第十八話 小学校と領主
初めて街の領主さんに御対面です。
そのような予定はない、と落ち着き払った国王は言った。信用出来る訳がない。
もし獣人の国に魔法で攻める心算であるならば、光の盾で対抗出来るよう、私は訓練し始めた。
獣人の国で戦争に駆り出されるとしたら、学園、駐屯地、そして戦士達だ。平民はシェルターに篭るだけだろう。
あの国王はダメだ。何かの不都合を隠している気配を感じる。
獣人の王には逢った事はないが、平民の状態を放置し、学園や駐屯地に対する支援の薄さを見ている限り、碌なものではない。どっちにも所属したくない要素がありすぎて頭を抱えたい。
しかし現在は人間の国に所属となっている。せめて侵略戦争を起こす気ならば離反すら辞さない。
「どうにもならないものだねえ、シェラドさん」
「うむ?難しい話か?悪い、俺は余り頭の方は回らなくてな」
シェラドさんはぼりぼりと頭を掻く。これはシェラドさんだけの話ではない。獣人の特徴のようなものだ。その分肉体の能力が人間では比にならない程発達している。
村の人間は知る由もないだろう、いつも通りの笑顔で村を更に発展させようと頑張っている。IHの風呂も作ろうと相談しているようだ。
今すぐの話ではないのだ。私は一旦情報を胸の内に沈めた。幸い、巨大孔の発生時に備えた避難訓練などは守備隊がしてくれているようだ。
私達も狩りへ行こうとすると、守備隊の人が私を呼び止める。
「君、学校行ってないよね?義務教育なんで、通って欲しいんだ」
「えっ…」
「今5歳だったかな。この国では5歳から教育が始まるんだよ。初等学校へ入学してくれないかな」
「ええと…ああ、でも義務、という事は拒否権はないんですね?」
「そういう事なんだ。保護者はこちらのシェラドさんでいいのかな?」
「ああ、そうだ。保護者だ」
「書類などにサインを頂きたいので、ユーリちゃんと一緒に来て貰えますか?」
どうしよう。困った。今更小学校レベルの団体に、私は違和感なく紛れ込めるのだろうか。かと言って、せめて高校に、と望んだ所で、高校レベルの勉強の事などもう忘れてしまっている。冷や汗が出る。
そうだった。前世もこっちで学校に通っていた。多分今はもっときちんとした施設になっているのだろうけれど、寺子屋、というレベルの学校で、一定年齢まで教育を受けていた。
当時もあちらから来た人間はそれなりに居て、教師だった人たちに高校レベルまでの学問を義務、とされたのだった。
これに関して国は予算を惜しまず、教育は全て無料だった。今もそうなんだろうか?
「うむ、勉強か。人間の国は大変なのだな。解った。同行しよう」
「は、はい…いきます…でもシェラドさん、そうすると私、孔の対処や狩りが…」
シェラドさん、頷いてくれー!
「学校のある場所から孔の処理をしてくれればいい。狩りは俺だけでちゃんと余分に狩れるから安心して勉強をするといい」
シェラドさああああああん!!!
私、図画工作でお絵かきとかせにゃならんのですかー!
「…学校、遠いですか…?」
「街中でも中央の方にあるよ。そこまで遠くないから心配しないでね」
ああ、あの巨大な建物、学校だったのか…良く守備隊で孔処理出来てたな。
それなりに怪我人・死人が出ているんじゃないかと思う。一応避難場所なんかもあるだろうけど、そういう場所こそ孔が開き易いからなあ。
どうしようもない。私は色んなものが崩れ落ちる思いで学校へ行く事を承諾した。
学校へ行き、編入生として紹介される。守備隊のような戦士である事も紹介された。
お陰で休み時間になった途端に小さな子達にわっと群がられてしまう。
「お前みたいなチビがなんで戦士!?絶対嘘だろー!」
「何で闘うの?剣とか凄く重いって聞いたよ?」
「まさか素手じゃないだろ?何で闘ってるんだよ!」
仕方なく私は皆に離れて貰い、光の剣を出す。
「私は勇者だから。これで闘うの」
「勇者!?何それカッケー!うちの親父より強そうだな!」
「すごーい!!」
「それ重くないの!?」
「軽いよ。私専用だから。――あ、触ったら切れるから、触っちゃダメ!」
光につられてか、剣先を触ろうとした子が居たため、私は剣を解除する。
授業。懐かしいおはじきを使っての計算。いや…これが出来て褒められてもね…うん…。
褒める教師のすぐ横に孔が開くのが見えた。
出て来た異形を即座に光刃で仕留め、先生への被害をなんとか0にする。
「皆教室に篭ってて!!私は他のクラスを見てくるから!」
異形は大きいので窓越し、確認するだけで居るかどうかは解る。異形の居る教室に、窓越し、光刃で異形に止めを刺しながら走る。
私の足は早くないが、なんとか全校舎、全クラス、教員室を網羅した。
体育館と校庭に居る異形に、生徒へ当てないよう細心の注意を払って光刃を飛ばす。片付いた後に守備隊が漸く到着する。
これは確実に警備が間に合っていない。私が来たのがむしろ良かったのかもしれない。
「もっと守備隊の人を増やせないんですか?」
「お嬢ちゃんが居てくれて助かったよ…うん、あのバケモノと闘える人はそう居ないんだ…守備隊に志願してくれる人もそうは居ないから、勝手に訓練を押し付ける訳にもいかないしな…」
守備隊のお兄さんは苦笑する。
「外は片付きましたか?」
「高校と中学の校舎は手分けして退治できてる。街中は別働隊が見回ってるよ」
「…私が居るからって小学校を後回しにしましたね…?」
「より深刻な場所から回る事になってるからな。すまん」
「いいんですけど…この身体じゃ足が遅くて間に合わない事も出て来ると思いますよ。いつもはシェラドさんが抱えてくれていたから速度が補えたんです」
「それでも本当に人数が足りないんだ。頼む!」
獣人の戦士さん達は人数が少なくても足の速さと倒す速度が尋常ではなかったからあの人数でなんとか賄えていたのだと今更ながらに思う。はぁ、と溜息をつく。
「…他に人が足りない場所は?」
「村にはシェラドさんが居るし…街の北部が怪しいな」
「抱えて走ってください」
「解った」
北部はなんと領主の館がある一帯だった。私兵は居るが、此処から見ても血だまりが確認できる。犠牲者が出ている。
「ぅあああああ!来るな!来るな!!」
兵士の叫び声がする方をさっと振り向き、光刃を飛ばす。襲い掛かっていた異形は仕留めた。
塀の外の一角に、異形が溜まっているのが見える。生きた人が居ないのを確認し、光刃を振り撒く。瞬殺した異形達の影から、残された足が覗く。
塀の外側にはもう異形が残っていないのを確認し、守備隊のお兄さんに告げる。
「館内へ!」
館内に入ってすぐ疎らにうろつく異形が見える。人の姿は見えない。さっさと光刃で倒して各部屋を見て回る。
領主の執務室には2匹の異形が居たが、領主の影はなかった。
さっさと2匹を倒すと、分厚い執務机の影から、領主が這い出してくる。
「館内にはそれぞれ緊急時には此処に隠れろ、と各々伝えてあるのでほぼ大丈夫な筈だ。早く助けに行ってやってくれ」
言葉どおり、異形を倒すと物陰から人が出て来る。凄く訓練されていると思う。全ての部屋の異形を倒し、犠牲者は私兵が5人死亡、重症1名、という結果に終わった。
重傷者は足を失っていたので、私がその傷に手を翳す。
「…光よ…癒せ」
まだちょっとくらっと来るけれど、兵士の足は戻った。
「…雇う私兵の質をもっと上げないといけなかったのだな…彼らには申し訳ない事をした…」
落ち込む領主を見て、なんとも言えない心地になる。
兵力を売りにしていたのだ。日頃からの研鑽が足りなかったのではないだろうか。
「私兵を雇った後、グループで分かれて日替わりで守備隊のお兄さん達と訓練してはどうですか。どんな武器も、磨かなければ使い物になりません」
「そうか。実際退治出来ている集団と共に腕を磨けばいい、という事か。早速意見は取り入れよう。新しく兵を雇ったら必ずそうする」
「まあ…俺等はこのお嬢ちゃん一人の殲滅力にまるで追いつけませんけどねえ」
「そう卑下するものでもない。勇者であるユーリ殿と比べてはいけない。君達はいつも我が領民を守ってくれている。有り難い事だ。これからも宜しく頼むよ」
「は…はいっ」
この領主には好感が持てる。自分達を後回しにしてでも先に民を優先している。そして自衛を徹底し、自分達にも出来る事をやっている。うん、いい領主だ。
学校では、今日は授業は終わりとなり、皆家に帰る事になった。重症者や死んだ子は居ないかと聞くと、対処が早かったのでその心配はないとの事。
割ったガラスで少し切った子はいるようだが、そのくらいだ。先生が1人、腕に大きい切り傷を異形に付けられていたため、それは光魔法で癒した。
家に戻ると、平常運転のシェラドさんが労ってくれた。
シェラドさんに訓練をお願いする事も考えたんだけども、流石に獣人の体捌きについていけというのも酷な話だ。言わなくて良かった。
村民に被害は特になく、軽傷で済んだとの事。私はほっとする。
領主が「異形が現れたら焦らずすぐに物陰に隠れろ」というのは街にも村にも伝わっているようで、それでかなり被害が軽減されているようだとシェラドさんは言った。
やっぱりあの領主さんには好感が持てる、と再確認した。
成人の記憶がありつつ小学校に通うのはきつそうだなと思いますが、がんばれユーリさん!
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