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ep.69 蛇の魔族

 

「ぅ……ぐ……」


「勇者様‼︎デイジー‼︎」

「‼︎」


 ローレルに集中する2人の隙をついて他の魔族達が襲いかかってくると、カクタスは槍を振ってそれを払い飛ばし、デイジーはオークに棍棒で殴られながらも拳を振るって応戦した。

 そして、デイジーは唸り声を上げて苦しむローレルに再び声をかけた。


「人は必ず考え方や感じ方に違いがあるの!あんたはまずそれを理解しなさい!自分の気持ちを相手に分かって欲しいなら、まずは自分が相手の気持ちを考えなさい!共に歩んで行きたいのなら、無理矢理手を引くんじゃなく手を差し出す所から始めなさい!」

「さ、差し出じてた‼︎」

「おバカ‼︎差し出してないわよ‼︎アンタのは引っ張ってないだけでもう手を掴んでんの‼︎」


「うぅ……っぐ……」


「女が強い男に惹かれるのは間違ってない!でもそれは単純に力の強い男って話じゃないの!強い男ってのは、いざという時頼りになって、どんな困難にも立ち向かえる力を持っている男の事を言うのよ!」


「何が違うんだよ……‼︎」


「全然違うわよ‼︎1つ言っておくけど、これはアタシが思う強い男で、オリビアはまた違う強い男像を持っているかもしれないわ‼︎」


「はぁ⁉︎もうわけ分がんねぇよ‼︎」


 ローレルが地面を殴り付けると、デイジーはボロボロになった袖を引きちぎり襲いかかってきたゴブリンを薙ぎ倒してローレルに笑みを向けた。


「だから言ったでしょ、人によって違うって。だからアタシ達はその人を理解する為に話をするの。そうやって人と人は、自分の気持ちと相手の気持ちを少しずつ理解していって、恋人や家族、友達みたいな関係を築き上げていくの。一方的な押し付けだけでは関係は築かれない、だからアンタはちゃんとオリビアと話をするべきよ!」


