大公と大公女 その3
「セレイス卿に尋ねたいことがあります」
「な、何なりとお尋ねください、大公女殿下」
「ナルファスト公はどんなお方ですか?」
ここでいうナルファスト公とは、ロンセーク伯レーネットのことである。彼はせんだってスハロートの死を公表した後、正式にナルファスト公を継承した。
「ナルファスト公は知勇に優れたお方です。必ずや英明な君主として名を残すことでしょう」
だが、アトラミエが聞いているのはこんなことではない気がした。少し考え込んだウィンを、アトラミエは黙って見つめている。
「彼は道理を重んじ軽輩に驕ることなく、誰とでも親しく接します。そして家族をことのほか大切にするお方です。それだけに、父と弟を亡くし、妹と弟も所在不明とあって、つらい思いをしていらっしゃるでしょう」
レーネットはまた家族で暮らしたいと言っていた。だが、ウリセファとリルフェットは行方不明のままであり、義母のアトストフェイエが戻ってきただけだという。
ウィンがナルファストを去ってからについてはレーネットから書簡を受け取っており、ウィンも知っている。レーネットからの書簡は事実だけを淡々とつづったものだった。彼が今どう感じているのかは、書いていなかったので分からない。書いていない、というところが彼の心境を物語っているのではないか。ウィンが帝都に帰還する直前、レーネットがことさら明るく振る舞っていたことを思い出した。
アトラミエは、ウィンの短い説明と表情から何を得たのだろうか。彼女は首をわずかに傾けて少し考えるそぶりを見せた後、「そう、分かりました。ありがとう」と言って、かすかにほほ笑んでから去っていった。
アトラミエに遭遇したことは何度かあるが、話し掛けられたことはない。彼女の水色の瞳にウィンなど見えていないのではないか。そんな仮説を立ててみたこともあったが、どうやら見えていたらしい。ひょっとすると、ウィンなど居ないかのように振る舞う多くの大貴族も、実はウィンが見えているのかもしれない。「これは大発見だ」とつぶやいて、わははと笑った。
それにしても、アトラミエのあの質問の意図はなんだったのだろうか。なぜナルファスト公のことを知りたがったのだろうか。
それが分かったのは3カ月後だった。
帝国歴222年1月、ナルファスト公レーネットと大公女アトラミエの婚約が発表された。