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居眠り卿と木漏れ日の姫  作者: 中里勇史
カーリルン公領統一戦争

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帝都

 八月一七日。ラゲルスは帝都南門の前に立っていた。疲労困憊していたがそんなことを言っている場合ではない。


 帝都に入るとウィンの部屋に直行した。平民街に住むヘルル貴族といえばあの変人以外にいない。ちょっと聞き込みをしただけで簡単にたどり着けた。

 ウィンのすみかは、ボロではないが、「きれい」と言ったら褒め過ぎという感じの三階建ての建物だった。一階は何だか訳の分からない物を売っている小間物屋で、一階と二階を店主の家族が使い、三階をウィンに間貸ししているのだという。店の脇に設けられた階段を使って三階に上ると、いかにも安そうな木材でできた扉があった。扉は一つしかないので、これがウィンの部屋なのだろう。

 破壊する勢いで扉をたたいたが返事はなかった。ついでに蹴り上げてみたが結果は同じだった。ラゲルスがその気になればぶち破ることもできるが、襲撃に来たわけではない。

 念のため一階の店主に聞いてみたが、ウィンは戻っていないという。

 ラゲルスは舌打ちすると、七月にウィンと会った酒場に向かった。


 酒場にはベルウェンがいた。

「ベルウェン、戻ってたのか」

「何だそのナリは。えらくくたびれてるじゃねぇか」

「それどころじゃねぇ。セレイスの旦那が消えちまった」

「ああ? 分かるように言えよボケ」

 ラゲルスはスソンリエト伯領の一件をベルウェンに説明した。

「で、旦那を先に落としたはいいが、どこにもいねぇ。ダルテマイア街道を北上するだけだ。現場から一本道で帝都まで戻れるんだ。だが、どこにもいねえ。各宿場町で聞き込みしながら戻ってきたが、誰も旦那を見てねぇ。とうとう帝都に着いちまった」

 ラゲルスは、血走った目で床を睨み付けた。

「スソンリエト伯領ていやぁ二〇〇キメル以上はあるだろ。どっかの宿で寝てんじゃねぇのか。ありゃ居眠り卿だぞ」

「いねぇんだよ。俺は各宿場町で全部の宿に当たってきたんだ」


 ラゲルスの仕事が緻密なことはベルウェンも知っている。ラゲルスが「全部」と言うのなら全部なのだろう。ダルテマイア街道はさほど往来が多い街道ではないので、宿場町の規模も大きくない。全ての宿を回るのは不可能ではないかもしれない。

「ラゲルスよ。てめぇ、抜かったな」

 ベルウェンに睨まれて、ラゲルスはうなだれた。ベルウェンはそれ以上責めなかったが、ラゲルスは自分の失策を痛感していた。あのときラゲルスは撤退戦の殿(しんがり)を務めたが、ラゲルスだけでも護衛としてウィンと一緒に逃げるべきだった。

「大将のことだから迷子になってても驚きはしねぇが、ダルテマイア街道じゃ迷う方が難しいな」

 ベルウェンは考え込んだ。

「野盗どもが逃走経路にもいて、そいつらにとっ捕まったか死体にされたか。そもそも何で襲撃されたんだ。他に変わったことはなかったのか」

 ラゲルスは、はっとしてベルウェンの顔を見た。

「それだ。それよ。分からねぇことがある」

「だから何だよ」

「カデトルン街道の手前にあるソウンって宿場町でメシ食ってたときよ。ちょいと騒ぎを起こしちまった。そこでジジイにスソンリエト伯領に行くって話を聞かれて道案内を頼むことになった。そのジジィが野盗どもと通じてたんだな。それで待ち伏せされた」

「分からねぇことは何もねぇじゃねぇか」

「ジジイに行き先を知られるきっかけになった騒ぎな、何だったのか思い出せねぇ」

「だから分かるように言えよ」

「俺たち、何で騒いでたのか分からねぇんだ」

「てめぇまで居眠り卿みたいなこと言い出したな」

「何で一〇日前のことが思い出せねぇんだ俺は」

「知らねぇよ。その騒ぎのきっかけってのは関係あるのか」

「あるような、ないような……」

「何だそりゃ。とにかく、現地にもう一度行ってみるしかねぇな」

 そう言ってベルウェンは立ち上がった。

「ベルウェンも行くのか?」

「俺『が』、行くんだよ。てめぇは休んでろ。ひでぇ顔しやがって」

「だが……」

「いいからてめぇは帝都で待機してろ。いつでも数集められるようにしとけ」

「……分かった」

 ベルウェンはラゲルスの頭をコツンと小突くと、百人隊長のデムロンを呼んだ。

「大至急騎兵を五〇集めろ。集まり次第出るぞ」

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