表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
居眠り卿と木漏れ日の姫  作者: 中里勇史
カーリルン公領統一戦争

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/55

敵影見ゆ

 ベルウェンがカーンティーエの本陣に帰還したのは九日だった。途中でポロウェスの陣に立ち寄ったが、ポロウェス麾下の二騎はポロウェスのところに戻っていなかった。

 ディランソルはニレロティスのところにたどり着けたのか。今は確認のしようがない。


「大将、デベルロントが傭兵を集めてる。テルトレイト周辺に六〇〇〇はいるぞ」

「六〇〇〇!?」

 想像以上の大兵力だった。その兵力を北と東、どちらに動かすのか。北に布陣しているポロウェス軍は、デベルロントの兵が三〇〇〇であるという前提が成立するからこそ意味がある。半数でも、渡河してくる敵に対してならば優位に立てる。だが四倍の敵軍を防ぐことはできない。

 東に向かった場合はどうか。デベルロント軍はニレロティス軍の六五〇〇よりは少ないが、ザロントムにこもるトンゾロント軍三〇〇〇と六〇〇〇のデベルロント軍に挟撃されたら六五〇〇では支えられない。

 本陣には、余剰兵力がない。

 ベルウェンがもたらした情報は二日前のものだ。既に敵軍は行動を開始している可能性がある。


「本陣を下げよう」

「何じゃと?」

「本陣をフロンリオンまで下げよう。ここは危険だ」

 デベルロント軍が北上した場合、ポロウェス軍は簡単に突破される。するとデベルロント軍を遮るものがなくなり、カーンティーエが包囲される恐れがある。

「せめてリフィだけでもフロンリオンに戻ってください。籠城すればリフィが逃げる時間くらいは稼げる」

「ワシだけ逃げる訳にはいかん。ワシもここに残る」

「それでは公爵軍は完全に敗北してしまいます。サルダヴィア卿(ベルロント)、カーリルン公をお願いします」

「駄目じゃ」

「カーリルン公が居ても役には立ちませんよ」

 ベルロントも彼女をフロンリオンに戻したいのはやまやまだが、こうなっては梃子でも動かないことを知っている。ひとまず妥協案でこの場を収めるしかない。

「敵軍が来るまでにはまだ時間があるでしょう。ポロウェス卿から連絡があってからでも間に合います。まずは様子を見ましょう」


 珍しくウィンは焦っていた。

 どこで間違えたのか。この事態を避けることはできなかったのか。

「南部平定を急ぎ過ぎたのではありませんか?」

 アデンの言う通りかもしれない。もっと地固めをして兵力を整えるべきだったか。しかし、帝国が介入してくる恐れがある以上、南部平定は急がなければならなかった。

 だったら、宮廷工作を優先すべきだったか。だが、宮内伯との折衝を重ねても、献金などの費用がかさむばかりだ。

「そもそも勝ち目などなかったのかもしれません」

 相変わらず、アデンは痛い所を衝いてくる。スソンリエト伯の思惑通りにカーリルン公位を奪われるしかなかったのか。

「もっと早く傭兵を集めるべきだったのではありませんか?」

 私財を投じてでもラゲルスにもっと早く依頼すべきだったかもしれない。ナルファストではできたことが、なぜ今回はできなかったのか。

 あのときはアルテヴァーク王国という強大な敵だったが、今回は公爵領の中の小領主。舐めていたのかもしれない。君主であるアルリフィーアを立てるため、過剰に干渉しないように自制していたという面もある。

「全て言い訳ですね。単に、思い至らなかっただけです。公爵との楽しい会話に気を取られて、考えることがおざなりになっていた」

 アデンの批判は痛烈だった。

 いずれにせよ、全て手遅れだった。


 ニレロティスは、ディランソルから聞いた情報を基に斥候を放ち、敵の接近を警戒した。

 カーンティーエの本陣には日に四回、索敵の結果がニレロティスの陣からもたらされた。

 一一日、一二日、一三日は敵発見の報告はなかった。

 そして一四日昼。

 「一三日早朝の情報」として、ザロントム方面に数千の敵軍が接近しているという報告が入った。

「来たな」

 ベルウェンがいつになく険しい目でザロントム方面を眺めた。むろん、カーンティーエからでは何も見えない。


 ニレロティスはカーンティーエへの使者を送り出した後、各城門を封鎖する兵を五〇〇人にして、各門から一〇〇〇人ずつ引き抜いて四〇〇〇の野戦部隊を編成した。六〇〇〇と見積もられている敵軍に対して劣勢だが、土塁などを築いて防戦に徹することで五分に持ち込む算段だ。五〇〇の騎兵は予備兵力として手元に置いておくことにした。

「まず二日保たせる! その間に東と西から援軍が来るぞ!」

 ニレロティスは兵を鼓舞し、敵軍の出現予想地点を睨んだ。

「とは言ったものの、援軍は来ないだろう……」

 ポロウェスとガウェイトスが、担当部署をがら空きにしてカーリルン公を危険にさらすわけがない。兵たちには聞かせられない予想は、心の奥底にしまい込んだ。


 南西のポロウェスと南東のガウェイトスにもニレロティスからの報告は届いた。両将は難しい決断を迫られることになった。ニレロティスを救援するなら、カーンティーエからの命令を待っている時間はない。だが、自分たちの担当部署を捨ててザロントムに向かうべきなのか。敵に余剰戦力があったら、カーンティーエまでの経路ががら空きになってしまう。

 メンエロントは根拠地にこもったまま、まだ動きを見せていない。ガウェイトスは、ベントリアを放棄して動くのは危険だと判断した。メンエロントが兵力を増強して北上しても、ここを押さえていれば食い止められる。

 ポロウェスも、情報不足の状態で安易に動くことは否とした。ニレロティスのことは気掛かりだが、デベルロントに余剰兵力がある場合に備えなければならない。


 本陣は重苦しい空気に包まれていた。前線からの情報は常に一日前のものだ。今この瞬間、前線はどうなっているのか。分からないということほど怖いものはなかった。

 前線からの情報を待っていたウィンたちにもたらされたのは、予想外な方面からのものであった。

 カーンティーエの北から三、四〇〇〇人の軍勢が接近しているというのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