「もう…………オリビアは俺ど話なんて……っ」


『ここは夢の中よ、謝罪は現実でしてもらう。あんたがしようとしたこと、許さないけどね』


 ローレルが夢の内容を思い出すと、頬を静かに涙が伝った。



「…………俺……」

「もし心配ならアタシがついててあげる!仲を取り持ってあげるわ!」

「で、デイジーさん!」

「ごめんなさい勇者様……アタシこういう男に弱いのよ〜!」


 カクタスは飛びかかって来た魔族を槍で弾き飛ばすと、仲を取り持つという言葉に焦った様子でデイジーを見た。

 デイジーは眉を下げてカクタスに謝り、拳に炎を纏って魔族達を殴り飛ばした。


 ――ローレルはデイジーの言葉に静かに目を伏せ、宙に紫の炎を作り出した。


「やっぱりアタシの言葉じゃ響かなかったかしら……」


 デイジーは悲しげにぐっと眉を寄せて拳を構えた。

 カクタスも攻撃に備えて槍を構えると、ローレルは目を見開いて炎を勢いよく周囲へ解き放った。


「……っ⁉︎」


 ――しかし、その炎はカクタス達を避け魔族達に燃え広がった。


 クロッカスは慌てて水属性魔法の膜を張ってそれを防ぐとローレルに視線を向けて苦笑した。


「ローレル、下手な事をすれば誓約に引っかかりますよ」

「よそ見は厳禁だぜ!」

「申し訳ございません」


 勇者と戦うクロッカスを見た後、ローレルは視線を屋敷の方へ向けた。

 そこからモドキの姿をしたエルフ達が現れると、カクタス達は表情を険しくして武器を構えた。


「サロウで見たオークだ……今日は石をつけてねぇみたいだが……」

「たぶんオリビアさんの村のエルフ達……ですよね」

「よそ見は厳禁なのでは?」

「っ!」


 クロッカスがパキラと四葉の足を触手で絡め取って投げ飛ばすと、エルフ達に視線を向けた。

 エルフ達がクロッカスの横を通り過ぎてローレルの前で立ち止まると、ローレルは彼らに向かって小さく頷いて、デイジーとカクタスの方を向いた。


「…………俺は……独りよがりだった。心のどこかでは気付いでた……でも意地やプライドが邪魔して止まれながっだ。……今がらでも、間に合うと思うが……?」


「間に合うはずよ。だってアンタもオリビアも、仲の良かった頃を今でも覚えているもの。……まぁ、時間はかかるかもしれないけどね」


「……お前、名前は?」


「デイジーよ。因みに恋人はいないわ」


「聞いでねぇよ‼︎…………オリビアに、ありがどうと……ごめんって……伝えでぐれ」


「はぁ⁉︎アンタねぇ‼︎アタシの話聞いてなかったの⁉︎」


 ローレルはそれを無視してカクタスの方を見ると、静かに拳を握りながら軽く目を伏せた。


「赤いの」

「…………」

「…………オリビアを、頼む」

「!」


 ローレルがカクタスから顔を背けてエルフ達と共に歩き出すと、それを見たクロッカスはにっこりと笑って彼らに道を譲った。


「…………止めないのが?」

「止めませんよ、報告はしますが」

「そーがよ。……じゃあな、蛸」

「はい」


「行こう」


 ローレルがエルフ達を連れてその場を去るのを見送ると、クロッカスは再びパキラ達の方を向いた。


「彼のおかげでかなり数を減らされてしまいましたね」

「降参するか?」

「いえ、もう少しお相手願えますか?」


 クロッカスは笑みを浮かべると触手を広げた。





 ――――


「クソッ‼︎どうなってる‼︎」


 蛇の魔族は怒りに拳を震わせていた。


『ご主人様、ローレルが改造のせいか力をコントロールできず群れを巻き込み敗北しました』


『なんだと⁉︎まさか……私の群れは負けそうなのか⁉︎』


『はい。このままではすぐに勇者達が屋敷へと足を踏み入れるでしょう。地下の魔造エルフ達も牢から出て来てしまっている為、ご主人様を守れる者が屋敷には残っておらず…………ワタクシも勇者達が手強くそちらに向かえそうにありません』


『ぐぅぅっ…………私が逃げるまでの時間を稼げ‼︎』


 クロッカスの連絡スキルで戦況を伝えられ、蛇の魔族は慌てて屋敷に残った少数のゴブリン達を連れて隠し通路へと飛び込んだ。


 負ける可能性は確かにあった、しかし勝つ可能性の方が大きかったはず。

 まさかローレルが勇者達に大きなダメージを与える事なく、逆にこちらの戦力を削って戦況が不利に傾くとは予想できなかった。


「おのれ‼︎最後に足を引っ張りおって‼︎ここまで育てるのに私がどれだけ……‼︎チッ、サキュバスを連れてくればよかった……‼︎しばらくまたこの醜いのと過ごさねばならんのか‼︎」


 今は生き残る事を優先しなければ――


「早かったわね」

「なっ……‼︎」


 隠し通路は屋敷から離れた、ロンジコーンに近い森の中に繋がっていた。


 隠し通路の扉を開いて蛇の魔族が顔を出すとそこにはオリビアが立っていた。


「(どうしてここが……!)ゴブリン共‼︎」

「ギィッ……!」

「なっ……!」


 オリビアは植物にマナを流し込みゴブリンを拘束すると、蛇の魔族を睨み付けながらゴブリンを締め殺して血を辺りに撒き散らした。


「植物を使うということは…………ローレルが言っていたオリビアというエルフか!」


 蛇の魔族はそれに気付くと表情を明るくして手を広げた。


「お前一人か⁉︎なんという事だ‼︎私は運がいい‼︎」

「は?」

「女である事は残念だが、マナエルフを1人確保できたのは有難い‼︎しかもお前の石は特別だと聞いている‼︎お得だ‼︎」


 蛇の魔族がローブを脱ぐと、複数の神の石が体に巻き付けられていた。

 種類も大きさも様々で、その中には見知った物もあった。


「勇者3人相手ではこれだけ石があっても苦戦を強いられただろうが、ただマナが多いだけの小娘1人相手なら問題ない‼︎お前がいくら特別であっても、ほぼ無限にマナのある私相手では――」


