出頭期限 その1
待てど暮らせどスウェロントは来なかった。あっという間に出頭期限の9月1日の朝になった。
アルリフィーアは、宮殿の庭でぼんやりと空を眺めているロレルを見つけてそっと近づいた。
「来ぬな」
「来ませんねぇ」
「来なんだらどうする」
「そのときは別の手を考えますよ」
「そうじゃったな……」
アルリフィーアはため息をついた。こいつはそういう男だった。
しばらく2人でぼんやり空を見上げていると、伝令が駆け込んできた。「カラントム方面から馬車がこちらに向かっている。日没前後にはフロンリオンに到着する見込み」であるという。
「やや、とうとう来ましたね。次は姫の出番ですよ」
「ワシにうまくできるじゃろうか」
「さあ」
「『大丈夫』とか『心配ない』とか、励ます言葉はないのか」
「お安いご用です。大丈夫。心配ないですよ」
「……もうよい」
アルリフィーアはため息をついた。こいつはそういう男だった。
「では時間もありますし、一眠りしてきます」
「まだ朝じゃぞ。起きたばかりではないか」
「大丈夫。ちゃんと眠れるのでご安心を」
「いや、心配は全くしておらん」
「それはよかった」
ロレルはさっさと私室に去っていった。そんな2人を見ていたベルロントがアルリフィーアに近づいてきた。
「姫様、最近楽しそうですな」と言ってニヤッと笑った。
ベルロントは、公的な場ではアルリフィーアのことをカーリルン公と呼ぶが、私的な会話では姫様と呼ぶことが多い。
「腹が立つことの方が多いが?」
「それも含めて。兄上が亡くなって以来、姫様はあまり笑いも怒りもしなくなってしまわれた。ロレル殿が来て、昔の姫様の調子を取り戻されたようだ」
「ワシはそんなに笑ったり怒ったりしておったか?」
「しておりましたなぁ。そんなことも忘れてしまわれるほど、この3年間はつらかったのでしょう。ロレル殿が何者かは存じ上げぬが、昔の姫様の笑顔が見られたことは感謝せねばなりませんな」
「ふむ……。日没まで時間があり過ぎて持て余すな。叔父上、茶に付き合ってくだされ」
「喜んで」




