スソンリエト伯 その1
襲撃者たちを追跡していたベルウェンらは、スソンリエト伯領の境界にたどり着いた。ベルウェンらは境界から200メルほど離れた森の中にいて、伯領からは見えないはずだ。
「見たか?」
「やつらは領内に入った。確かに見た」
「見たよな」
ベルウェンらを襲撃した連中は、スソンリエト伯領に確かに入った。だが、今踏み込んでも「不逞の輩が勝手に領内に侵入しただけだ」と反論されるのが落ちだ。
「少し監視するぜ。付き合え」と言って、ベルウェンは野営の準備を命じた。ここで焦っても何も得られない。
そして2日間、領外からの監視を続けた。これがベルウェンの周到さだった。
「出てこないな」
「こねぇな」
「ベルウェン、そろそろいんじゃねぇか?」
「そうだな。ここらで一区切り付けるか」
ベルウェンは野営の片付けを命じた後、騎士階級の傭兵を呼んだ。ソド・ディランソル・ウイスンという。
「あんた、騎士だろ。監察使の振りをやってくれ。主に俺がしゃべるから、雇い主として調子を合わせてくれればいい。ソドじゃなくてヴァルって名乗れ」
「分かった」
「話が早えぜ」
ベルウェンでは野卑さがにじみ出て疑念を持たれかねない。ディランソルは見た目も貴族風だし、貴族的な言葉遣いもできる。皇帝の使者として申し分ない。ウィンよりも「それっぽい」。
監察使「ヴァル」・ディランソル・ウイスンと護衛の50騎弱はスソンリエト伯領に入ると、早速スソンリエト伯領の警備兵がやってきた。
「私は帝国監察使、ヴァル・ディランソル・ウイスンである。皇帝陛下の命により参上した。スソンリエト伯にお取り次ぎ願いたい」
監察使と聞いた兵は大いに驚き、スソンリエト伯への伝令を走らせるとともに一行を近くの別邸に案内した。伝令がスソンリエト伯の下に着くのは日没頃になるので、今日はこの別邸に宿泊されたし、という。
翌朝、スソンリエト伯の居城であるスソンリエト城に向かうことになった。境界付近の別邸から20キメルほどの距離で、日没前に到着した。
ベルウェンはそこで、見覚えのある男を見つけた。遍歴騎士で、ベルウェンの騎兵戦力を担っていたソド・マクマソル・プロイクだ。
「マクマソルじゃねぇか。こんなところで何してやがる」
「ベルウェン! 貴公こそなぜスソンリエトに?」
2年前、仕官先を探すと言って傭兵稼業から足を洗ったマクマソルは、その後スソンリエト伯に召し抱えられて仕官の志を果たしたのだという。ベルウェンは仲間の成功を喜んだが、スソンリエト伯には疑惑がある点が引っ掛かった。
そこへ、スソンリエト伯とその取り巻きがやって来た。
「スソンリエト伯ヴァル・ステルヴルア・ブレロントと申す」
「帝国監察使、ヴァル・ディランソル・ウイスンです」
簡単な挨拶を済ませると、応接室に通された。ベルウェンは従者らしく、ディランソルの背後に立った。
「して、監察使殿が我が領地にどのようなご用件で?」




