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居眠り卿と木漏れ日の姫  作者: 中里勇史
新たな任務
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出発 その1

 8月1日夜明け。夏とはいえ夜明け頃はまだ涼しい。

 ウィンは皇帝宮殿の厩舎から借り受けた馬に乗って帝都の南門にやって来た。


 「ロレル、またよろしく」

 アデンは初めて聞く名前に驚いた。

 「ロレル(2番)? その馬、そんな名前でしたっけ?」

 「本当の名前は忘れた。忘れたからロレルと呼ぶことに決めた」

 「ウィン」という名が「1番」を意味することから、2番と付けたらしい。この命名方法は実に平民的だった。平民はしばしば長男に「ウィン」(1番)、次男を「ロレル」(2番)、三男を「サエム」(3番)……と付ける。ウィンと聞けば、「こいつは長男なんだな」となる。貴族はこんな安直な命名はしない。よって、「ウィン」という名も貴族社会では「平民丸出しだ」として嘲笑の的になっていた。


 南門を出たところで30人の傭兵と無事合流し、スソンリエト伯領に出発した。傭兵はラゲルスが直接指揮するという。ラゲルスだけ馬に乗っており、他の傭兵たちは皆、歩兵だ。

 スソンリエト伯領は、南北に走るダルテマイア街道を真っすぐ南下し、東西に延びるカデトルン街道を越えてしばらく行ったところで脇道に入る必要がある。脇道の辺りが少し分かりにくくて、土地勘がないと通り過ぎてしまう恐れがあると聞く。

 ラゲルスもスソンリエト伯領には行ったことがないので、途中で道案内を雇うことにした。いずれにせよカデトルン街道までは迷う心配はない。


 ウィンはラゲルスと馬を並べて歩いた。

 「ナルファストはどんな様子だい?」

 「ダウファディア要塞のアルテヴァーク側(南面)は強固だがナルファスト側(北面)はそれほどじゃない。力攻めも不可能じゃないがロンセ……いやナルファスト公(レーネット)はアルテヴァーク側まで包囲網を伸ばして兵糧攻めにしている。アルテヴァークでも内乱が発生したようで、スルデワヌトはダウファディア要塞まで手が回らんようです。開城交渉も進んでたから、もう片は付いてるかもしれんでさ」

 ワルフォガルから帝都まで、早馬でも半月はかかる。ダウファディア要塞からとなれば20日以上は必要だろう。つまり最前線の情報は約1カ月遅れでしか分からない。

 「アルテヴァークの内乱に乗じてアルテヴァークに侵攻するという手もあるが、ナルファスト公はダウファディア要塞を奪還した上で和平、という線で手を打つというところかな」

 「まあそんなところでしょうな。公国内の整理も不完全だし、公女ウリセファたちの捜索にも本腰を入れたいようで」

 「そう、それ。一体何があったんだい?」

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