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居眠り卿と木漏れ日の姫  作者: 中里勇史
木漏れ日の姫

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木漏れ日の姫

 ウィンは、ロレルに振り落とされないように手綱を握っているだけで精いっぱいだった。

 つまり、それしかできなかった。

 前を見る余裕すらなく、ロレルを操るどころの騒ぎではない。

 そして、道の上に張り出した枝に額を強打した。ウィンは「うごっ」という声を上げたのを最後に、昏倒した。

 落馬せずロレルの首にしがみつくような体勢になったのは、ウィンにしては上出来だった。


 ロレルはそのまま駆け続けた。

 疲れたロレルは常歩(なみあし)になりながらも足を止めず、かりそめの主を戦場から遠ざけ続けた。

 夜になった。ロレルは歩みを止め、しばし休息した。

 夜明けとともに、また歩き出した。

 どれくらい歩いただろうか。

 目の前に飛び出してきたウサギに驚いて、ロレルは再び駆け出した。もう全力は出せなかったが、遅めの駆歩(かけあし)くらいでは走れた。


 その姿を見とがめた者がいた。

 「ほう、眠りながら馬を操るとは大層な手練れじゃな」

 「気を失っているだけに見えますが……」

 「何、それは一大事。放ってはおけぬ」

 彼女は馬に飛び乗ると、巧みに操ってロレルを追った。疲れ切っているロレルに追い付くのはたやすかった。馬を並走させつつロレルの手綱を取ると、それを操って落ち着かせた。仲間が並走していることで安心したのか、ロレルは少しずつ速度を落として、停止した。

 「よい子じゃ」と言ってロレルの首をさすると、そのまま近くの木の下にロレルを誘導する。ここにきて、微妙な均衡が崩れてウィンが落馬した。

 衝撃で、ウィンの意識が戻りかけた。




 木陰を抜ける涼風で枝が揺れ、優しい影と夏の峻烈な日光が行き来するのを感じる。木漏れ日がまぶたを貫く。そして、両頬がひどく痛い。痛い、痛い痛い痛い痛っ……。

 「生きておるか? ならばほれ起きよ。いつまで寝ておる。起きろというのに」

 女性の美しい声がする。と同時に、一気に覚醒した。

 目を開けると、木漏れ日で目がくらんだ。

 「おお、気が付いたか。大事ないか? どこか痛むところはないか?」

 なぜだか両頬がひどく痛む。ものすごくヒリヒリする。

 「……頬が痛いです」

 「む! ちとたたき過ぎたかのう」


 そう言って、大層古風な話し方をする少女は破顔した。真夏の木漏れ日のような、優しくて柔らかい、そして鮮烈な笑顔だった。


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