菊
一度上げた作品を添削して再掲しています。
またカクヨムにも掲載しています。
時々夢を見る
暗闇の中を一人で歩いていて、明かりを持った女性に出会い光があるほうへ手を引かれるそんな夢。
暗く寒い暗闇の中で感じたほんの少しの温かさで安心して歩いて行けた。
朝起きるたび何処か寂しさを感じる。誰かを待っているわけじゃないけど待ち合わせ場所でくるはずのない人を待っているようなそんな気分。
立ち上がりカーテンを開けると、暖かい日差しと朝を感じる若葉のにおいがした。
一日の始まりを感じつつ真新しい制服にそでに腕を通す。
しばらくして朝食を食べるために1階へ下ると母と兄の姿があった。
でもいつも一緒にいるはずの父がいない。
「おはよう。お父さんどうしたの?」
焼かれたベーコンの香りを味わいながら、お母さんに聞いてみる。
「おはよう、日向。今日はちょっと遅いわね。お父さんならもう出かけたわよ」
焦りながら時計を見ると針は7:45を指していた。
「やばっ」
いつも通りの朝だと思っていた。
だけど1年も通っていれば登校時間もギリギリを目指すようになり、数分の寝坊が命取りになる。
急いで準備をして家を飛び出た。
幸いにも遅刻せず学校についた。席に着くと友達といた知也が話しかけてきた。
「よう!今日は遅かったじゃんか」
「ちょっと寝坊しちゃって」
「お前が寝坊とか珍しいな」
「今日はたまたま。明日からはもうしないよ」
返事をしながら教科書をカバンから取り出す。顔を上げると智也が何かを言いたそうにこっちを見ている。
「どうしたの」
「いやすまん。何かって程じゃないんだが、放課後付き合ってくれねぇか?」
「またいつもの喫茶店?」
「今日は違くてな駅前の喫茶店で新作のスイーツが出たらしんだよ」
そこにないはずのスイーツのにおいを感じながらカバンから財布を取り出す。わかっていたけどお金がない。
「ごめん。今月もう金欠で」
「じゃあ奢るから一緒に行こうぜ」
「いいの?」
「男に二言はねえ」
教室全体がにぎやかになり始め知也はホームルームのため自分の教室へ帰ろうとした。
「そういえば日向。ベルトは右巻きじゃなくて左巻きだぞ」
「あ、ほんとだ」
俺は少し恥ずかしさを感じている。
やっぱりまだ慣れないな
そんなことを考えながら教室を後にする知也を見ていた。
空が橙色を帯びてきて俺は急いで校門へ向かう。
「ごめんちょっと遅れた」
知也はスマホからこちらに目をやり、何か神妙な面持ちをしている。
「なにかあった?」
「なにかって言うかさ、そこは『ごめん待った?』だろ?」
「ごめん待った?」
「いいや、今来たとこ」
やり取りをした後の知也は少し満足げな顔をしていた。
「じゃあ行くか!」
知也は駅方面へ歩き始め俺は後ろについていく。
スイーツを堪能した後は公園で二人ブランコを漕いでいる。あたりはすっかり暗くなり公園の明かりで形は見えるものの、もうお互いの顔はよく見えない。
期末テストや今日何があったかそんな何気ない話をするのが日課であり毎日の楽しみになっている。
「日向、少し話がある」
「どうしたの?いきなり改まって」
いつもとは違う知也の雰囲気に少し気圧されながら聞き返す。
「俺と付き合ってくれ」
知也は真剣なまなざしでそう言ってきた。顔はよく見えないはずなのに知也がどんな表情で今目の前に立っているのかなんとなくわかるような気がする
「なんで?俺男じゃん?」
声を絞り出し必死に笑って見せようとする
なのに、こんな時に限って笑い方が思い出せない
「ごめん。俺やっぱりお前のこと男としてみれねぇ。お前が学ラン着たりして本当に男になりたいってのは伝わってきたけど、それもお前のことが異性として好きなんだよ。
日常が壊れていく
些細な喜びが壊れていく
なんで幸せってこんなにも脆いんだろう
気づいたら走り出していた。でも知也は追ってこない。
時々夢を見る
私は暗闇の中を歩いていて、灯りを持った女の子に出会い、光がある方向へと手を引かれる
私は今、暗闇の中を歩いている。
こんなにも悲しいのに涙は出ない
そして、もう何も見えない。