「クスクスッ」

「アハッ」


「ッ……⁉︎」


 嘲笑うような声が複数上から降って来ると、蛇の魔族は思わず言葉を詰まらせた。

 恐る恐る上を見上げると、そこには上空で待機していた偵察チームのサキュバス達が蛇の魔族を見下ろし目を光らせていた。


「何故ここにサキュバスが……!…………まさか!」

「ヘリー、カクタス達は?」

「あのエルフのお陰で全滅までそう時間はかからないでしょう!1時間もしない内にここへ辿り着くと思われます!」

「分かったわ」


 オリビアは植物にマナを流し込むと蛇の魔族にそれを這わせた。

 蛇の魔族は慌ててそれを炎の加護で燃やすと、オリビアはそれを見て馬鹿にしたように笑って、宙へと浮かび上がった。



 通り名:エンヴィー

 嫉妬の称号を持つ者

 魔法属性:風

 装飾による追加属性:火、水、地

 錬金術特級、魔法上級、鑑定眼……



 神の目で確認した蛇の魔族のステータスは神の石の能力を除けば、蠍の魔族やローレルのステータスに比べて戦闘における能力値は低かった。

 スキルも特に警戒するようなモノはない。


「マナがいくら無限にあろうが、使い手がそれじゃあ宝の持ち腐れよ」

「なんだと⁉︎おのれ…………その生意気な顔を地面に叩きつけてやる‼︎」

「やってみなさいよ‼︎」


 サキュバス達が蛇の魔族に飛びかかり、オリビアは周囲に落ちている石を風属性魔法で巻き上げ鋭い槍の形に変えて蛇の魔族へ飛ばすと、魔族は黄色の神の石で土の壁を作り出して防ぎ、オリビア達に向かって赤色の神の石を使って火球を放った。


 オリビアはそれを避けつつサキュバスに向かった火球を水属性魔法で消し飛ばす。

 そしてサキュバス達が爪を鋭く伸ばし蛇の魔族に再び飛びかかると魔族は風を巻き起こし彼女達を吹き飛ばした。


 オリビアは同じく風を起こし、魔族の風にぶつけて吹き飛ばすと、蛇の魔族が苛立った様子でオリビアを睨み付け、懐から何か液体の入った筒のような物を取り出し自身の体に突き刺した。


「私はこんな所で死ぬわけにはいかんのだ‼︎」


 蛇の魔族はその体を一回り大きくさせると、背中の皮膚を突き破って様々な形の触手が現れた。

 魔族の目が赤く光り、体を大きく飛躍させるとオリビアに向かって触手を振り下ろし地面へと叩き落とした。


「(速い……それにあの目…………黒魔法を使って能力を上げたわね……)」


 オリビアが体勢を立て直して再び飛び上がろうとすると目の前に火球が飛んできた。

 慌てて水属性魔法で防ぐと蛇の魔族の触手がオリビアの足に絡み付き釣り上げられたかと思えば、地面へと叩きつけられた。


「がっ……‼︎」

「ただでさえ醜い私の体が更に醜くなった……どう落とし前をつけてくれるんだ‼︎」

「オリビア様‼︎」

「邪魔だ退いてろ‼︎」


 サキュバス達が蛇の魔族に襲いかかるも、炎を放たれ近付く事はできなかった。


「クソッ……クロッカスさえいればこんな事をしなくて済んだものを……‼︎時間がない……勇者達が来る前に……」


 蛇の魔族が更に筒を自身の体に突き刺すと腕を大きく変形させ、痛みに悶えるオリビアに向かって振り下ろした。


「!」


 茂みから風属性魔法の斬撃が飛び、足に絡んだ触手が切断されると、オリビアはすぐに植物の加護を使って蛇の魔族の腕を捕らえ、再び宙へ飛び上がり水属性魔法の巨槍を作り出して蛇の魔族へと飛ばした。


