告白 その2
「婚姻によって、合法的にカーリルン公家に入り込むことも考えた。まあ結婚しても手に入るのは公位ではなく夫君の地位だが。しかし結婚も拒絶されてしまった。私の奥にある怒りや妬みといった薄汚いものを見透かされたのかもしれぬ」
アルリフィーアは「いやらしい目」と感じたようだが、実際はそんな単純なものではなかったようだ。聞いてみないと分からないものだ。
「セレイス卿。君なら私の気持ちを理解してくれるのではないか?」
「もちろん、同情できる点は多々あります。しかし……」
「一般論の話ではない。私はな、君に一度だけ会ったことがあるのだ。5年ほど前か。ラエウロント3世の供として皇帝宮殿を訪れたときだった」
ウィンがラエウロント3世に声をかけられたとき……確か、その後ろに青年貴族が控えていた。
「あの後、君のことをラエウロント3世から聞いた。監察使になったということも知っていた。まさかこのような形で再会するとは思っていなかったがな」
「……それでも、あなたは伯爵の地位で納得すべきだった。納得する以外の道はなかった。私にはそう申し上げることしかできません。今回、あなたの策に振り回されっぱなしでした。これだけの才があるなら、カーリルン公位にこだわらなくても公爵位を手に入れることができたのでは?」
「新たに公爵位を手に入れろと? これはまた気宇壮大だな」と言って、スソンリエト伯は声を上げて笑った。心の澱を吐き出すかのように、笑った。
「カルロンジ宮内伯との関係は?」
「私が各種文書を帝国に提出していたとき、向こうから打診してきた。宮内伯は私を利用していたつもりのようだったが、私は彼を利用しているつもりだった。まあそんな関係だ」
「まあ想像はつきます」
「セレイス卿が宮内伯を気にするのは、ナルファスト公国の件があるからだろう?」
ウィンの目つきが一瞬険しくなった。この男がこんな顔をするのは珍しい。ベルウェンは、意外だとでも言うかのように左眉を上げた。それを見たディランソルは、ベルウェンが驚いている、と感じた。
「君には興味があったからな。まあいろいろ調べた。君が最近宮中で嗅ぎ回っていることについてもね」と言って、スソンリエト伯はフフッと笑った。
「カルロンジ宮内伯はナルファストの一件に絡んでいるよ。自分から自慢げにしゃべっていたからな。だが小物だ。黒幕は他にいる」
ウィンはスソンリエト伯を睨んだ。聞いてもいないことをぺらぺらと垂れ流すのはどういう意図なのか。黒幕が本当にいるのか。であれば、カルロンジを追い詰めても意味がない。黒幕はカルロンジを切り捨てて、自分だけ生き残るだろう。だからといってカルロンジへの追及を手控えるのは、カルロンジを助けることになるのではないか。スソンリエト伯の真意はどこにあるのか。
だが、皮肉そうな笑みを浮かべるスソンリエト伯を追及してもこれ以上のことはしゃべらないだろう。
「メンエロントは生きているのですか?」
「彼ならこの城に居るよ。事が終わるまで、余計なことをしないようにしてもらっていただけだ」
「あなたの気持ちは分からなくはないが、大勢の人間が死んだ。帝国法にも背いている。その報いは受けてもらわなければならない」
「セレイス卿に従って帝都に行こう。それでよいか?」
「十分です。私にはあなたを処断する権限はありません」
スソンリエト伯は一切抵抗しなかった。
スソンリエト伯とメンエロントを拘束した一行は、メンエロント領を通って北上した。ガウェイトスが守っていたベントリアの様子を見ておくべきだと思ったのだ。
ベントリアは、大きな損害を受けたものの市民生活は再開していた。ある程度は片付けたというが、街の内外にはまだ両軍の死体が転がっていた。ガウェイトスは、このロクに城壁もない街を4日も守り、スソンリエト伯軍を拘束していたという。最終的に、ガウェイトスの首と引き換えに公爵軍兵の安全を保障するという条件で開城したのだと市長は語った。
ガウェイトスの遺体はベントリア市民によって既に埋葬されていた。
「1500の兵で4日も我が軍を止めていたのか……」とスソンリエト伯はつぶやき、ガウェイトスにしばし黙祷を捧げた。ベルウェンは何か言いたげな顔をしたが、何も言わなかった。
そして、ウィン一行はカーンティーエに帰還した。




