再会 その1
「で、ウィンはこれからどうするのじゃ」
「さて、どうしようか……」
記憶が戻ったからには、カーリルン公領でのんびりしているわけにもいかない。監察使としては、いったん帝都に戻って任務失敗の報告をすべきである。ラゲルスたちのことも心配だ。だが、カーリルン公領にはこれまでただ飯を食わせてもらった恩義がある。カーリルン公領の内政問題に関わるべきではないが、放っておけないような気もする。
帝都に戻るべき理由の方が多いのだが、うまく言語化できない何かが、大して長くない後ろ髪を引っ張る。なぜかカーリルン公領にもう少しいるべきだ、と感じる。
今にも「帝都に帰る」と言い出しそうなウィンを、アルリフィーアは不安そうな顔で見つめていた。記憶が戻ったウィンには、やるべきことも帰るべきところもある。アルリフィーアにはウィンを引き留める権利はない。
「話は変わるがな、ワシの話し方は変か?」
本当に話が変わった。なぜ今その話題か? というくらい変わった。何でもいいから話題を変えようとしたといった感じである。
「変? いや……変わっているけど変じゃないですよ。珍しい、と言うべきかな」
「珍しいのは変なのではないのか?」
「人とは違う、というだけだ。それは変なことではないですよ。だが鼻の穴を広げるのはやめた方がいい」
「鼻のことなど聞いておらん」
アルリフィーアは真っ赤になって怒った。鼻の穴が広がる癖も気にしているらしい。
「父上がご存命の頃、サルターク伯親子が遊びに来たことがあった。サルターク伯の娘はワシと同年じゃったが、ワシの話し方を変だと言って笑いおった」
「ふむ」
「この話し方はおばあさまに授けていただいたもの。ワシはおばあさまと同じように話すのが誇らしかった。だから笑われてひどく驚いた」
「……」
「おばあさまが笑われたような気がして、悔しいやら悲しいやら。やはり変なのかのう。帝都にもこんな言葉遣いをする者はおらんのじゃろうか」
「私が知る限りでは、お一人。他はもっと当代風の話し方ですね。リフィの言葉遣いは昔の高貴な女性のそれです」
「時代遅れということか」
「さあ? そもそもそれって悪いことですか?」
「そうじゃな。ウィンに言われて改めて自信がみなぎってきたわ!」
アルリフィーアはそう言うと、わははと笑った。ウィンの笑い方に影響されたらしい。「その笑い方は淑女っぽくないですよ」と指摘しようかと思ったが、やめた。そうしたところもアルリフィーアらしくはあるのだから。




