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居眠り卿と木漏れ日の姫  作者: 中里勇史
2人の未来

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49/55

告白 その一

 ウィン、ベルウェン、ディランソル、そして一〇人の騎兵は東に向かって馬を走らせていた。目的地まで二日ほどの道のりだ。

「大将、乗馬が上達したじゃねぇか」

「最近走らせてばかりだしね。寝たまま走らせることもできるよ」

「カデトルン街道の連中が気味悪がってたがな」

「さすが皇帝の馬だ」

 ウィンはわははと笑った。


 そして、目的地に着いた。

 スソンリエト城。スソンリエト伯の居城である。

 ウィンたちはスソンリエト伯の執務室にあっさりと通された。スソンリエト伯はほほ笑みながら一同を迎えた。

「あなたは確か、監察使のディランソル卿、でしたか?」

「申し訳ありません。私は監察使などではありません。あなたを騙しました」

「なるほど、お互い様ですな。では監察使はセレイス卿(ウィン)だけということだ」

 スソンリエト伯はそう言ってウィンを見た。ウィンはまだ名乗っていなかったのだが。

「セレイス卿がここに居るということは、私は失敗したのかな?」

「その通りです。今頃、スソンリエト伯軍はニレロティス卿が押さえているはずです」

「……」

「伯爵、カーリルン公領への軍事介入をお認めになりますか?」

「認めよう。カーンティーエに向かったのは、メンエロント軍に偽装したスソンリエト伯軍だ」

 断片的に見え隠れしていたスソンリエト伯は、リフィを何としても引きずり下ろそうとする狂気を感じさせた。だが、実際のスソンリエト伯は理知的で、落ち着いていた。これが本来のスソンリエト伯なのか。それとも諦観によって変わったのか。ただの虚勢か。

 ディランソルはスソンリエト伯の左手の親指を凝視していた。今のところ、ぴくりとも動かない。


「私はな、アルリフィーア殿に不満があった訳ではないのだ。自分がカーリルン公になれないことに納得できなかったのだ」

「分からねぇな。伯爵様だって十分立派なもんだろう。そんなに公爵になりたかったのかい」

 ベルウェンの素朴な疑問に、スソンリエト伯は苦笑した。そう、端から見ればくだらないことなのだ。自覚はしていた。それでも納得できなかったのだ。

「そうだな、公爵の地位にも、実は興味がない。馬鹿馬鹿しいと思われるだろうがな。ただ、自分の本来の権利が侵害されたと感じた。感じてしまったのだ。その思いを抑えることができなかった」

「本来の権利、とは?」

「私の父、つまり先代のスソンリエト伯ファウロントは、カーリルン公ラエウロント三世の弟ということになっている。だが、本当はラエウロント三世の兄なのだ」

「どういうことでしょう」

「ファウロントは、ラエウロント二世が側女(そばめ)に生ませた子だ。その側女は、側室としても扱われることのない、ただの『お手つき』というやつだ。その後、正室がラエウロント三世を生んだ。庶子のファウロントは弟ということにされ、ラエウロント三世が嫡子として扱われた。『ラエウロント』ではなく『ファウロント』と名付けられたことでも扱いのほどが知れるというものだ」


ラエウロント二世

  ├──(庶子)ファウロント──ブレロント(スソンリエト伯)

  ├──ラエウロント三世──アルリフィーア

  └──サルダヴィア卿ベルロント(宿老)


「庶子がどういう扱いを受けるか、それは理解している。頭では理解しているのだ。だが納得できなかった。父は先に生まれた。正室が子を産まなければカーリルン公を継承することもできたはずだ。であれば次は私がカーリルン公だ。そういう可能性もあったのだ」

「そのお話は理解できます。しかし現カーリルン公に非があるわけではありません」

「セレイス卿の言う通りだ。彼女に非はないし、恨みはない。だが、彼女はラエウロント三世の子として生まれたというだけでカーリルン公になった。しかも、本来なら公位を継げないはずの女であるにもかかわらず、勅許まで得てな。そう思うと、なぜ彼女に無理に継承させるのか、長子である父と私ではなぜ駄目なのか、という思いを捨てられなかった」

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