ニレロティスの奮戦 その2
騎兵を指揮していたレンテレテスがニレロティスの下に戻ってきた。城壁から降りてくる敵兵の駆逐に駆り出され、もはや予備兵力とは言えなくなっていた。
「よくやってくれた、レンテレテス卿」
「闇に乗じて降りてくる、という可能性はないだろうか」
「私なら……やらないな。この闇では地面が見えない」
まだ初日だ。トンゾロント軍はそこまで勝ちを急いでいないだろう。それに、デベルロント軍との連携が取れない状態で夜襲を仕掛けても大した戦果は挙げられない。
「この状況が何日続くのか……」と言いかけて、レンテレテスは笑った。詮ないことだ。レンテレテスが言葉をのみ込んだのを見て、ニレロティスも笑った。笑えるうちはまだ戦える。
ニレロティスは元服した直後から、ベルロントの副官としてカーリルン公領の軍事の中枢にいた。ラエウロント3世の覚えもめでたく、レンテレテスら若手貴族の筆頭格として育成された。
ニレロティスはやや自尊心が高く、よそ者との間に壁を作るきらいはあったが、内に対しては誠実であり、目下にも親切だった。ステルヴルア家の一門衆を除けばカーリルン公家に仕える譜代筆頭の家柄でもあったが、その点を誇ることはなかった。ニレロティスにとって、ニレロティス家に生まれたことは自分の努力と能力によって勝ち取ったものではなかったからだ。
槍術ではレンテレテスに後れを取ったが、剣術では負けなかった。異なる得意不得意があったこともあり、ニレロティスとレンテレテスは馬が合った。互いに得手の武芸を称賛し、認め合った。
ベルロントが軍事面から引退すると、ニレロティスがその跡を継いだ。こうして政治のベルロント、軍事のニレロティスという体制が成立した。ラエウロント3世が存命のときだったこともあり、このときに構築されたカーリルン公領の首脳部は安定した状態でアルリフィーアに引き継がれた。
今回の戦いで、レンテレテスと同じ戦線を任されたのは幸運だったとニレロティスは思っている。レンテレテスならば、細かい指示を出さなくても動いてくれる。そう信頼しており、実際に信頼に応えてくれた。
ニレロティスもレンテレテスも、友と同じ戦場に倒れるのであれば悪くない、と思っている。ただし、それは決して口には出さない。
敵軍は500メルほど後退したようだ。敵味方の陣地のあちこちで、煮炊きのための炎が上がっているのが見える。ニレロティスとレンテレテスは、温めたぶどう酒に蜂蜜を垂らして飲んだ。疲労が癒やされるのを感じる。
「少しは何か口にしろよ、ニレロティス卿」と言って、レンテレテスが小麦と羊肉を煮た野戦食を食べながら、ニレロティスの分を差し出した。
あくまでも栄養を補給するためのものであり、非常に肯定的に表現すると「うまくはない」という代物だった。ニレロティスは苦笑しながらそれを受け取り、匙で口に流し込んだ。「うまくはない」という表現は褒め過ぎだったかもしれない。香辛料や香草が入っていないので、羊肉の匂いがきつい。
カーリルン公はいまごろどうしているだろうか。ニレロティスが戦闘状態に入ったという情報は届いただろうか。フロンリオンに退却してくれているだろうか。
セレイス卿という男は好かないが、カーリルン公の安全は確保してくれるだろう。であれば、それでよい……。




