ。
特に人の国の領域が多いという事もない代わりに1国しかない。
全てあの王が差配しているのだとしたら、大した手腕だと言うしかない。
個人的にはあまり信用出来ないが、国の上層部というのは腹が綺麗なままでいられないものだ。
ある程度の悪事も許容しつつ、バランスを保っている。やり手なのだろう。
実際、民衆の支持は極めて高い。
今回の送電事業にも沢山の人足も補充され、鉄塔を建てる手伝い――あくまで手伝いしか出来ないが――をしてくれている。鉄骨を運んだり持ち上げたりする力の要る厳しい労働だ。
賃金は王都から出ているとの事で、食事と寝床だけを与えて欲しいと手紙に書かれていたらしい。
会議堂で寝る人がまた増えた。マットレスや布団などはギリギリで足りず、2人だけ同じ布団で寝て欲しいとお願いした。少し広めのマットレスがあったので、2人は其処で寝る事になった。
授業が終わり、村へ戻ると、騒ぎが起きていた。異常な人の数だ。そして見覚えがある。
「ユーリちゃん!!」
「ユーリちゃんだ、ほんとにこっちに居たんだ!」
「あのね、もう獣人のやり方に耐えられなくて出てきちゃった」
皆大荷物を抱えている。
「あいつら俺等のこと、便利な道具くらいにしか思ってないんだ、いい加減もう我慢も限界だった」
皆口を揃えて獣人の国の悪口を言う。シェラドさんの尻尾がしなっと垂れている。
「あっ、シェラドさんは違うからね!!いつも本当に助かってた!ありがとう!」
「いや、礼を言われる程の事はしていない」
「あとね、ユーリちゃん、皆頑張ったんだけど、…バスタブだけは重すぎて運べなくて…」
「いいよ、また作れるよ」
嬉しい顔ぶれだが、どうしようか。村の許容量を遥かに越えている。私は決断した。
まずはピーターさん達を守備隊に推薦する。肉付きもほぼ戻っているし、腕前はシェラドさんのお墨付きだ。
守備隊隊長は、顔を綻ばせて、「40人も…!もう被害者を出さなくて済むかも知れない!」と大喜びだ。
ピーターさん達も、普段は普通に過ごし、有事に人を守る、というこの仕事に非常に前向きだったので、キラキラした顔をしている。
後は当人同士で話し合って貰う事にして、私はシェラドさんに王都まで運んで貰う。
学園の皆はテントを人数分用意したようで、今夜は凌げるだろう。
食事も、毎回はムリだけど、偶に差し入れしたいという村の有志から食事を配ってもらって、美味しさに涙が出ていた。
「こんなの食べたらもう二度と獣人の国になんか行けない!!戻るもんか!!!」
スプーン片手に学生が宣言していた。
夕刻が終わり始める頃、王都に到着した私達は、また王への謁見を申し込む。そして名前パスで通された。
「そろそろ王都に来てもらえる、と思って良いのだろうか?」
「…はい、覚悟を決めました。それと、追加の戦士を一緒に引き取って貰いたいのです。」
王都は街の20倍程も広く、住居も沢山建っている。この範囲をカバーするのならば500人居ても問題ない筈だ。
「ほう。戦士を。それは助かる。全く数が足りておらぬのだ。して、何名だ?」
「500名近くですね。引き取れますか?」
「なんと!一気に戦士不足が解消されるではないか!当然引き取らせて貰おう!だが、家はお前達のものしか用意しておらん。故に1月時間をくれ。全ての建築屋を集め、500人入れる巨大な寮を建築する」
「1月で作れるものなのですか?」
「人海戦術になるがな。可能だろう」
「私達は…」
「良い。その者達と共に来たいという事だろう。構わない。急にそれだけの人数の件を言い出したのだ。街や村が混乱しておるのだろ?」
「…お察し頂きありがとうございます。1月の間、なんとかかの者達の住みかをどうにかせねばならないのです」
今日一日はテントでなんとかなるだろうが、1月もテント生活はキツかろう。風呂は村の者に借りて欲しい。
「失礼ながら、扱いと給金を提示頂けますか」
「扱いは普段は町民と変わらぬ。孔が開いた時のみ、守備隊としての働きを求める。それぞれエリア分けして受け持って欲しい。本来そのエリア毎に寮は分けたいのだが…一応聞いておいて貰えぬか。それと給金は月に1人金貨10枚だ」
かなり破格の値段だ。街の守備隊でもそんなに貰っていない。
後の問題は調味料か。
「しかと伝えます。で、調味料の話なのですが…」
私はこの王都の調味料が、村のものに劣っている話をする。王は難しい顔をした。
「ふむ…調味料を手がけている職人を何名かそちらに勉強に出そう。そうすれば王都でも同じ味のものが出来るだろう」
「御配慮痛み入ります。今回の用件はそのくらいです」
「うむ。下がってよい。良い返事を期待しておるよ」
「はっ」
帰りは前回と同じ夜駆けで、日の出る頃に村へと着く。
へろへろになりながら、学園の皆を一箇所に集める。エリア毎に分けて住居を用意したい、という先方の希望を伝えると、ざわざわと騒ぎが起きた。
「同じ街の中ならいいんじゃね?俺らもそれなりにグループできてるし。給金がいいなら外食も出来るだろ?」
「ん―――、グループの数に合わせて用意してくれるならなんとか…」
「先生達は各住居に1名づつ居て貰うようにして欲しいな。やっぱり大人が居ないと心細いわ」
それぞれ色々と意見の出る中、エリア数、住居数を書き出していく。
概ね皆が納得する振り分けになった所で、それを手紙に認めて王都へ出す。速達があったので、それを使った。
多分皆高校へ通う事にもなるだろうと話をして、私は体力が尽きる。
一言断ってから、自室でぱたりとベッドに倒れこんだ。
顔見知りと一緒に王都へ行けることになって、ユーリさんは内心物凄く喜んでいます。
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