表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
居眠り卿と木漏れ日の姫  作者: 中里勇史
カーリルン公領統一戦争

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/55

ニレロティスの奮戦 その三

 長い一日の始まりを告げるかのように、空が白み始めた。日の出までまだ時間はあるが、夜空に溶け込んでいた木々の輪郭は十分に視認できるようになった。

 だが朝霧が立ち込め、やや視界が悪い。この状態は防御側にとっては不利だった。


 デベルロント軍の攻撃は火矢から始まった。まずは邪魔な木柵を焼き払ってしまおうということだろう。指揮官の交代でもあったのだろうか。昨日の、突撃一辺倒だったデベルロント軍の戦い方が変わった。

 籠城しているトンゾロント軍にはまだ動きがない。木柵が燃え尽きてデベルロント軍が本格的に動き出すのを待っているのだろう。

 公爵軍としては動きようがない時間が流れた。ザロント川の水で消火したいところだが、木柵に水をかけるためには土塀から身を乗り出さなければならない。すると敵陣から矢が降り注いだ。

 日の出からしばらくして、木柵がほぼ焼失した。黒焦げになった柵の残骸はまだ立っているが、敵の侵攻を阻む機能は失われた。

「そろそろ来るぞ」

 ニレロティスは全軍に戦闘態勢を取らせた。レンテレテスは麾下の騎兵を四分割し、門と門の間に配置して死角をなくした。城壁から降りてくる兵を、その場その場で刈り取っていくしかない。死角に降り立った兵がまとまった数になるのを防ぐ必要があった。


 デベルロント軍が動き出した。一気に距離を詰めて土塀に取り付くつもりのようだ。ニレロティスは弓兵に各自の判断で射かけろと命じた。土塀に取り付く兵を少しでも減らしておきたい。

 念のため、前夜のうちに土塀を二重にしておいた。最初の土塀を乗り越えると次の土塀との間の溝にはまり込むことになる。敵が一気に土塀を越えようとすると、先にはまり込んだ兵は味方に踏み潰される。二番目の土塀は少し低くしてあるので、最初の土塀を乗り越えるまでは敵からは見えない。

 この仕掛けは当たった。溝に落ちてもがいているところに次の兵が落ちてくる。立ち上がろうとしているところを踏みつけられ、踏んだ兵も均衡を崩す。所持している武器が図らずも味方を傷つける。

 踏んだ踏まれたと互いにもがき、ますます動きが制約される。ニレロティスは、混乱した敵兵を槍で突かせて次々に討ち取っていった。二重土塀は予想以上の戦果を挙げた。

 しかし、予想はしていたが優勢は長くは続かなかった。土塀間の溝が死体で埋まるとただの土塀になった。

 土塀を乗り越えて突入してきた傭兵たちに押され、左翼の一部が崩れ始めた。レンテレテスも籠城兵への対応に追われ、本隊の援護に回ることができない。


「いよいよここまでか」

 ニレロティスが心の中でつぶやいたとき、北から騎兵が乱入してきてデベルロント軍の右翼を痛撃した。

 騎兵たちは、口々に「援軍だ! 公爵軍の援軍だ!」と叫びながらデベルロント軍に突入した。ひときわ大声で援軍の到来を鼓吹しているのはベルウェンだった。公爵軍の士気を高揚させ、デベルロント軍の戦意を削ぐことが目的だ。

 援軍によって右翼に大打撃を受けたデベルロント軍は大きく後退し、一時的に戦闘が停止した。この間隙を縫って、ベルウェンがニレロティスのところにやって来た。

「もうすぐ三〇〇〇の援軍が来る」

 意外な言葉を聞いてニレロティスが固まっていると、ベルウェンはニレロティスに「あんたが皆に伝えるんだ」と目で語りかけた。我に返ったニレロティスは、ベルウェンの意図を理解して叫んだ。

「もうすぐ援軍が来るぞ! 三〇〇〇だ。勝てるぞ!」

 総大将の叫びは、瞬く間に全軍に伝わった。ベルウェンが連れてきた援軍だけでも一〇〇〇はいる。さらに三〇〇〇の援軍が来る。この知らせに全軍が沸き立った。

 ニレロティス軍の空気が変わったことは、デベルロント軍にもトンゾロント軍にも伝わった。ニレロティス軍には士気がみなぎっている。殺し合いを演じてきた者同士、こうしたことは手に取るように分かる。

 ベルウェンが連れてきた騎兵は、全員下馬して歩兵になった。ここまで走らせ続けた馬は疲れ果てており、機動力は失われている。今回の戦いには使えない。

 彼らは左翼側に穿った堀の外側で、デベルロント軍の右翼を圧迫する形になった。これでデベルロント軍は迂闊に前進できない。デベルロント軍の動きが止まったため、籠城しているトンゾロント軍も動きを止めた。


 ベルウェンは土塀に登り、戦場を見渡した。

「ニレロティス卿、あんたよく持ちこたえたな……」

「傭兵ふぜいが何を言う」

 と言いかけたが、ベルウェンの真剣な目を見てニレロティスは言葉をのんだ。ベルウェンの目が語っていたのは心の底からの称賛であり、援軍が遅れたことについての謝罪だった。

 傭兵隊長だの身分だのよそ者だのと、くだらないことで相手を見下すことの無意味さを知った。そんなものは関係ない。彼らが助けてくれたのだ。

「ベルウェン殿が来てくれなければ負けていたよ」


 ベルウェンの来援によって休戦状態が生まれたが、戦いが終わった訳ではない。ニレロティスは、戦闘再開に備えて攻囲軍の再編と陣地の修復を急がせた。


 まだ、勝ってはいないのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