第十三話 物資と追放
獣人の国で人間が暮らすのは大変なようです
シェラドさんが綺麗になって、イケメン度が上がった、と村落で噂になった。
それを私に根掘り葉掘り聞こうとして来る人が居るが、石鹸もシャンプーもないのにどうしようもない。湯だけであの頑固な汚れが落ちると思えない。言葉を濁して誤魔化すしかないが、結局執拗に迫ってくる獣人のお姉さんに抗いきれず、シェラドさんを洗った事を白状した。ただ、1つ釘を刺す。
「ぜったいに、がくえんの人からせっけんやシャンプーを取らないでください。取った人はつかまえてばっします」
それを聞いた獣人の人々の顔が歪む。完全に人間よりも獣人が上だと思って居なければ出ない反応だ。学園の人々が生み出した貴重な品をなんだと思っているのか。せめて作り方を学んで自分で作れ。
それを伝えながら睨むと、何人かが目を逸らした。
学ぶ気がある者のみ連れて行く、というと、逡巡した後にやっぱり綺麗になりたいという気持ちが強かったらしい獣人の女子が5名、来る事になった。私はシェラドさんに伝え、絶対に獣人が学生や先生に無体を働くことがないよう、一緒に監視をお願いしながら抱えられて学園へと向かう。
家庭科の先生に2mの距離を取って逢わせる。石鹸とシャンプーの作り方を教えてほしいのだと伝えると、メモを書いて渡してくれる。日本語だ。しょうがない。
私はそのメモをこちらの言語で書き換えていると、現品を渡せと言い出した獣人女性が居る。私は無言で光の棒を出すと、その女性を叩きのめした。そしてまたメモに戻る。完全に翻訳できたメモを、後ろで怯えている獣人の女性に渡す。
「わたしはゆうげんじっこう。やくそくをやぶったそっちが悪い」
シェラドさんは当然という顔で獣人女性を眺めている。私は石鹸とシャンプーのお礼に男湯女湯の2つ分のバスタブを作ってから帰る、と伝えて獣人女性を帰して貰うようお願いする。
そして、家庭科の先生に、私が不在時に強奪されるような事があれば教えてくれるようにお願いする。そんな事があれば私が取り返すと約束した。
岩壁層の並ぶ地帯まで行き、大容量のバスタブを2つ削り出す。排水用の穴を開けるかどうか、先生方と相談した。
ゴムがない。コルクならなんとか作成できると科学教師が言うので、排水用の穴も空けた。岩で出来た巨大バスタブだ。人間の力では持ち上がらない。先に置く場所を確保して貰うよう先生方にお願いする。
シェラドさんが戻ってきてから、一つづつ、先生方の指定した位置に設置する。男女の更衣室から移動できるように施工するとの事だ。焼き石で湯にするのは言わずとも理解していたようだ。
もう少しでお風呂に入れる、という事で生徒たちのテンションは高い。これまでにないくらい御礼を言われた。
「もう諦めかけてたの!!本当にありがとう!川と石鹸でなんとかするしかないと思ってたわ!!」
「お風呂~!!やだ、涙出そう!嬉しいよお、ありがとうユーリちゃん!!」
「俺たちも気持ち悪かったんだよ、風呂、マジで助かるわ!」
「ありがとうな、ユーリちゃん!」
「どういたしましてー!早く入れるようになるといいね!」
今度は作物や果物から作ったというソースと、髭剃り用に作ってみたというカミソリをお土産に貰って、シェラドさんと2人で帰る。いっぱい手を振った。皆もいっぱい手を振ってくれた。
今日の肉にはこのソースを掛けてシェラドさんにも食べてもらおう。塩コショウだけが調味料だと思って欲しくない。
夕食に出たゴンドにソースを掛けて食べて貰ったら、シェラドさんの顔が輝いた。美味しかったらしい。
「このソースというのも、こっちで作れないか?」
「作物がないから無理だよ。こっちじゃ材料が肉しかないよ。果物くらいは取って来れるけど…」
「むう。畑というやつか…難しいな」
「うん、ムリしない方がいい」
「無くなったら何かと引き換えにソースがまた貰えるよう交渉するか…」
シェラドさんのこういう公平な所が凄く好きだ。
髭も剃ったお陰かかなり若く見える。イケメンに磨きが掛かった。
