愚者は笑う
「いかがした?」
「エンテルン卿が話がしたいと申しております」
「エンテルン? 誰じゃ?」
「カラントム卿の家臣だった男でございます」
「あっ!」「あっ!」
ウィンとアルリフィーアは顔を見合わせた。すっかり忘れていた。
「そういえばそんなのがおったのう。まだ居たのか」
「牢に入れておけ、ということでしたので」
「あれからずっと入れっぱなしか!」
「はい」
「完全に忘れてましたね。悪いことしたなぁ」
「さすがに哀れじゃな。話だけでも聞いてやろうぞ」
二人が謁見の間に移動すると、エンテルンが跪いて待っていた。
「エンテルン卿か。ずいぶん髪が伸びたのう」
「二カ月も牢に入れられておりましたゆえ」
「す、少し太られたかな? 健康そうで何よりじゃ」
「二カ月も牢に入れられておりましたゆえ」
「……して、話とは何じゃ」
「私は重要な情報を持っております」
エンテルンはもったいぶって、そこで言葉を切ってアルリフィーアの反応を窺った。
「ほう、情報とな」
「実は、全てスソンリエト伯の企てなのです」
「え?」
「驚かれましたか。さもありましょう」
エンテルンはニヤッと笑った。キザな口髭は、伸び過ぎてくったりと垂れ下がっている。
「北東と南で領民に反乱を起こさせます。帝都では公爵を訴える訴状が大量に発見され、公爵に統治能力なしという判決が下されるでしょう」
「……」
エンテルンは、無言になったアルリフィーアを見て気分が良くなってきた。これから起こることに絶望しているに違いないと思うと、溜飲が下がった。だが、この小娘を待ち受けている陰謀はこれだけではない。もっと恐ろしい運命が待ち受けているのだ。
「それだけではありません。ザロントム卿とテルトレイト卿を捨て駒にして南部で兵乱を起こし、公爵軍が討伐に向かったところをカラントム卿とスソンリエト伯でフロンリオンを挟撃する手はずになっておりました。カラントム卿は討ち取られてしまいましたが、スソンリエト伯軍だけでもフロンリオンを落とせるでしょう」
エンテルンは勝ち誇った目でアルリフィーアたちの顔を眺めた。眺めたが……。
「知っとる」
「え」
「全て終わっとる」
「え」
「領民の反乱は収めたし、南部も平定した。スソンリエト伯も捕らえた。全て終わっとる」
「ええ?」
「もうそなたに用はない。放免してつかわすゆえ、どこぞにでも行くがよい」
口を開いたまま硬直しているエンテルンを残し、ウィンとアルリフィーアは謁見の間から退室した。
どちらからともなく、クスクスと笑いがこぼれた。我慢できなくなって、二人で大笑いした。あんなに苦労した二カ月は何だったのか。答えは全て持っていたというのに。馬鹿馬鹿しくて、笑うしかなかった。
大勢死なせた。心や体に傷を負った者もいるだろう。笑い事ではない。だが、今は笑うしかなかった。
二人は、愚かな自分を笑った。




