21.愚か者の末路
少し考える。冷静に考えれば簡単だ。
「私達ってどちらかと言えば被害者よね?」
「君は特にね」
「それなのに、私達が気を遣うっておかしいわよね?」
「確かにな」
これから何度も彼等とは会うことになる。だって同じ国の貴族同士だもの。それなのに毎回気を揉むの? そんなの絶対に嫌だわ。
「では予定通り、彼等は気にせずに挨拶回りをしようか」
「了解」
私達は彼等を必要としていない。今求めているのは事業への賛同者であり出資者だ。恋愛脳に用などないのだ。
「あ、クアーク伯爵がいらっしゃるわ。お隣にいらっしゃるのは」
「クロフ伯爵だ。彼は商会を運営している」
「それはぜひご挨拶しないと」
早速クアーク伯爵に挨拶し、クロフ伯爵を紹介してもらった。そこからは何人もの方達と話をした。
なんせこちらはキングスコート公爵の名があっても、実際に采配を振るうのは公爵ではなく息子の方だ。興味を持ちつつも慎重な対応をされるのは致し方ない。でも、そんな駆け引きが中々に楽しい。
「お二方はご婚約を?」
そして、都度聞かれるこの言葉。
「元生徒会の仲間で、今はビジネスパートナーです」
何度もこの台詞を言いました。いっそのこと、ビジネスパートナーというタスキをつけて歩きたいくらいだわ。
「お疲れ様。少し休もう」
「そうね。喉がカラカラだわ」
「待ってて。飲み物を取ってくるよ。シャンパン?」
「もちろん!」
シャンパン大好き。疲れた体には絶対にシュワッと美味しいはず!
「ちょっと」
げ。ブライアンが離れた途端に来るなんて、ずっと見張ってたの? 怖いんですけど。
でも私はちょっとという名ではないし。
「……」
「無視する気なの⁉」
これで年上の侯爵令嬢? 結婚できない理由が透けて見えるわね。
「名乗りもせず、私の名を呼ぶでもなく。ですから、何かこの世のものではないものに語りかけているのかと思いましたわ」
「なっ!」
だってねぇ。誰よあなたは。一応あなたの方が高位なのだし、先に名乗ってくださらないと。
「……私はリンジー・ウィザーズよ!」
私の視線の意味にようやく気付いたのか、ヤケクソのような挨拶をしてきた。下品だわ。
「ごきげんよう。私はシェリー・ハミルトンですわ。はじめまして。私に何かご用かしら」
「なぜあなたなんかがブライアンと一緒にいるのよ」
「ビジネスパートナーですから」
やっぱりいるかな、タスキ。
「ふん、あなたはアレでしょ? ふしだらな悪女だという」
「まあ、ウィザーズ家は情報収集能力が今ひとつなのですね?」
「偉そうに。あちこちの男に手を出して婚約破棄されたのでしょう? それなのに反省することもなく 今度は公爵家に手を出すだなんて!」
彼女のご両親に同情するわ。あまりにも馬鹿過ぎて。
「……私のパートナーを侮辱するとは。どうやら君は本当の愚か者のようだな」
あらら。ブライアンが魔王と化しているわ。
「大丈夫よブライアン。どうやらウィザーズ嬢は、人ならざるものが見えているようなの。お可哀想よね」
「……ん?」
「あなた、何を言っているの⁉」
「あら? あることないことお話されるのがお好きなようなので、あなた様に合わせただけですわ」
先に仕掛けてきたのはそっちよ?
そんな私達をざわざわと周囲の人達が注目しだした。
「それとも。先ほどのお言葉は、ウィザーズ家として正式に発言したものだと、そう受け取った方がよろしいのでしょうか?」
皆様楽しそうね。どう答えるのかを、心配気な仮面の下で笑って見ているのだろう。これが社交界か。怖いなぁ。失言は本当に命取りだ。
「……違うわ。少し、お巫山戯が過ぎたみたい」
「ですわよね? よかった! 私もまだまだこのような場に慣れていないものですから。冗談を真に受けてしまったようですね」
「そ、そうですわ、情けない! ふしだらな上に無知だなんて! もう少しお勉強なさった方がよろしくてよ!」
……なぜそんなにも馬鹿なの? せっかく助けてあげたのに。
「ウィザーズ侯爵には手紙を出しておこう」
「なぜですの⁉ どうしてそんな子を庇うの!」
「行こう、シェリー」
凄いわ。ここが王家主催の場だと分かって騒いでいるのかしら。
呆れながらもその場を立ち去ろうとした。
その時。
「何よっ! 夫人の病があなたにまで感染ったのではなくて⁉ だからそんな態度なのでしょうっ!」
「貴様っ!」
どうしてここまで愚かな言動ができるのっ!
「……謝罪してください」
「本当のことでしょう!」
「『無知で無学で大変申し訳ございません』
はい。あなたが言うべき言葉です」
「なっ!」
「無知で無学で浅慮なリンジー・ウィザーズ侯爵令嬢。謝罪するべき言葉は教えて差し上げました。貴方はただ繰り返すだけです。
──さあ、早くなさいっ!」
「あ、……私は……」
パンッ!
誰かが手を叩いた。
音の方を見ると───
「この後は私が受け持とう。それでいいな、ウィザーズ侯爵」
「……はい。申し訳ありません」
そこに立っていたのはキングスコート公爵と、蒼白になっているのはウィザーズ侯爵か。
蒼白にもなるわよね。これは王家の耳にも確実に入る。令嬢はもう表舞台には立てないだろう。
「お父様! 違うのです、この娘がっ」
「いい加減にしろ! 我が家を潰す気かっ!」
よかった。侯爵はまともな思考能力があるみたい。なのになぜ娘はああなのか。
「シェリー嬢、妻のために怒ってくれてありがとう」
「いえ、間違った知識を声高に語り出したので許すことができず、このような騒ぎになってしまったことをお詫び申し上げます」
「ブライアン、いいパートナーを見つけたな?」
「でしょう?」
あら? 何やらおかしな感じに。パートナーの前にビジネスという単語を付けてくださいませ。いらぬ誤解を招いてしまいますよ?




