ダゼゾボ その2
傭兵というのは独立不羈、個人主義の極地のように思われているが、人間関係が重要な世界だ。酒を酌み交わし、冗談を言い合って関係を深めていなければならない。それができない人間は爪はじきにされ、損な役回りを押し付けられる。陣形の最前列は最も死亡率が高い。報酬も高いから、あえてやりたがる者もいることはいる。しかし大部分はあぶれ者に押し付けられる。ダゼゾボはいつも最前列に立たされた。生き残ったのは、単に運が良かったからだ。歩兵陣の最前列などに殺しの技術など関係ない。
こうして、傭兵すら務まらずその世界から足を洗った。そのときの雇い主に殺しの個人技を見込まれ、単独の汚れ仕事を請け負うようになった。何人殺したのか覚えていない。そもそもダゼゾボは数を数えられない。文字をいつ覚えたのかも分からないが、文字は命令を読むのに使えるので重宝している。
今の雇い主のことは何も知らない。以前と同じなのか、違うのか。1人なのか複数なのかも知らない。仕事が終わると、窓から銀貨が投げ込まれる。それだけだ。
ナルファストでは、ロンセーク伯を殺すか、脅せと命じられた。殺してもよかったが、ロンセーク伯は強そうだったので逃げた。一緒にいた2人も含めて皆殺しにすることは可能だったが、間違いなく怪我をした。怪我するのは嫌だった。
次にサインフェック副伯を殺さず脅せと命じられた。だが先に公妃を見つけ、その美しさに邪心を起こしたのは失敗だった。サインフェック副伯を脅すという目的は達したので問題ない。
最後がティルメイン副伯の誘拐だ。皆、ティルメイン副伯を見つけることすらできずにいた。一方、ダゼゾボは探すことさえしなかった。
ティルメイン副伯を連れ出したのは公女だという。ならば公女を監視していればいずれティルメイン副伯のところに行く。そう踏んで、公女を探した。公女は派手に動き回っていたから簡単に見つけることができた。公女の後を付けていると、予想通り公女がティルメイン副伯の居場所に案内してくれた。時間はかかったが簡単な仕事だった。
面倒なのはその後だった。意識を取り戻したリルフェットは泣く、わめく、抵抗するの連続で手を焼いた。何度殺そうとしたことか分からない。だが殺すなという命令だったので、我慢した。殺しをこんなに我慢したのは生まれて初めてだった。
抵抗したらメシを与えない。これを繰り返して、服従させた。「ごめんなさい。もう抵抗しません。何か食べさせてください」と言わせてメシを与える。何度か繰り返したら抵抗しなくなった。
しかし今後は問題だ。これまでは「生かしておく」ことで報酬を得ていたが、殺せと命じてきたからには生かしておいても報酬はもらえない。なぜこのガキを養わなければならないのか、と思うと腹が立ってきた。いっそ殺してしまおうか、と考えてまた最初の考えに逆戻りした。そうだ、生かしておくのだった。
仕方がない。食い扶持くらいは自分で稼がせよう。盗みや殺しの技術を教え込めば便利かもしれない。




