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居眠り卿と木漏れ日の姫  作者: 中里勇史
2人の未来

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反転

 ウィンの懸念は推測のみに立脚している。確証はなかった。スソンリエト伯軍がメンエロント軍としてカーリルン公領に侵入するという考えは荒唐無稽でもあった。

 だがニレロティスは受け入れた。ウィンの懸念が当たっていた場合、最悪の事態になる。カーンティーエ防衛を最優先にすることに異論はなかった。


 問題はどの経路で戻るかだった。ガウェイトスがまだ持ちこたえていることを想定してベントリアに向かうか。直接北上してカーンティーエに向かうか。

 ベントリアに向かった場合、ガウェイトスが健在であればスソンリエト伯軍を挟撃できる。だがガウェイトスが既に敗れていた場合、カーンティーエ防衛に間に合わなくなる。

 カーンティーエに直接向かえばカーンティーエ防衛に間に合う可能性は高くなるが、ガウェイトスを見捨てることになる。

 ニレロティスにとっては苦しい決断になった。ガウェイトスもまた、レンテレテスと共に幼いときから武芸を競い合ってきた仲だ。

 目を閉じてしばらく沈黙した後、ニレロティスが口を開いた。

 「ガウェイトス卿がベントリアで時を稼いでくれている。これを無駄にすることはできない。我々はカーンティーエに直行して公爵をお守りする」

 一同は黙って頷くと、事務的に部署割りを始めた。

 レンテレテスは歩兵1000と共に残留し、恭順したトンゾロント軍を自軍に編入してトンゾロント領とデベルロント領の併合と安定化を担当する。

 カーンティーエには、トンゾロント戦線の生き残り4200とラゲルスが連れてきた傭兵4000で戻る。ザロントム攻略に投入されたトンゾロント戦線の兵は損耗が激しく、当初の6500から5200程度に減っていた。

 カーンティーエに反転する8200のうち、ニレロティスは全騎兵2000で先行して、可能であればスソンリエト伯軍の鼻先を押さえる。傭兵の3000はラゲルスが指揮する。トンゾロント戦線の3200はニレロティスの副将ヴァル・バルエイン・ウーゼンが指揮することになった。デレール川北岸にいるポロウェスにも使いを出し、カーンティーエに向かわせる。

 各隊、強行軍でカーンティーエに戻る。落伍者は置いていく。最終的にカーンティーエに向かえばよい、とした。兵力の逐次投入の愚を犯すことになるが、そんなことを言っている場合ではなかった。まずは丸裸同然のカーンティーエに戻ること。各個撃破されたとしても、カーリルン公がカーンティーエから脱出する時間を稼ぐことが戦略目標なのである。最悪、全軍が全滅したとしてもカーリルン公が帝都まで逃げ切れば捲土重来の可能性が残る。

 ニレロティスは既に、カーリルン公の捨て石になる覚悟を固めていた。ガウェイトスを捨て石にした以上、自分も捨て石にならなければならない。


 ニレロティスが率いる騎兵たちが出発した。連戦で馬の疲労も蓄積している。どこまでもつか分からないが、走ってもらうしかない。

 騎兵の次に、無傷の傭兵軍が続いた。バルエインが率いるトンゾロント戦線軍は最後尾に回った。負傷者も多く、進軍速度は期待できない。


 ウィンは、カーンティーエに戻る各隊を見送ってからこう言った。

 「さて、我々も行こうか」

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