今晩もちゃんとお風呂に入ってから就寝する。
村落を歩くシェラドさんの姿に注目が集まる。集まるけれど、人間にお願いをしたりナニカをしてやるという事が獣人の矜持に引っ掛かるのか、羨ましそうに見るが質問したりはして来ない。
獣人の戦士達はそうでもないのだが、獣人の平民達を私は好きになれない。多分ナニカしろと言われても従うことは無いだろう。
戦士達は、『羨ましいけど、引き換えに出来るようなものは持ってないし、あんまり貰っちゃあっちの分がなくなるだろう?』と苦笑していた。
レシピは教えておいたが、いずれウチから石鹸とシャンプーを分けてあげようと思う。髭剃りはシェラドさんのものほど精度は良くないが、それなりの薄刃で刃物を作ったようで、剃り残しはあるが髭を剃って男前があがっていた。
石鹸とシャンプーは作り方を聞いたのでウチでも作っている。石鹸の乾燥期間が長くて、無くなるまでに間に合うかな、と言ったところだ。でも、続けて仕込んで、出来た分を戦士達に分けてあげようと思った。
獣人達は、あまり細かい作業が得意ではない。レシピは渡したが、石鹸もシャンプーも上手く作れるかは解らない。計量などに関しても大雑把なのだ。あの女子獣人達もどうなっただろうか。
この集落には10人の戦士が居る。いざとなったら10人分のバスタブくらいは作る心算だ。
獣人の平民達とは関係がギスギスしてきている。そもそも私が人間なのだ。それと同居するシェラドさん。そして学園で棒で殴り倒した件が尾を引き、かなり仲が悪い。
しかし私は何も手を打たなかった。話し合いでどうにかなる問題ではないからだ。私が人間だから、マトモに意見を聞いては貰えない。
気がつくと獣人の平民が詰めかけ、村落からの追放を告げられることになった。
シェラドさんは犬歯を剥き出し、平民達を家から追い出し、さっさと家を引き払った。バスタブに荷物を詰め込み、以前来たキャベツの群生地の近くまで移動する。
「シェラドさん、わたしのせいでごめんなさい」
「ユーリは悪くない。奴らの性根が曲がっているんだ。以前から気に入らなかった。丁度いい機会だった」
南側の孔の処理をどうする心算なんだろう、というのだけはちょっと気になったが、自分達で追い出したのだから、なんとかするだろう。
獣人の家の作りは単純だ。取り敢えずは一旦簡素な家を建てて浴室も作ってくれる。ちゃんとした家にするのには数日掛かるだろう。
家作りも狩りも二人で協力し、余った時間で家の素材の木を集める。木を切ったりは出来るけれど、運んだり組んだりという力仕事は私には出来ない。申し訳ないので、薪を作ったり家の直ぐ近くに井戸を掘ったりする。
そうしているうちに、立派な銃人風の家になって、井戸も屋根をつけて桶で汲める様に細工して貰った。
戦士さん達と逢えないのは寂しいが、正直獣人平民との関わりがなくなったのは嬉しい。ただ、布だけはどうしようもない。今ある分が擦り切れたら新しい布を何処から手に入れようか。
「人間の国に行けばあるんじゃないのか?」
「あると思うけど、人間の国はつうかでやりとりしてるから、ぶつぶつこうかんじゃ買えないんじゃないかな」
「通貨、か。少しならある。以前獲物などを売った事がある」
私は通貨を取り出したシェラドさんの掌を見る。意外だ。結構ある。
「これならちょっといい買い物が出来るね。行くときにはまたえものを持って売りに行ったらいいんじゃないかな」
「そうか…試しにこれでどの程度の物が買えるか、一度行って見るか?朝に獲物を狩って走っていけば昼過ぎには着くだろう」
「にんげんの国かあ…みんなどうしてるか気になるし、私は行って見たい、な」
「わかった。明日行ってみよう」
ソースみたいな調味料も売っているかもしれない。少し胸が弾む。
夕食、お風呂を早めに済ませ、私達は明日に備えて早めに就寝した。
戦士だから優遇してやっている、という気持ちにも限りがあったようですね。
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