表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
居眠り卿と木漏れ日の姫  作者: 中里勇史
カーリルン公領統一戦争

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/77

偵察

 帝都に居るはずのラゲルスには、傭兵を集める準備をしておけと命じてある。一から手配を始めるよりは早く集められるだろう。だが募兵・編成とは別に、指示が帝都のラゲルスに届くまでの時間と傭兵がカーリルン公領南部に到着するまでの時間という問題がある。

 「どんなに早くても半月はかかるな」

 ラゲルスへの指示を持たせた伝令を見送りながら、ベルウェンが嘆息した。ラゲルスが傭兵を率いてカーリルン公領に入るのは10月20日以降。南部に到達するのは22、23日ごろか。間に合うかどうか微妙なところだ。

 兵力増強の必要性に気付くのが遅過ぎた。南西部のデベルロントや南東部のメンエロントが既に傭兵の募兵を行っていたとすると、ラゲルスが到着する前にザロントム攻囲軍の背後を突かれる恐れがある。

 「また失策の数が増えてしまったよ」と言って、ウィンはしおれた。それに対しては、ベルウェンは何も言わなかった。

 「でだな。俺は5人ほど連れて偵察に行く」

 「偵察?」

 「南西部とかな、デレール川北岸は押さえたが南側の様子が分からねぇ」

 「なるほど」


 ベルウェンはまずデレール川北岸を目指すことにした。ニレロティスと共に侵攻した経路をたどってザロントムから西に進む方が安全だが、それではデレール川の南側を十分に偵察できない。敵と遭遇する可能性はあるが、ポロウェスが構築した陣地から南進する方がいい。

 デレール川の北岸には5日に到着した。本陣とポロウェス間の伝令のやりとりは続いているので改めて伝えるべき情報はなかったが、ポロウェスに声をかけて南側の偵察に行くと伝えた。ならばポロウェス軍の騎兵を2人連れて行ってくれと言われ、総勢8騎になった。

 南岸は、戦時とは思えないほど静かだった。途中、デベルロント勢と思われる2人の騎兵と遭遇したが、互いに軽く手を挙げて挨拶を交わして擦れ違った。偵察隊同士で殺し合っても戦局は変わらない。憎み合っているわけでもない。偵察隊同士が行きあった場合の、戦場における暗黙のしきたりのようなものである。

 デベルロント領の中心都市テルトレイト近郊に到達したのは7日だった。テルトレイトに直行せず、主要路や地形などを確認しながら進んだのでやや時間がかかった。直行していれば6日には到着していただろう。

 テルトレイト近郊の丘からテルトレイトを眺めたベルウェンは舌打ちした。寄り道などせず直行すべきだった。

 テルトレイトの周囲には、軍の宿営地が広がっていた。

 「ベルウェン、あの宿営地は……」

 ディランソルが言いたいことは分かる。宿営地の作り方に大差はない。だから宿営地の規模を見れば兵力の見当が付く。テルトレイトの周囲に広がる宿営地は、大き過ぎた。デベルロントが擁すると想定されていた3000にしては、大き過ぎるのだ。

 「ざっと6000、ってとこか」

 これで全てなのか。テルトレイト内にも兵がいるとしたらデベルロントの総兵力はかなり多いことになる。

 「こいつはやべぇな」

 「彼らが北に行くにしろ東に行くにしろ、公爵軍としては脅威だな」と言いながら、ディランソルが顎をさすった。いずれにせよ8騎ではどうにもできない。ポロウェスから預かった2騎には、デレール川北岸に戻ってポロウェスに伝えろと言って送り出した。ディランソルには3騎付けて、ザロントムを攻囲しているニレロティスのところに向かわせた。


 ベルウェンはカーンティーエの本陣に向かうことにした。20キメルほど北上したところで、デベルロント側の4人の騎兵に遭遇した。ベルウェンは挨拶だけして遣り過ごそうとしたが、相手は剣を抜いて突進してきた。

 「おいおい、気持ちよくお別れするのが常識じゃねぇのか」と毒づいたが、相手はそうは思わなかったようだ。逃げたいところだったが、馬は既に疲れている。これでは逃げ切れない。

 4騎に対して、こちらはベルウェンと傭兵のダデイエル・デンの2騎。分が悪いが戦うしかなかった。ここでやられる訳にはいかない。

 「ダデイエル、やるぞ!」と叫ぶと、ベルウェンは敵の1人に斬りかかった。とにかく、囲まれたら勝ち目はない。

 振り下ろされた剣を肩当てでうけながすと、ベルウェンは相手の手綱をなぎ払った。手綱が切断され、相手は落馬した。騎士の戦い方にはない、傭兵流の戦い方である。さらに、主を失った馬の腹を蹴る。驚いた馬は味方の馬に激突して、もう1人の騎士の態勢を崩した。その隙に、騎士が乗っている馬の後ろ脚に剣を突き立てる。馬がよろけてこの騎士も落馬した。「悪く思うなよ」と言いながら、ベルウェンは落馬した騎士を馬に踏ませた。死にはしないだろうが、戦闘力は奪えた。

 ダデイエルの方を振り返ると、ダデイエルが1人の騎士を討ち取ったところでもう1人の騎士に背後を取られ、頭に大剣をたたき込まれていた。ベルウェンは舌打ちしつつ、残る1人の騎士の首にめがけて剣を振り下ろし、切断した。

 頭に振り下ろされた大剣によって、兜ごと頭蓋骨を砕かれたらしい。ダデイエルは頭から大量に血を流し、口から血を吐いて絶命していた。

 「ダデイエル、連れて帰る余裕はねぇ。ご苦労だった」

 ダデイエルをその場に残して、ベルウェンは1騎で北上を続けた。今自分にできることは、デベルロントの兵力に関する情報を本陣に持ち帰ることだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