ラゲルス動く その2
「やあ、ラゲルスじゃないですか。一体どうしたのです?」
「監察使の旦那の件で、ちょいとムトグラフ卿にご相談が」
「セレイス卿の? まあ中に入りなさいよ」
応接室、らしき部屋に通された。所々傷んでいるが、掃除は行き届いている。
ムトグラフとラゲルスが着席すると、女性が茶を2人に出してすっと退室した。
「今のは……」
「ああ、妻のフィルデイナですよ」
「奥方がいなすったのかい?」
「そんなに意外ですか?」
「いや……まあ意外ですかね」
まあそうかもね、と言ってムトグラフは笑った。「同じく領地を失った騎士階級の娘でね。先方も困窮気味で、口減らしの面もあって嫁に出したかったのだろう。3年前に縁があって妻に迎えたというわけです。ナルファストの件でセレイス卿に多大な報酬を頂いたので、我が家もフィルデイナの実家も大いに助かりました」
ウィンは大層気前が良かったから、ラゲルスも想像以上に懐が暖まった。
「その旦那の件ですがね。行方不明だ」
「ええ?」
「俺がしくじった。山賊に襲撃されて、旦那1人を逃がしたらどっか行っちまった」
「生死は不明。捕まったのかどうかも分からない、ということですね」
ムトグラフは、ラゲルスの少ない言葉から状況を整理して「何が不明なのか」を理解したらしい。
「ラゲルスのことだから、居そうな場所は探した上での話でしょう。とすると、単に探しただけで見つかるとは思えませんね。山賊に捕まったか。なら身代金の要求がありそうなものです。山賊にとって、セレイス卿にはそれ以外の利用価値がない」
ムトグラフはさらに思考を進める。
「次の可能性は、山賊ではなかった、ということ。セレイス卿の捕縛に価値があった。いや、セレイス卿ではなく監察使か。もう一つは、捜索対象にしていない、想像もしていないような場所に移動した」
「何だそりゃ」
「知りませんよ。単に可能性を挙げただけです。けど、セレイス卿って突飛なことをやらかすところがあるでしょう」
「で、どこに行ったんで?」
「知りませんよ。その場合、やみくもに探したところで見つかるもんじゃないでしょう」
ラゲルスはむむむと唸った。
「で、今はセレイス卿以外の状況はどうなっているのです?」
「ベルウェンが昨日、騎兵を連れて捜索に出た」
「ベルウェンも戻っていたのですか。では捜索はお任せしとけばいいでしょう」
「で、ムトグラフ卿には皇帝への報告をお願いしてぇ」
「なるほど、理解しました。とはいえ、どなたにお知らせすべきか……」
コーンウェの顔が浮かんだが、却下した。自分の主を通して上に報告するのが筋ではあるが、ウィンに対するコーンウェの感情はムトグラフにも分からない。宮内伯の論理を無視して、皇帝の威を借りて好き勝手に動く(ように見える)ウィンをよく思っていない者は多い。コーンウェが、これをウィンの失脚に利用するということもあり得る。ウィンに多少なりとも恩義を感じているムトグラフとしては、これは避けたい。
そういえば、何かのおりに「マーティダ宮内伯によくしてもらっている」とウィンが口にしたのを思い出した。
「明日は……何かの式典があったな。では明後日、マーティダ宮内伯に報告に行きましょう。ラゲルスも同行してください。装束もどうにかする必要がありますねぇ」




