30.お素敵、とは
翌日、公爵様に報告をした。
「ようやくだな。よく諦めずに頑張った。これからも励むように」
私達を見つめる瞳は優しく、この方も見守ってくださっていたのだと感謝の気持ちでいっぱいになった。
ハミルトン家も、私が別邸で暮らすことを了承してくれた時から、いつかこの日が来ると覚悟していたらしい。
格上の家に嫁ぐのは大変だが頑張るようにと応援してくれた。
こうして、両家合意のもと、私達の婚約は無事結ばれた。
結婚は一年後の予定だ。
それからはいつもの日々。とはいえ、婚約者となったため、事業プラス公爵家の仕事を覚えることが増え、今までよりもさらに充実している。そのうち式の準備もはじまるから、今後はもっと忙しくなるだろう。
事業のほうは、モデルケースとしての第一校が、国との取り決めで王都で開かれることになり、生徒の募集、面接が始まった。年齢は十歳以上の男女合わせて十二人。期間は一日四時間授業で三ヶ月。今後は一ヶ月から一年と内容に合わせて幅を持たせていきたいと考えている。
クラスも当初の予定と内容を変え、男子は従僕。女子はメイド。この二クラスになる。
言葉遣い、マナー、ルール等、貴族家で勤める上で必要な基礎的なものを中心に指導する。そして、彼らの利点は給金が発生することだ。高額ではないが、学べるだけでなく、お金も手に入るということで、働き手を奪われるという家族の不満を解消し、本人のやる気アップにも繋げるようにしている。
「う~、ドキドキするわ」
「そんなに心配?」
「だって失敗はできないし」
「大きく出たな。でも失敗しないなんて無理だぞ」
「いや~っ! そんな予言しないで!」
「まずは人の命を預かるのだから、怪我などをさせないことを第一に。あとは多少のミスはあっていい。より良くするために必要なものだから、それを見逃さないように気を付けて、都度改善できる体制の維持に努めよう」
くっ、格好いいなあ。ちょっと悔しい。
「ん?」
「私のパートナーはとっても素敵だなと思って」
「可愛いな。拗ねてるのか?」
「余裕ですね?」
「愛されてますから?」
……勝てない。絶対に口では勝てない!
「はいはい。あなたは格好いいし、とっても愛おしいお方です。大好きですよ」
「……元婚約者殿より?」
最近、こうして甘えたようなことを言うブライアンが途轍もなく可愛い。
「ベンジャミン? そうね。当時の彼は、大変お素敵でございます。という感じだったかしら」
無条件に素敵だったとは言いたくない。だって腹立たしいことの方が多かったもの。でも、彼を好きだと思ったこともあったし、悪口も言いたくない。だから、これくらいの少しだけ嫌味な表現が丁度いいだろう。
「……それは……」
「でもある意味感謝してるわ。おかげさまでこの幸せに辿り着けたのだもの。というか! 人と比べるのは良くないのでは?」
「……私はどんどん馬鹿になってる気がする」
「私にだけ?」
「そうだ」
「なら許すわ」
その程度の嫉妬なら全然可愛いもの。暴言はないし、私の体を自分の物のように扱う訳でもない。
……駄目ね。結局は私も比べている。
「あなたの側は心地良いの。それなのに不快なことを考えさせないで?」
「二度としない。悪かった」
「……うん」
ごめんね、私も二度と比べない。
だから仲直りの口付けを。
そっと口付けて彼を見た。
初めてでもあるまいに、嬉しそうだな。
「ご褒美?」
「違います。仲直りと二度としないという誓いのキスよ」
「ん。ありがとう」
そしてキスを返される。
駄目だ。ただのイチャイチャになるわ。
それでもブライアンは私の体には触れない。いえ、抱きしめるくらいはするけれど。
彼は本当に自制心が強い。おかげさまで、体目当て? 等と考えずに済むから余計に安心する。
……違う。誰とも比べてないわ。一般論よ。
「さて、行きましょうか」
「そうだね」
「はじめまして。この訓練学校の責任者で、シェリー・ハミルトンと申します」
自己紹介から始まり、この学校のあらましを簡単に説明する。
「これから三ヶ月、真面目に学んでいただき、評価点が高い者から順に職場の斡旋が決定します。
評価は試験での得点だけではなく、授業点、課題点等あります。日々の生活がすべて評価につながるということを認識し、真面目に勉学に励んでくださることを期待しています」
ようやく今日から学校が始まった。
緊張した面持ちの生徒達が初々しくて可愛らしい。
三ヶ月でどこまで成果が出せるか。
彼らの頑張りを信じよう。




