再会
「で、ウィンはこれからどうするのじゃ」
「さて、どうしようか……」
記憶が戻ったからには、カーリルン公領でのんびりしているわけにもいかない。監察使としては、いったん帝都に戻って任務失敗の報告をすべきである。ラゲルスたちのことも心配だ。だが、カーリルン公領にはこれまでただ飯を食わせてもらった恩義がある。カーリルン公領の内政問題に関わるべきではないが、放っておけないような気もする。
帝都に戻るべき理由の方が多いのだが、うまく言語化できない何かが、大して長くない後ろ髪を引っ張る。なぜかカーリルン公領にもう少しいるべきだ、と感じる。
今にも「帝都に帰る」と言い出しそうなウィンを、アルリフィーアは不安そうな顔で見つめていた。記憶が戻ったウィンには、やるべきことも帰るべきところもある。アルリフィーアにはウィンを引き留める権利はない。
「話は変わるがな、ワシの話し方は変か?」
本当に話が変わった。なぜ今その話題か? というくらい変わった。何でもいいから話題を変えようとしたといった感じである。
ウィンにとって、アルリフィーアの言動は不可解だった。だから、表層的な対応しかできない。
「変? いや……変わっているけど変じゃないですよ。珍しい、と言うべきかな」
「珍しいのは変なのではないのか?」
「人とは違う、というだけだ。それは変なことではない。だが鼻の穴を広げるのはやめた方がいいでしょう」
「鼻のことなど聞いておらん」
アルリフィーアは顔を真っ赤にしてウィンを睨み、つぼみのような唇を固く結んで頬を膨らませていた。
「父上がご存命の頃、サルターク伯親子が遊びに来たことがあった。サルターク伯の娘はワシと同年じゃったが、ワシの話し方を変だと言って笑いおった」
「ふむ」
「この話し方はおばあさまに授けていただいたもの。ワシはおばあさまと同じように話すのが誇らしかった。だから笑われてひどく驚いた」
「……」
「おばあさまが笑われたような気がして、悔しいやら悲しいやら。やはり変なのかのう。帝都にもこんな言葉遣いをする者はおらんのじゃろうか」
「私が知る限りでは、お一人。他はもっと当代風の話し方ですね。リフィの言葉遣いは昔の高貴な女性のそれです」
「時代遅れということか」
「さあ? それって悪いことですか?」
「そうじゃな。ウィンに言われて改めて自信がみなぎってきたわ!」
アルリフィーアはそう言うと、わははと笑った。ウィンの笑い方に影響されたらしい。「その笑い方は淑女っぽくないですよ」と指摘しようかと思ったが、やめた。
そうしたところもアルリフィーアらしさなのだから。
二人でとりとめもない話をしていると、侍従長が現れた。
「セレイス卿にお客人がお見えです」
「客?」
玄関広間に行くと、ベルウェンが居た。
「あれ、ベルウェン。こんなところで何してるの?」
「てめぇ、言うに事欠いてなんだそれは!」
「えっ? 何? 何で怒ってんの?」
「人がてめぇのこと探して右往左往してる間に、てめぇは美女とのほほんとしてやがって。無事なら連絡ぐらいしろ!」
「いや、いろいろすっかり忘れててね」
「忘れてただと? この野郎」
「や、そういう忘れてたじゃなくて……」
アルリフィーアはベルウェンのけんまくに驚いたが、初めて聞く言葉遣いが面白くて真剣に聞いていた。
目を輝かせて二人の会話に聞き入っているアルリフィーアを見て、「彼女には何が刺さるのか全く予想がつかない」とウィンは嘆息した。
「まあ、こんなところで立ち話もなんだから、場所を変えよう。あ、私の宮殿じゃないけど」




