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居眠り卿と木漏れ日の姫  作者: 中里勇史
カーリルン公領統一戦争

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敵影見ゆ その1

 ベルウェンがカーンティーエの本陣に帰還したのは9日だった。途中でポロウェスの陣に立ち寄ったが、ポロウェス麾下の2騎はポロウェスのところに戻っていなかった。途中でベルロント側の兵に見つかったのか。

 ディランソルはニレロティスのところにたどり着けたのか。今は確認のしようがない。


 「大将、デベルロントが傭兵を集めてる。テルトレイト周辺に6000はいるぞ」

 「6000!?」

 想像以上の大兵力だった。その兵力を北と東、どちらに動かすのか。北に布陣しているポロウェス軍は、デベルロントの兵が3000であるという前提が成立するからこそ意味がある。半数でも、渡河してくる敵に対してならば優位に立てるだろう。だが4倍の敵軍を防ぐことはできない。

 東に向かった場合はどうか。デベルロント軍はニレロティス軍の6500よりは少ないが、ザロントムにこもるトンゾロント軍3000と6000のデベルロント軍に挟撃されたら6500では支えられない。

 本陣には、この情報に対応する余剰兵力がなかった。

 しかも、ベルウェンがもたらした情報は2日前のものだ。既に敵軍は行動を開始している可能性がある。

 「本陣を下げよう」

 「何じゃと?」

 「本陣をフロンリオンまで下げよう。ここは危険だ」

 デベルロント軍が北上した場合、ポロウェス軍は簡単に突破される。するとデベルロント軍を遮るものがなくなり、カーンティーエが包囲される恐れがある。

 「せめてリフィだけでもフロンリオンに戻ってください。籠城すればリフィが逃げる時間くらいは稼げる」

 「ワシだけ逃げる訳にはいかん。ワシもここに残る」

 「それでは公爵軍は完全に敗北してしまいます。サルダヴィア卿(ベルロント)、カーリルン公をお願いします」

 「駄目じゃ」

 「カーリルン公が居ても役には立ちませんよ」

 ベルロントもアルリフィーアをフロンリオンに戻したいのはやまやまだったが、こうなっては梃子でも動かないことを知っている。ひとまず妥協案でこの場を収めるしかない。

 「敵軍が来るまでにはまだ時間があるでしょう。ポロウェス卿から連絡があってからでも間に合います。まずは様子を見ましょう」


 珍しくウィンは焦っていた。どこで間違えたのか。この事態を避けることはできなかったのか。

 「南部平定を急ぎ過ぎたのではありませんか?」

 アデンの言う通りかもしれない。もっと地固めをして兵力を整えるべきだったか。しかし、帝国が介入してくる恐れがある以上、南部平定は急がなければならなかった。だったら、宮廷工作を優先すべきだったか。だが、宮内伯との折衝を重ねても、献金などの費用がかさむばかりだ。

 「そもそも勝ち目などなかったのかもしれません」

 相変わらず、アデンは痛い所を衝いてくる。スソンリエト伯の思惑通りにカーリルン公位を奪われるしかなかったのか。

 「もっと早く傭兵を集めるべきだったのではありませんか?」

 私財を投じてでもラゲルスにもっと早く依頼すべきだったかもしれない。ナルファストではできたことが、なぜ今回はできなかったのか。あのときはアルテヴァーク王国という強大な敵だったが、今回は公爵領の中の小領主。舐めていたのかもしれない。君主であるアルリフィーアを立てるため、過剰に干渉しないように自制していたという面もある。

 「全て言い訳ですね。単に、思い至らなかっただけです。公爵との楽しい会話に気を取られて、考えることがおざなりになっていた」

 アデンの批判は痛烈だった。


 いずれにせよ、全て手遅れだった。

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