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15.あなたが好きだった

「家って……はっ、結局はそれかよ!そんなにも家が大切か?高位の貴族であることが、そんなにも優先されるのかっ!!」


……馬鹿なベニー。今、当主のいる場で何を口走っているのか気付くことの出来ない愚かなベニー。


「大切よ。当たり前でしょう?」


本当に馬鹿だな。なぜそんな軽蔑する様に睨みつけるのか理解出来ない。心の傷だと、いつまで甘えるつもりなのか。


「私達が何不自由なく生活できるのは家があるからよ。

多くの使用人が(ひざまず)き、頭を下げお世話をしてくれるのは、私達が偉いからじゃない。私達の親や祖父母、更にその先祖代々の皆が自分達領民の為に力を尽くしてきたことを知っているから、だからその子孫である私達を大切にしてくれるの。

もちろんそんな綺麗事だけじゃないわ。そんな彼らに見合うだけの待遇と給金を用意出来るだけの資産が私達の家にはあるから。

それを生み出しているのは領民だし、それらを上手に管理運営しているのは当主であるお父様達。

それなのに、貴方はそれらに感謝することなく恩恵だけを受けて、大切な家を、領民を守るという義務を放棄するおつもりなの?」

「いや、別に放棄だなんて──」

「そこまでだ」


それまで私達の話し合いを黙って聞いていてくれたカーティス様が、初めて声を放った。


「シェリー嬢。残念ながら、息子はどれだけ伝えようとも貴方の思いは届かないようだ。

もうここまでで十分だよ。本当にありがとう」


……悔しい。私は何て無力なの。

結局ベンジャミンに理解してもらうことが出来なかった!


「ベンジャミン。今回の件でシェリー嬢とハミルトン家、そしてイングラム侯爵家がどれだけの被害を受けたのかを言ってみなさい」


それは父としてではなく、当主としての詰問だ。


「……それは、シェリーに酷い事を言って傷付けてしまって……でも!本当に誤解なんだ!俺はシェリーを愛しているし、シェリーだって受け入れてくれていた!だからこのまま婚約を継続すれば」

「全然理解が足りない。お前が仕出かした問題は二人だけのものではないと、何度も彼女が伝えているだろうっ!なぜ聞かないっ!なぜ考えないっ!?

彼女は純潔を疑われ、ハミルトン家はそんな娘を育てた家だと(さげす)まれ、我が家は公の場で婚約者を断罪する愚か者が次期後継者だと、そんな醜聞をバラ撒いたんだっ!!

それによって、今後の付き合いを見直す家だって出てくる!そうしたら領地の収益にも問題が出る!それは私達だけでなく、領民にも被害が及ぶかもしれない、それ程の事態なんだぞっ!」

「そ、そんな大袈裟な……」


カーティス様が言ってることは本当のこと。信用が無くなるというのはそれくらいの大事(おおごと)なのに。

いつでも相手を疑って、毛を逆立てた猫のように生きてきた彼は、そんなことも分からないのだろうか?


「……本当に分からないのか。それなのに愛してるだと?

何を馬鹿なことを。……相手を信頼する勇気も無いくせに愛を語るな!自分を守る為なら平気で彼女を傷付けるくせに、簡単に愛してるだなんて言うんじゃないっ!!」


カーティス様のあまりの怒りにベンジャミンも黙ってしまう。それでも理解出来たのかどうかは分からないけど。

でもそうか。相手を信頼する勇気。彼に足りないのはそれなのかもしれない。


「ハミルトン伯爵。お騒がせして大変申し訳ありません。この様に不出来な息子にシェリー嬢を2年半もの長い間付き合わせてしまい、本当に申し訳ありませんでした」

「いや、それで?本当に先程の通りに?」

「はい。ベンジャミンは後継者から外します」

「………は?……どう……いや、だって!俺以外誰が跡を継ぐんだよ!」

「お前は、今の自分が次期当主として相応しい人間だと思うのか?」

「でも!……でも、俺はっ」

「私もお前も。たくさん間違ってしまったんだ。だが、これ以上シェリー嬢を巻き込むわけにはいかないよ。

ここでお前に甘い処罰しか与えなければ、お前の戯言は本当だったのではないかと疑われてしまう。

どれだけ辛くとも、自分の犯した罪は自分で償うべきだ」

「父上……」


何故そこまで……そう思っていた。でも、私の為でもあったのですね。


「ベニー」

「……シェリー……俺は、俺は本当に」

「好きだったわ」

「………え?」

「初めて貴方に会った時は天使様かと思った。でも、貴方は気難しくて意地悪で。でも時々優しくて。

初めて本当の笑顔を見せてくれた時はすごくすごく嬉しくて、あの時きっと好きになった」

「シェリー……」


懐かしいね。まだ声変わりもしていなかった可愛らしい天使様。大きくなるにつれ、意地悪でおこりんぼで、ちょっと………かなりエッチな堕天使になってしまって。

でも、貴方の笑顔が好きだった。

いつか、夫婦になって幸せに暮らすんだと、そう夢見ていたのよ。


「頑張って。私はもう側にはいられないけれど、でも、貴方が私の婚約者だった事実は消えないわ。

私の婚約者はとっても美人で素敵な方だった!いつか、そうやって自慢出来るくらいの人になって」

「……待っててくれる?」


狡いなぁ。そんなに綺麗なお顔で涙を浮かべながら上目遣いで聞くなんて。


「待たない。私は今よりもっと素敵な女性になれる様に頑張るもの。大人しく待つなんて性に合わないわ」

「……頑張ったら、いつかは会えるかな」

「さあ?未来は誰にも分からないわ。でも、人間諦めなければ何とかなるものよ」

「……本当に?」

「たぶん?」

「……シェリーがそんなに適当だなんて知らなかった」


私なんてこんなものよ?貴方のお顔に惑わされてしまう程度の女ですもの。


「やっぱりシェリーが大好きだ」

「……ありがと」


それから。ベンジャミンはお父様に謝罪を述べ、カーティス様と共に帰って行った。

ベンジャミンはまだカーティス様が再婚するつもりなのを知らない。騎士団に入れられることも、屋敷を離れ、寮生活を送ることも。

それがいいことなのかどうか、私には判断がつかいない。それでも。


これからの彼等がどうか幸せになれますように。


そう祈らずにはいられなかった。





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