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第十一話 摩擦と権利

皆、心に余裕がなくなってきています

 それは夜の出来事だった。


 どの施設でも不寝番は置いていたが、明かりが火しかない薄暗さに、こちらの人間は慣れていなかった。


 昼と同様唐突にいくつもの(ホール)が開き、異形が現れる。


 自衛隊の動きは早く、元々持っていた懐中電灯で照らされた異形が退治されたが、重症が一名、神官の元に運ばれた。


 獣人はこういう事態に慣れており、流石の速さで屠ってしまう。ただ、民間人3名が軽傷と重症。


 学園では死者2名、重症5名の騒ぎとなった。


 光の問題は中々に難しい。昼にだけ襲ってくるのならばまだ対処も其処まで難しくは無いが、暗闇は完全に相手の味方だ。


 それにしてもたった一度夜に(ホール)が空いただけの被害にしては大きすぎるダメージだ。


 私は光を固定化出来ないか、今必死に練習している。私の出す光はLEDライトくらいの明るさがあるから、固定化して配れるならば、どの施設でも夜に役立つと思うのだ。


 固定化した光とは力を切り離し、別途戦闘に使う光も出せなければ話にならない。何度も繰り返すうちに、コロっと生み出した光の欠片が固定化されて地面に転がった。何度も同じように光を生む。限界まで光を打ち出して、20個ほどの欠片が取れた。


 これを毎日繰り返せば、各家庭や各棟や部屋に置けるようになるかも知れない。私はそう伝えて、平等に獣人、自衛隊、学園の皆で使って欲しいとシェラドさんに渡した。帰って来たシェラドさんは少し微妙な顔をしていたが、そこそこ平等には配れたらしい。


 ただ、獣人の平民の主張が強く、そちらに多目に持って行かれた、と言う。


 本来死人も出る騒ぎになった学園に多めに配りたかったらしい。


 シェラドさんが帰って来るまでに少し魔力が回復していたので、今度は完全に固定化し分けられた光を出してみせる。漸くカタチになったのだ。それを持って学園に行って貰うようにお願いすると、功労者なのだから、と私を担いで学園まで連れて行ってくれた。


「亡くなったかたが出たのは本当にごしゅうしょうさまです。わたしも、何かできないか、がんばってみました」


 新たに出した光の玉が7個。なるべく広い範囲が照らせるよう工夫して置いて欲しいとお願いして渡した。


「こていにせいこうしたので、こんご、まいにち持ってきます。じょじょにしかくをなくすように、けがにんが出ないように、かつようして下さい」


 眠りづらくはなるだろうが、暗闇で異形に襲われるよりは余程マシだと思えた。


「なんでもっと…はやく…」


 力なく言った言葉はそこで途切れる。


 明らかに私があちらの人間で、今回の夜襲を受けてから早急に対策を取った事は解っているからだ。ぎざぎざに零れ落ちた最初に配られた欠片と違い、今回の欠片は円球の綺麗な形だ。急遽頑張ったのだという証のようなものだった。


「わたしのよそうが足りていなくてごめんなさい…」


「違っ…ごめんなさい、本気じゃないの。こんなに小さいのに頑張って良くしてくれて…第一声がお礼じゃなくてごめんなさい!」


「あの…これ、お礼にもならないけど…」


 小さなフライパンと、卵を5つくれる。


「それは無精卵だから、食べてね。日本と違って、きちんと火を通さないとダメよ」


「布団も助かってます」


「剣も、無くちゃならない程助かってます!ありがとうございます」


 最後の2つは、シェラドさんに向けて頭を下げる生徒達。そこに、シェラドさんが声を掛ける。


(ホール)は必ずしも人の居る場所だけに開くとは限らない。人の居ない場所で空いた(ホール)から出た異形が、彷徨ってふらりと現れる事も稀にある。気をつけた方がいい」


「そうなんですね…情報、ありがとうございます」


 人間の国に行った人達はどうしているだろうか。変わりに寄越された獣人の民間人は「私達は守って貰って当然」という考えが透けて見える、あまり好きになれない人達だったが、私が助けた人達は違うと信じたい。


 どちらの民間人も、家が建つまでは各シェルターに別れて住んでいる。狩りもままならないものだから、戦士達が余剰に取れた分を回してあげたりしているのだが、足りないと不満の声が上がっているらしい。


 この生徒達みたいに罠を仕掛けるとか、何かすればいいのに、と腹立たしく思う。


 風の噂では、シェルターに住みながらもあちらへ行った人間は農作物を作っているらしい。全ての口が満たされる規模にするにはまだまだ掛かりそうではあるが、貰える食料では足りないので足しにしているとの事。兎やリス、小さめなトカゲなども捕まえているという。


 なかなか逞しく生きていこうとしているようだ。誇らしい。


 稲や小麦は種籾を増やすところから出発なので当分は口に入る事はなさそうだ。


「みんな、がんばりすぎると心によゆうがなくなって、そのうちたおれちゃう。てきとうに力をぬいて生活できるようになってね」


「…うん。解ってはいるんだけどね」


 苦笑する学生たちと先生。


「当分は…なかなか難しいね。被害も出たばかりだし。お嬢ちゃんがくれた光があればかなりマシになると思うよ。ありがとうね」


 その時、後ろからやさぐれた男子生徒の声が響いた。


「あーあ。最強の戦士にマンツーマンで守って貰ってよ。自分でも戦闘出来るチビは恵まれてるよなぁ!施しまで下さるなんて余裕なこった。こっちはいっぱいいっぱいだってのによ」