 蛇の魔族は慌てて土の壁を作り出して防ぎ、空を飛ぶオリビアとサキュバスに歯軋りした。



「いつの間に魔法を……クソッ……‼︎」

「(さっきの魔法はたぶんキャットね……助かった……)」

「降りて来い卑怯者め‼︎」


 蛇の魔族は宙に四種の加護で槍を複数作り出して放ち、加護の槍を避けるオリビアとサキュバスに触手を伸ばした。

 触手の先端が開き無数の針が飛び出すと、オリビアは避け切れないと判断して水属性魔法で壁を作り防いだ。

 しかし――


「バカめ‼︎」

「‼︎」


 針が破裂し水の壁を破壊すると、追加で飛んできた加護の槍がオリビアとサキュバスに突き刺さった。


「くっ……‼︎」


 サキュバス達は地面に落ちると痛みに手足をバタバタと暴れさせ、オリビアは落下はしなかったものの、足に刺さった地属性の槍と肩を掠めた火属性の槍によって負った火傷に顔を歪ませた。


 蛇の魔族が再び複数の槍を作り出すと蛇のような舌を出して笑みを浮かべた。


「(サキュバス共はもう動けまい……これであのエルフだけに集中できる。これ以上薬を打てば自我を保てるか分からん……早く片をつけねば……‼︎)」


 槍がオリビアに向かって放たれると、再び触手の針も飛んできた。

 オリビアは水属性魔法で槍を防ぎながら風属性魔法で針を吹き飛ばすが、取りこぼした針が足の近くで破裂すると痛みに眉を寄せた。

 慌てて更に上空へと体を浮かせると、視界の端に多くの影が見えた。



「あれは…………そんな……‼︎」

「おおっ‼︎お前達‼︎」



 蛇の魔族もその影に気付き、感嘆の声を上げた。


 ――そこに現れたのは、モドキにされたエルフ達だった。



「なんという事だ‼︎主人の危機に駆け付けるとは……ああっ、お前達をこんな姿にしたゴブリン達が憎い‼︎姿がそのままであったなら抱き締めていた所だ……‼︎」


 オリビアは最悪の事態に歯を食いしばった。

 村の人々である事を知ってしまった今、彼らを攻撃することができない。


 蛇の魔族がいくつかの神の石をエルフ達の首にかけると、ニヤリと笑ってオリビアを見上げた。



「くくくっ……この借りは必ず返すぞ‼︎

 お前達‼︎私が脱出するまでこのエルフを……ゴフッ⁉︎」



 次の瞬間――エルフの1人が風の加護を使って蛇の魔族の喉元に鏃を突き刺した。


 オリビアはその光景に思わず硬直すると、チューからの情報を思い出して血の気が引くと、悲痛な声を上げた。


「やめてお父さん‼︎」


 オリビアが慌てて降下すると、鏃を持っていたエルフはオリビアに向かって優しく微笑み、ゆっくりと倒れ込んだ。


「ゴホッ……ぐっ……がっ……」


「これでお前はもう俺だちに、命令でぎない」


 エルフ達の群れの中からローレルが姿を現すと、蛇の魔族を見てフンッと鼻を鳴らした。

 魔族は彼の言葉に目を見開くと、口をパクパクとさせながら顔を青くした。

 姿が変わってしまったローレルに驚きつつ、オリビアは慌てて彼らの前に立って両手を広げた。



「ローレル‼︎どうして‼︎」

「退いてろオリビア」



 倒れて動かないエルフを見てオリビアは泣きそうになるのを堪えながら首を振ると、ローレルは悲しげな笑みを浮かべてオリビアに手を伸ばし――静かにその手を下に降ろした。


「ローレル……?」

「…………」

「ローレルは夢のことを覚えてないかもしれないけど、私が――」


「夢?なんの話だ?」


 ローレルが尻尾の色を青く染めると、それでオリビアを軽く引っ掻き地面へと転がした。

 オリビアは慌てて起き上がろうとしたが、体はいう事を聞かず、また地面へと倒れ込んだ。


「毒……⁉︎……ローレル……っ‼︎」


「父ちゃん達が話しでぐれたよ。全部あんたのせいだっで」


「(自我が、戻ったのか……⁉︎何故だ……‼︎)」


「先生は俺を純粋だって言ってたげど、それって馬鹿っで意味だったんだな…………ホント……馬鹿だった。

 …………あんたが元凶でも……俺が村を、マナエルフを破滅に追い込んだのは間違いない。だから、俺が――」


「フゴッ‼︎」


「……皆…………ありがとう……そうだな……“俺達”がケリをつけなきゃならない」


少し改稿しました。

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