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居眠り卿と木漏れ日の姫  作者: 中里勇史
カーリルン公領統一戦争

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ザロントム陥落

 ウィンとラゲルスが率いている三〇〇〇の増援本隊は、南下を続けていた。

 ウィンには、記憶が戻って以来心に引っ掛かっていたことがある。

「ラゲルス。私を逃がすとき、何人殺られた?」

「八人」

「……そうか。ありがとう」


 ラゲルスがボロボロになってウィンを探したことはベルウェンから聞いていた。だがラゲルスはそのことについては何も言わなかった。あのとき死んだ者のことも、ウィンが聞かなければ話題にすらしなかっただろう。ラゲルスはそういう男であった。

「自分にそれだけの価値があるのか?」

 とウィンは思わざるを得ない。もちろん、ない。

 八人の傭兵の命に釣り合うとはとても思えない。

 ただし、監察使という地位にはそれがある。雇い主である監察使を守るということは、ラゲルスらが傭兵を続ける上で重要な意味を持つ。結局、自分には人から与えられた属性にしか価値がないのだ。

 ウィンのそんな屈託に気付いているのかいないのか、ラゲルスは陽気に笑った。

「傭兵ってのは人間のクズだ。カネもらって人を殺すのが仕事だ。それが人を守って死んだとなりゃ、なかなか悪くねぇ最後だ」

「そんなふうに割り切れるものかい?」

「さあ? 他のヤツがどう思うかなんて分からねぇ。なら気にしても仕方ねぇ。旦那も気にしねぇことですな」

「そういうものか?」

「そういうもんですな。で、今後の見通しは? どうするんです?」

「監察使の名でトンゾロントとデベルロントに降伏を命じる。皇帝の権威を徹底的に利用してね」

「すると残るは南東部のメンエロントのみ、と」

「動きがないところが気になるな。単に消極的なのか、裏があるのか」

「相変わらず疑り深いですな」

「分からないだけさ」

「ザロントム、どうなってると思います?」

「ベルウェンからも何も言ってこない。ということは戦闘は続いてるんだろうな」


 ラゲルスが率いる本隊がザロントム近郊に到着したのは、ベルウェンに遅れること一日、一〇月一五日だった。ザロントムを巡る戦いは膠着状態に陥り、散発的な小競り合いが発生するのみになっていた。

 ラゲルス隊の出現を認めたベルウェンが、大声で援軍の到来を叫んだ。味方だけでなく、敵にも聞こえるように。

 戦いに疲れ切った両軍の目に、三〇〇〇の援軍の姿は絶対的、圧倒的な力として映った。デベルロントの傭兵軍は戦意を失い、後退した。


「ラゲルス、デベルロント軍に軍使を。帝国監察使の名で解散と公領外退去、デベルロントの出頭を命じる。それが終わったら、ザロントムだ」

 戦意を完全に喪失していたデベルロント軍は、ウィンの命令に素直に従った。この場合、傭兵たちは罪に問われない。ただし監察使が指定した地での戦闘行為は禁じられ、破った場合は即処刑となる。傭兵たちはその場で解散し、散っていった。

 ザロントムもまた、監察使の開城命令に従った。何といっても、皇帝がカーリルン公への抵抗を認めなかったことが功を奏した。これ以上カーリルン公に抵抗すれば皇帝への反逆と見なされる。


 ザロントムはニレロティスが接収し、デベルロントとトンゾロントは拘束された。

 ラゲルスは、納得いかないという顔でぼやいた。

「軍勢を連れてきただけで戦いが終わっちまった。俺は何もしてねぇ」

「ラゲルス。兵力の最大の効能はね、戦わずに勝てるってことだよ」

 ウィンはわははと笑った。

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