マーティダ宮内伯
セレイス卿とスソンリエト伯領の件と伝えると、マーティダの部屋にすんなりと通された。聞けばウィンにスソンリエト伯領の監査を指示したのはマーティダだったとのことで、ムトグラフは結果的に正解を引き当てたというわけだ。
「セレイス卿が行方不明とはな……」とマーティダは少し考え込み、ムトグラフに尋ねた。
「で、それは本当に山賊なのか」
「その可能性は低いと考えております」
ラゲルスは2人の話の意味が分からず、「えっ」という顔で固まった。が、平民が貴族の会話に口を挟む訳にはいかない。奴隷だろうが平民だろうが自由に発言できるのはウィンの陣営のみだ。ラゲルスが戸惑っていることに気付いて、ムトグラフはマーティダに説明するという体で補足した。
「ラゲルスがご説明した通り、案内役の老人はセレイス卿が監察使と知った上で接触してきた可能性が高い。監察使が派遣されるのを予期して宿場町で網を張っていたのかもしれません。ただの山賊が監察使を襲撃しても得るものはありません。帝国の徹底した討伐を受けるだけです。山賊を装ったスソンリエト伯の家臣という方が、まだ説得力があります」
ラゲルスがまだ何か言いたげなことをマーティダが見て取り、ふと笑った。
「よい。自由な発言を許す。ここにはこの3人しか居ない」
「スソンリエト伯を問い詰める訳にはいかねぇんですか」
「そうしたいところですけどね。証拠もなく諸侯を疑うようなことはできないんですよ。襲撃者がスソンリエト伯の手の者であるという確証がない限り、襲撃はあくまでも山賊によるものです。現にラゲルスは山賊だと思っていたのでしょう?」
「……」
「スソンリエト伯への疑惑は深まったが、次の手を打ちにくくなったな。改めて監察使を派遣するという手もあるが……」
「また山賊に襲われるという可能性もありますね」
「監察使が行くたびに山賊に襲われたら変だろ」
「監察使が行くたびに山賊に襲われた、というだけのことですよ。証拠がない限りは」
「できるのは、『治安に問題あり』として叱責するくらいだな。スソンリエト伯領内であれば、だが」
「領外であれば帝国側の責任になってしまいますね」
「監察使が襲われてるのに帝国は放っておくのかよ」
「追討軍を出したとしても、恐らく山賊はいないのでしょう。一体誰を追討するのです?」
「とにかくセレイス卿の件は陛下のお耳に入れておく。スソンリエト伯の周辺についても調べておく。ラゲルスとやらは、傭兵を集める用意をしておけ。必要になる可能性がある」
図らずも、マーティダとベルウェンの判断は一致した。
「ムトグラフ卿はコーンウェ宮内伯の家中の者であったかな。無理強いはできんが、宮中の発給文書の洗い出しを手伝ってもらおう。スソンリエト伯だけでこんな強気な動きができるとは思えぬ」




