公爵の責務 その2
「首実検ですと!?」
エンテルンは仰天した。一体こいつらは何を言っているのか。何が起こっているのか。この茶番劇はなんなのだ。
そういえば、ニレロティスが差し出した箱は確かに、ソレを入れるのにちょうどいい……。
ニレロティスもベルロントも、もはやアルリフィーアをとめようとはしなかった。仁王立ちするアルリフィーアの前に、ニレロティスが箱を捧げて跪き、静かに蓋を開けた。
「!?」
そこにはスウェロントの首が収まっていた。
アルリフィーアは蒼白になって、手で口を押さえた。膝に力が入らない。が、辛うじて立ち続けた。全力で気力を振り絞り、ニレロティスに向き合った。
「ニレロティス卿、見事であった。卿の武勲、確かに見届いた!」
高らかに宣言したものの、足がふらつく。よろけたひょうしにロレルが視界に入った。ロレルが真っ青な顔で首を見つめている。やはり両手で口を覆い、立っているのもやっとという風情だった。
アルリフィーアの視線を感じたのか、アルリフィーアに目をやったロレルは弱々しく、「公爵、お見事でした」と言った。アルリフィーアよりもつらそうだ。
自分よりも弱っている人間を見たら、妙に落ち着いた。ロレルを気遣う余裕すら生まれた。
「ロレル、大丈夫か。奥で休んでいたらどうじゃ」
「いえ、お気遣いなく」
「そなたまで見ることはなかろうに。苦手なら目を背けておればよいものを」
「自分だけ逃げる訳にはいきませんよ。そもそも私の策から始まったこと。私にも見届ける義務があります。でも血も死体も苦手だな。私は絶対武官じゃないですね。とても務まらない」
話しているうちに、ロレルも落ち着きを取り戻した。胃の辺りをさすりながら背筋を伸ばすと、ニレロティスの正面に立った。
「ニレロティス卿、お見事でございます。うまくいったのは全てニレロティス卿のおかげです」と言って、ロレルは右手を左胸に当てて礼をした。
エンテルンは床に座り込み、主の首が入った箱を見つめていた。状況を全く把握できない。圧倒的な軍事的優勢にあったスウェロントが、なぜ首になっているのか。なぜだ。なぜ……。
「なぜだ! 何があった! どうしてカラントム卿がこのような……」
そこでようやくその存在を思い出したという顔で、ロレルがエンテルンを見下ろした。
「ああ、まだいたのか。まだ何か用?」
ロレルの顔も声も恐ろしく酷薄だった。
「説明しろ! この状況は何だ。何が何だかさっぱり分からん!」
エンテルンはもはや半狂乱だった。床に座り込んだまま、髪を振り乱してわめくことしかできなかった。
「最後の慈悲じゃ。エンテルン卿に説明してやるがよい」と言うアルリフィーアに、しかめた顔で抗議の意を表しつつ、ロレルはエンテルンに言った。
「公爵の命とあらば仕方がない。説明してあげよう」




