第十七話 お見舞いと王都
神聖魔法の特訓も必要そうですよね。
目を醒ますと朝だった。心配そうな顔をしたシェラドさんの腕の中で目を醒ます。まだふわふわしている私の頭を撫でて、シェラドさんは私を労ってくれる。
「良くやった。これで被害はほぼなし、と言っても良い状態だ。だが無理は良くない。ちゃんと使えるようになるまで、少しづつ訓練してから使うべきだったな?」
「心配かけてごめんなさい…」
ゆっくりと起き上がると、特に身体に不調は見られなかった。キッチンまで水を飲みに行くと、冷蔵庫にパンパンに食材が詰まっているのが見えて吃驚する。入りきらなかった作物が、冷蔵庫の横の籠に入れて置いてある。
「オミマイ、と言って村の人が持って来てくれたぞ。肉以外は良く解らないから適当にその冷たい箱に突っ込んでおいた。ジュース、という飲み物もあるぞ」
私は折角なのでそのジュースで喉の渇きを癒す。ジュースは甘く、桃の風味がした。似た作物があったのだろうか。久々の味に泣きそうになる。
「美味しい…!」
カボチャもある。カボチャと挽肉で蒸し焼きにしてタレを掛ければシェラドさんも食べてくれるかな。差し入れに醤油と砂糖と味噌、それに白米があったのだ。物凄く嬉しい。
「皆にお礼言いたいけど、誰から貰ったか覚えてる?」
「いや…すまん、数が多くて…」
カボチャや芋を冷蔵庫から籠に移し、豆腐や納豆、牛乳を冷蔵庫に入れる。
「でも、村の人にお礼は言いに行きたいな、外に出よう?」
外に出ると、井戸の近くで井戸端会議をしているおばさん達が居る。声を掛けてお礼を言う。
「お見舞いありがとうございます!ジュースも美味しかったです!」
「あらあら、もう身体は大丈夫なのかい?退治だけじゃなくて癒しまでしてくれて、私達の方こそ感謝しかないのよ」
「そうそう、またオバケが出たらお願いね」
「採れたての大根、食べるかい?」
「いえいえいえ!今家は食材でいっぱいなので、これ以上いただく訳に行きません!」
果たして納豆はシェラドさんは食べれるだろうか。試してみたい。
その後も通りすがる住民にお礼を言って回り、夕刻には引き上げた。
カボチャのそぼろ煮、ビッヒの丸焼き、リムザのトンカツ、そして白米と納豆。
粘ついて変色した豆を見て、シェラドさんの眉が下がる。
「食べ物…なのか?」
「身体に凄く良い食べ物なんだよ。一口だけでも食べてみて?」
見よう見まねで醤油とからしを入れて納豆を混ぜ、白米と共に口に運ぶ。
もごもごと咀嚼しているうちに、表情が変わる。意外な事にシェラドさんは納豆と白米を気に入ったようだ。
トンカツなども、白米と一緒に食べている。パンは好きじゃなかったようだが、白米はお好みだったようだ。
「このコメというのはどんなものと一緒に食べても合うのだな。凄いな!」
あっちこっちにフォークやスプーンを伸ばし、カボチャのそぼろ煮も食べて美味しそうな顔をした。醤油自体も好みだったようだ。
「甘いのとしょっぱいのが丁度良い!凄いな、こんなものは獣人の国にはなかった。うむ、美味い」
トマトも一杯ある。早めに食べなければならない。ミートソースでも作ろうか。確か街にパスタが売られていたはずだ。
「明日も美味しいの作るね!いっぱい食べてね!」
そんな食事中に、ドアがノックされる。
「はあい?」
訪ねて来たのは守備隊の人だった。何かの書面を携えている。
「王都より召喚状が届きまして。勇者に一目逢いたいと、国王自らの申し出ですので、断れないんですけど、大丈夫ですか?」
国王。私の前世とはきっと替わっているのだろうな。でも断れないのは解るので、了承する。
「解りました…1週間後に王都ですね。地図はありますか?」
「はい、此処に。どうぞ御持ちください」
「こっちで勝手に移動しても?」
「馬車が迎えに来る予定だったようですが…」
「ではその馬車に乗った方が良さそうですね…保護者同行で構いませんか?」
「まだ5つですので、それは大丈夫でしょう」
「正装は持っていません。この服のまま行きます」
「あちらでお二方の衣装を用意するよう伝えます」
「…解りました」
やっぱりあの窮屈な衣服を着なければダメか。
