スウェロント領併合
出頭命令が定めた猶予は、スウェロントに与えたものではなかった。公爵側のための猶予だったのである。公爵側に、それだけの時間が必要だったのだ。
出頭命令と公爵軍の出兵によって公爵とスウェロントの間には決定的な緊張状態が生まれたが、それはあくまでも貴族同士のこと。商人たちをはじめとする平民には関係ないことであり、領民、非領民を問わず彼らは領地間の往来を続けていた。平民たちの経済活動を、公爵もスウェロントも制限しなかった。
この往来に紛れて、ニレロティス麾下の兵が平民に扮してスウェロント領に入っていた。1、2人に分けて、本物の商人たちと共に、毎日、少しずつ。彼らはスウェロントの居館があるカラントムに入ると、あるものは宿屋、あるものは商館、あるものは野宿しながら潜伏した。最終的に、300人の公爵軍がカラントムに入った。
スウェロントは全軍を領地の境界付近に展開させたので、カラントムはがら空きになった。スウェロントが兵力を小出しにする無能ではなく、常識的な最善策を採る男だったことがニレロティスたちを助けた。
フロンリオンとカラントムの間には1日分の距離しかない。公爵軍の動きなど簡単に察知できるので、別動隊による奇襲を恐れる必要もない。となれば、スウェロントとしては領地の境界に兵を展開しておけば十分だった。
そして、出頭期限後の9月2日早朝、300人の兵がスウェロントの居館を襲撃した。居館にも守備兵はいたが、完全武装した300人に対抗できるほどの数などいない。守備兵の抵抗を排除し、スウェロントを討ち取るのは容易だった。
ニレロティスはスウェロントの首を掲げてカラントムを降伏させ、さらに境界付近に展開するスウェロント軍に向かった。スウェロント軍もまた、スウェロントの死を知ると戦意を喪失した。そもそも彼らには公爵に歯向かう理由がない。改めてカーリルン公の家臣として従うことを誓わせることに成功した。
スウェロント領が公爵への恭順の意思を示したことを確認すると、ニレロティスは後を部下と2000の公爵軍に任せ、スウェロントの首を持って単騎フロンリオンに駆け戻った。
「後はあんたが見た通りだ」と、ロレルはエンテルンに言った。
「そんな……交渉もせずにいきなり襲撃するなど、そんなことが……」
「9月1日までに来いとカーリルン公は命じておられた。命令に従わなかったがゆえに、領主権に基づいてカーリルン公が懲罰を下した。何が問題だ?」
「私が……交渉役を……」
「身の程をわきまえろ。あんたのことなど最初から誰も相手にしていない。期限が切れているのに交渉できると思い込むのは勝手だが、あんたの都合に公爵が合わせてやる義理はない。カーリルン公領の主人は公爵なんだ」
エンテルンは床にへたり込んだまま、がくりとうなだれた。
「あんたは殺さなきゃならんほどの罪を犯してないし、その価値もない。だがウロウロされると迷惑だから、南部が片付くまでは身柄を拘束させてもらうよ」
ロレルがそう言って合図すると、衛兵がやってきてエンテルンを連行していった。取りあえず牢に放り込んでおくことになっている。
やれやれという顔でロレルがエンテルンを見送っていると、ニレロティスが近づいてきた。
「貴公の思い通りに事が進んだな。腹立たしいが、礼を言う」
「全て公爵の決断と、ニレロティス卿の武功ですよ。私は関係ない」
「だが……」
「今後をお考えください。全て、公爵とその家臣の功績でなければいけないんです」
ニレロティスはまだ何か言いたげな顔をしたが、ロレルはそれを無視して続けた。
「スウェロント領の支配体制をしっかり固めといてくださいよ。スウェロント領とスウェロント軍をカーリルン公の配下に組み込めば、南部の平定に専念できるというものです」
こうして、カーリルン公領の北部と中部はカーリルン公の支配下に統合された。