「力を抜いて生活だ?食料どうすんだよ!施してくれんのか、ええ!?小麦を融通してくれるたってな、この人数だ。足りねえんだよ!」


「ちょっとやめなよ!自衛隊の人がくれた食べられる自生植物のリストまで貰ったのに!」


「有用な植物は、校庭を耕して育てるって決めただろ!」


 今の所、一度商店の人から配られたじゃが芋を育てているらしい。あとは小麦粉と一緒に種籾も頼み、そちらも植えているようだ。


 長いもや自然薯などの自生植物は、連作障害が大きく、畑を休ませなければならないスパンが非常に長い。豆類があれば一番いいのだけれど。大豆や小豆などは、あちらの国に持って行ってしまったようだ。


「ごめんなさい、しょくりょうはわたしにはどうにもできないの…」


「大丈夫、大丈夫よ、戦士さんが教えてくれたゴンドって獣、本当に多いのよ。あれのお陰でなんとか食いつなげてるわ!罠も改良して少しづつ獲物が掛かる様になってきたの。塩と胡椒しかないのは残念だけどね」


 其処に家庭科教師が口を挟む。


「状況さえ落ち着けば、なんとか工夫して調味料を増やそうとも思ってるのよ。貴方には光を貰ったわ。充分にありがたいのよ」


「こちらこそ、こうぼきん、ありがとうございました」


「賢い良い子ね」


「なんだなんだ、そんなチビばっかりチヤホヤしやがって。ウチの生徒でもないのにな!」


「ウチの生徒でもない小さい子がこちらにあれこれと気を使ってくれてるのよ!それこそ感謝も出来ない生徒を持った覚えはありませんよ!そりゃあ今の生活で鬱憤も溜まるでしょうが、小さい子に当たるなんてみっともない!」


「あの、ひかりだま、まだもってきていいですか?」


「是非お願いしたいわ。本当にありがとう。今この学園には感謝している人間の方が多い筈よ」


 ゆらり、校舎の隙間から入り込んだ異形が見える。私は光刃を飛ばして屠った。


「それ!それだよずるいだろ!?異世界に来て異能を持ってるとか、お前だけ異世界小説の中に居るみたいに!俺達には何の能力も与えられてないんだぞ!!」


 多分これが本音だ。目の色を変えて食いかかってくる男子生徒を周りの人間が止める。


 これは転生とか転移で得た力ではないが、それを言ってもきっと彼は納得しないだろう。そして、同様の思いは、多かれ少なかれ、きっと誰の心にもある。――解ってしまう。私はしょんぼりと項垂れた。


「その力があるからこそ、光のお裾分け、なんていう非常識な事ができたのだと理解するべきだ」


 シェラドさんが私を庇う。


「そもそも、この力は勇者にしか現れない。ユーリは先の勇者の生まれ変わりだ。あちらからこちらにきた、という理由で手に入る力ではない」


 先ほどまで噛み付いてきた生徒の顔が呆けたようになる。


「は…?前世はこっちの人間だったって事か…?しかも勇者…?なんだよそれ…チートだろ…」


 喋っているうちに、先ほどより憎悪の増した目が私を射抜く。他の生徒は何を言えば良いか解らないようでざわざわしている。


「まだ…小さいので、そこまで大きな力はつかえないですが、せいいっぱい、頑張ります……」


「ま、まあ!世話になっているんだ!見境無く噛み付くな、大木!田代!――どんな力があるにせよ、嬢ちゃんは恩人だ。感謝こそすれど、憎む謂れは無い。解ったな!」


『同じようにあちらからやって来たくせに、なんでお前だけ特別なんだ』


 そう、思われているのが解った。しょうがない事だ。シェラドさんが囁く。


「すまん、俺だけで来れば良かったな…」


「ううん、シェラドさんの所為じゃないよ。遅かれ早かれこうなってたよ」


「…そうだな」


「うん」


 一応笑みらしきものを浮かべて学園の皆に手を振り、シェラドさんに抱っこされて家まで戻る。しょんぼりしているのが伝わったのか、シェラドさんが頭を撫でてくれる。


 今日眠ったら、また光球を作ろう。どう思われていようと、怪我人や死人が出る方が嫌だ。


 起きたら光球を作り溜めする。欠片しか確保出来なかった時と違い、みるみる光球が貯まっていく。128個作ったところで魔力が尽きた。シェラドさんに頼んで配りに行って貰う。


 自衛隊から礼として、携帯食がいくつか入った籠が渡された。当然のように受け取っている獣人側からは何も無い。


「お赤飯だ…!」


 米だ。なんだか酷く懐かしいものを目にした気がして、涙が浮かぶ。


 私のママはお赤飯を炊くのが上手だった。好物だったみたいで、お祝い事に関係なくちょこちょこと食卓に上がったものだ。――もう、居ないけれど。


 パパはどうなっただろうか。


 ぽろぽろと涙を零しながらも、赤飯を温めて口に運ぶ。美味しい。もちもちしていて少し塩気を感じる。『お赤飯にはやっぱりごましおよ!』と笑っていたママの顔が浮かぶ。


 心配そうにこちらを見るシェラドさんに、事情を説明すると、何度も頭を撫でられた。


 礼を貰ったからと言って必ずしも好意的ではない事は学園で学んだ。私は自衛隊の方々にどう思われているのだろう。狡いと思われていないだろうか。


 なんとも遣る瀬無い気持ちになりながら、私は赤飯を完食した。



このままだと、夜でも昼並みに明るくなってしまいそうですね。少し多めに街灯のついた夜、程度の明かりがベストな気もしますが、皆は一体どう使っていくでしょうか。

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