「シェラドさん、付いて来て貰っても良いですか…?」
「勿論構わない。子供が遠慮するものじゃない」
ぽんぽん、と頭を軽く叩かれて笑顔になる。
「馬車は5日後昼に来ます。用意しておいてください」
「わかりました」
以前の王も、何かと勇者勇者と呼びたてて、自分の権威を大きく見せるのに利用されていたな、と思い出す。
今回の王もそうなんだろうか。しかし私の見た目はただの幼女だ。多分そうそう呼び出すこともないだろう。
多分今回呼んだ後は成長して見た目が勇者らしくなるまでお呼びは掛からないと踏んでいる。
書状を持って家に入り、食事の続きをする。醤油の味が懐かしくて、納豆も懐かしくて、美味しくて箸が止まらない。
ちょっと食べ過ぎてしまったかな、という辺りで箸を置いた。シェラドさんは残った料理を全て平らげた。なんならまだ入りそうな雰囲気だ。
「足りない?鳥でも焼こうか?」
「いや、充分だ。どれも美味しかった。ありがとうユーリ」
お米は切らさないよう街か村で買わないといけないな、と思った。私達は戦士の仕事で守備隊から月に1度給金を渡されている。それに加えて獲物の素材を売っているお陰で、家計には余裕がある。
農作物を守る為に、リムザとビッヒの駆逐も毎日欠かさない。
お陰でウチの村からは、あまり街に肉を買いに行く人は居なくなった。
「5日後にちょっと王都まで行って来るから、留守の間にオバケが出たら、街の守備隊の所に逃げてね」
「留守って言っても3日か4日程度だろ?大丈夫だと思うけどなあ」
「まあ、でもいつ孔が開くか解らないから気を付けるようにするわね。ユーリちゃん達こそ、道中気をつけてね」
「はい!」
そして5日後、迎えの馬車が到着する。従者らしき人が、私とシェラドさんの格好を見て鼻で笑ったのを私は見過ごさなかった。
「どうも迎えの方は私達に納得が行かないようですね。なら今回の招聘は辞退します」
ぎょっとした従者が慌てて取り繕う。
「そ、そんな事はありませんとも!!わ、わたしが気に入らないからそんな事を仰るのですか!?」
「いや、あんた私達を見て鼻で笑ったの見てたから。それでも王都に来て欲しいって言うなら、あんたの同乗を拒否する。歩いて帰れ」
「なっ…!!」
他の従者はその従者に呆れた顔をしてさくさくと私達の用意を整え、従者を締め出す。慌てた従者が扉に縋りつこうとするが、馬車は意にも介さず発車した。泣き顔になりながら馬車を追いかけて来る従者は完全に無視した。
丸一日掛けて馬車は王都へと着く。道中の食事は獣人の事を考えてもいないような肉の少ない食事で、シェラドさんは少し不機嫌だった。
獣人の保護者が同行する事は伝えてあった筈なのに、と私も不機嫌だ。それに気付いた従者達は肩を落としていた。
それよりも気になる事がある。神聖魔法ではない魔法の気配が王城を包んでいる。そんな魔法が見付かったという報告は聞いていないし、前世にも耳にしなかった。何か不穏な空気を感じる。
着替えさせられ、王との面会時間になる。私とシェラドさんは王の前で膝をつく。
「良い、頭を上げよ。顔が見たい」
落ち着いた優しい声が響くが、それを裏切るビリビリするような魔法の気配に、酷く落ち着かない気分になる。多分これを感じ取れるのは勇者である私だけなのだろう。
顔を上げると、優しげな70台ほどの白髭のお爺さんが居た。周囲の人間に持たせた褒章らしきものを私達の元へ持ってくる。それを受け取って、簡単な挨拶をした後は下がるように言われる。私は振り返り、一言だけ質問をした。
「新魔法ですか?何処かと戦争でも起こすおつもりですか?」
「そのような予定はない」
流石に国王だ。焦った様子もない。
ただただ不穏さだけを感じた王都行きとなった。
帰りは馬車より早いシェラドさんに抱えられ、さっさと村へ帰る。ピリピリしていて、村の皆にお土産を買ってくるのを忘れた事に気づいたのは、家に戻ってからだった。
雰囲気が不穏だけど、不穏さの理由が解らない不気味な王都行きとなりました。
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