再会 その三
だが、カデトルン街道を西に向かったのであれば復路での目撃情報がないことの説明が付く。
「乗ってたやつはどうしてた?」
「人は……乗ってたかなぁ。乗ってたかもなぁ」
はっきりしない。
「ああ、そうだ乗ってたな。乗ってた。寝てるみたいだったが」
「寝てたぁ?」
居眠り卿もここまで極めたか。眠ったまま馬に乗って、ダルテマイア街道からカデトルン街道に入り込んだというのか。本当にふざけたやつだ。
馬が勝手に方向転換するとは思えないが、そこにこだわっても仕方がない。この目撃情報を手繰るしかない。
ベルウェンは目撃者に銀貨を握らせると、カデトルン街道を西に向かった。「豪華な馬具を付けた馬」を目撃した人間がちらほら見つかる。やはりカデトルン街道を通ったのだ、と確信しかけたのだが……。
フロンリオンに近づくにつれて、話が変わってきた。
「豪華な馬具を付けた馬に乗った貴公子がカーリルン公と並んで歩いていた」
という。ベルウェンの確信は急速にしぼんだ。
「貴公子?」
ベルウェンは首をひねった。
「貴公子」が「カーリルン公と」と、とは何だ。しかもカーリルン公とはうら若き美女だという。話が見えない。
いつの間にか、対象がすり替わってしまったのではないか。
こうして、すっかり自信をなくしたままフロンリオンにたどり着いてしまった。
しかし手掛かりはこれしかない。門前払い覚悟でカーリルン公の宮殿を訪ね、セレイス卿は居るかと尋ねたら居るという。そして本当にウィンが現れたというわけだ。
ベルウェンは改めてウィンを眺めた。
「貴公子?」
ベルウェンは首をひねった。
「いつまでそこに引っ掛かってるんだい。それはもういいだろう」
ウィンとベルウェンの話し方が気になったのだろう。アルリフィーアも首をひねった。
「で、ベルウェン殿はウィンの家臣なのか?」
「家臣?」「家臣?」
ウィンとベルウェンの声が重なった。二人とも思いも寄らないことを言われてひどく驚いていた。
「いや、家臣じゃないよ。何だろうね。依頼者と業者、ではあるけどちょっと違うな。まあ仲間、みたいなものかな」
「俺ぁ依頼者と業者でもいいと思うぜ」
「でも依頼してないのに骨折ってくれてるし」
「そりゃ……いいんだよ。どうでもいいんだよ。うるせえよ」
やはり「依頼者と業者」ではなさそうな感じだ。「仲間」というのは新鮮な響きだった。アルリフィーアのこれまでの人生にはなかった概念だった。
「仲間……それは良いのう。実に良い。うらやましいのう」
と言って、アルリフィーアは笑った。
上級貴族は平民にあまり表情を見せたりしない。特に女性はすました顔を維持するのが常識だった。公爵でありながら表情をくるくる変えるアルリフィーアは、ベルウェンにとって驚異だった。
「ふん、この公爵様はおもしれぇな。ナルファスト公もなかなか良かったが、この公爵様もおもしれぇ。で、大将は公爵様を助けてやりてぇって思ったというわけか」
「帝都にも戻らなきゃとは思ってたんだけどね。スソンリエト伯が動員をかけてたってのが気になるな。時期的に、スウェロントを牽制するための兵をスウェロント領付近に展開した頃だ。カーリルン公の軍事行動に反応している可能性がある」
「けどよ、スソンリエト伯がカーリルン公領に兵を入れたら帝国法違反だろ?」
「そう、そのはずだ。一体何のために動員をかけたのか。こりゃ、南部の平定を急いだ方がいいかもしれないね。年単位でのんびり調略していけばいいと思ってたけど」
「よし、軍議じゃな! 『てめぇ』はまた献策するんだぜ!」
ベルウェンの口調が気に入ったらしい。使いこなせていないが。そうしたところもアルリフィーアらしいのだが、ベルウェンをまねるのはさすがにまずかった。
アルリフィーアは、後でデシャネルに烈火のごとく叱られて半べそをかくことになった。




