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居眠り卿と木漏れ日の姫  作者: 中里勇史
カーリルン公領統一戦争

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偵察

 帝都に居るはずのラゲルスには、傭兵を集める準備をしておけと命じてある。一から手配を始めるよりは早く集められるだろう。だが募兵・編成とは別に、指示が帝都のラゲルスに届くまでの時間と傭兵がカーリルン公領南部に到着するまでの時間という問題がある。


「どんなに早くても半月はかかるな」

 ラゲルスへの指示を持たせた伝令を見送りながら、ベルウェンが嘆息した。ラゲルスが傭兵を率いてカーリルン公領に入るのは一〇月二〇日以降。南部に到達するのは二二、二三日ごろか。間に合うかどうか微妙なところだ。

 兵力増強の必要性に気付くのが遅過ぎた。南西部のデベルロントや南東部のメンエロントが既に傭兵を集め始めているとすると、ラゲルスが到着する前にザロントム攻囲軍の背後を突かれる恐れがある。

「また失策の数が増えてしまったよ」

 と言って、ウィンはしおれた。それに対しては、ベルウェンは何も言わなかった。

「でだな。俺は五人ほど連れて偵察に行く」

「偵察?」

「南西部とかな、デレール川北岸は押さえたが南側の様子が分からねぇ」

「なるほど」


 ベルウェンはまずデレール川北岸を目指すことにした。ニレロティスと共に侵攻した経路をたどってザロントムから西に進む方が安全だが、それではデレール川の南側を十分に偵察できない。敵と遭遇する可能性はあるが、ポロウェスが構築した陣地から南進する方がいい。

 デレール川の北岸には五日に到着した。本陣とポロウェス間の伝令のやりとりは続いているので、改めて伝えるべき情報はない。

 南側の偵察に行くとポロウェスに言うと、「ポロウェス軍の騎兵を二人連れていってくれ」と言われ、総勢八騎になった。

 南岸は、戦時とは思えないほど静かだった。

 途中、デベルロント勢と思われる二人の騎兵と遭遇したが、互いに軽く手を挙げて挨拶を交わして擦れ違った。

 偵察隊同士で殺し合っても戦局は変わらない。憎み合っているわけでもない。偵察隊同士が行きあった場合の、戦場における暗黙のしきたりのようなものである。


 デベルロント領の中心都市テルトレイト近郊に到達したのは七日だった。テルトレイトに直行せず、主要路や地形などを確認しながら進んだのでやや時間がかかった。直行していれば六日には到着していただろう。

 テルトレイト近郊の丘からテルトレイトを眺めたベルウェンは舌打ちした。寄り道などせず直行すべきだった。

 テルトレイトの周囲には、軍の宿営地が広がっていた。

「ベルウェン、あの宿営地は……」

 ディランソルが言いたいことは分かる。宿営地の作り方に大差はない。だから宿営地の規模を見れば兵力の見当が付く。テルトレイトの周囲に広がる宿営地は、大き過ぎた。デベルロントが擁すると想定されていた三〇〇〇にしては、大き過ぎるのだ。

「ざっと六〇〇〇、ってとこか」

 これで全てなのか。テルトレイト内にも兵がいるとしたらデベルロントの総兵力はかなり多いことになる。

「こいつはやべぇな」

「彼らが北に行くにしろ東に行くにしろ、公爵軍としては脅威だな」

 ディランソルが顎をさすった。いずれにせよ八騎ではどうにもできない。

 ポロウェスから預かった二騎には、デレール川北岸に戻ってポロウェスに伝えろと言って送り出した。ディランソルには三騎付けて、ザロントムを攻囲しているニレロティスのところに向かわせた。


 ベルウェンはカーンティーエの本陣に向かうことにした。二〇キメルほど北上したところで、デベルロント側の四人の騎兵に遭遇した。ベルウェンは挨拶だけして遣り過ごそうとしたが、相手は剣を抜いて突進してきた。

「おいおい、気持ちよくお別れするのが常識じゃねぇのか」

 だが相手はそうは思わなかったようだ。逃げたいところだったが、馬は既に疲れている。これでは逃げ切れない。

 四騎に対して、こちらはベルウェンと傭兵のダデイエル・デンの二騎。分が悪いが戦うしかなかった。ここでやられる訳にはいかない。

「ダデイエル、やるぞ!」

 ベルウェンは敵の一人に斬りかかった。とにかく、囲まれたら勝ち目はない。

 敵の剣を肩当てでうけながし、敵の手綱をなぎ払った。手綱が切断され、敵は落馬した。騎士の戦い方にはない、傭兵流の戦い方である。

 さらに、主を失った馬の腹を蹴る。驚いた馬は味方の馬に激突して、もう一人の騎士の態勢を崩した。

 その隙に、騎士が乗っている馬の後ろ脚に剣を突き立てる。馬がよろけてこの騎士も落馬した。

「悪く思うなよ」

 と言いながら、ベルウェンは落馬した騎士を馬に踏ませた。死にはしないだろうが、戦闘力は奪えた。

 ダデイエルの方を振り返ると、ダデイエルが一人の騎士を討ち取ったところでもう一人の騎士に背後を取られ、頭に大剣をたたき込まれていた。

 ベルウェンは舌打ちしつつ、残る一人の騎士の首にめがけて剣を振り下ろし、切断した。

 頭に振り下ろされた大剣によって、兜ごと頭蓋骨を砕かれたらしい。ダデイエルは頭から大量に血を流し、口から血を吐いて絶命していた。

「ダデイエル、連れて帰る余裕はねぇ。ご苦労だった」

 ダデイエルをその場に残して、ベルウェンは一騎で北上を続けた。今自分にできることは、デベルロントの兵力に関する情報を本陣に持ち帰ることだけだった。

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