ep.18 手合わせ
その後――
3人はどのような槍にするかを詳細に話し合った。
カクタスは装飾にこだわりはなく、制作にはさほど時間がかからないとデイジーは言った。
「3日4日くれれば完成させてみせるわ、王城へ届ければいいのね?」
「ええ、話をしておくわ」
デイジーは槍の図面にペンを走らせながら了解と返事をすると、横目でオリビアにもらった森の守護者の槍を見てにやりと笑った。
「この人が勇者様ってことにも驚いたけど、まさか生きているうちに植物属性魔法が使えるエルフに出会えるなんて……まだ信じられないわ」
「そんなに珍しいの?」
「エルフは年々人口が減ってるからね……植物属性魔法を扱えるエルフは殆どいないって言われてるんだ」
「(それに加えてマナエルフなんて事がバレたら大変ね)へぇ……とりあえず城に戻りましょうか」
気付けば空は薄暗く、星がぽつぽつと輝きを放ち始めていた。
デイジーがもうそんなに時間が経ったのかと焦りながら2人を出口まで案内すると、カクタスは深く頭を下げた。
「デイジーさんありがとうございました」
「やだ気にしないで!最初はこの槍目当てだったけど、今はアナタの為に槍を作りたいって気持ちに変わったから」
「え?」
「アタシ武器を大切に思える人が好きなのよ♡それにアタシのご先祖も勇者様に武器を作った事があったって言うし、運命ね♡」
「そうなんですか?」
「ええ、確か……ってあらやだアタシったら!この話はまた今度♡早速取り掛かるわ、楽しみにしてて!」
店の看板をクローズにしてデイジーは満面の笑みで2人を見送った。
「これでカクタスはもっと強くなれるわね」
オリビアが道を照らす街灯の光を見つめながらぽつりと呟くと、カクタスは小さく頷いた。
街灯に照らされたその表情は少し寂しそうに見えた。
オリビアはカクタスの背中をぽんぽんと叩くと、新しい槍の完成を楽しみに城へ戻った。
――――
「勇者達よ、感謝する」
それから2日が経ち、勇者と仲間達はセコイアの王城に集められた。
カトレアは感謝の言葉を述べると玉座から立ち上がり彼らの前まで来て、それぞれの活躍が書かれた資料を読み上げた。
「青髪の勇者はバーチ王国にて潜伏していた魔族達を退け、更に近辺の魔族が占拠した村の奪還と捕虜救出に成功。素晴らしい」
「中々楽しめたぜ」
青髪の勇者が満足げに笑みを浮かべると、周りの仲間たちはそれに同調するように顔を見合わせて笑った。
「黒髪の勇者はアールダ王国にて大量の魔物の卵を持ち込み王国を攻め落とす計画していた魔族を退け、アールダ王国の姫を命懸けで守った、と……」
「四葉は我がアールダの英雄です!」
「何故ここに姫が……」
「アールダの代表として……婚約者としてお支えする為に参りました!」
「あはは……」
困ったように笑いながら頬を掻く黒髪の勇者の横には、アールダの姫がいた。
頬を赤く染めながら黒髪の勇者を見つめる姫に、青髪の勇者はギリギリと歯を鳴らしながら嫉妬の目を向けていた。
「な、何故だ……またあいつ女の子を……しかもお姫様……!」
「アニキ落ち着いて……心の声漏れてます……」
カトレアはその様子に頭の痛みを感じながら額を押さえると、頭を軽く振って切り替えた。
「アールダ王国の国王が納得しているのなら何も言うまい……そして赤髪の勇者」
「魔物を何匹かやれました……てか?」
カトレアがカクタスの方へ視線を向けると、カクタスの元仲間である男がにやにやとしながら冷やかしの声をかける。
オリビアは一発お見舞いしてやろうかと拳を握るが、カクタスはそれを気にする様子はなく、初めて見た時とは違い胸を張ってカトレアを見上げていた。
カトレアが資料をウメへ手渡し、カクタスを見ると静かに笑みを浮かべ、言葉を続けた。
「赤髪の勇者は魔王側の策略により国内対立を起こしたパルマエの関係を修復し、陸地ではなく海の中という不利な状況でありながら、強化された魔族達と戦いそれを制した」
「……は……?」
「更に赤髪の勇者の活躍により、魔族の捕獲に成功――多くの情報を得る事ができた。国の、そして世界の未来に繋がる働きだった。赤髪の勇者よ、よくやってくれた」
周りの視線が一気にカクタスに集中する。
青髪の勇者がお前すげーじゃねぇかとカクタスの肩を叩くとカクタスはありがとうございますと言って苦笑を浮かべた。
「……チッ、どうせあのエルフのお陰だろうが」
口を歪めて吐き捨てた男の言葉は、カクタスを讃える声にかき消された。
オリビアはカクタスに声をかける2人の勇者を複雑に思いながらも、嬉しそうにするカクタスの姿に少しだけ頬を緩ませた。
「どの勇者も素晴らしい戦果であった。戦時中故盛大にとはいかぬが……勇者達、並びに兵の労をねぎらう場を設けよう。城の広間にて夕餉を共にするがよい」
「なに⁉︎もちろん酒はあるんだろうな?」
「果実酒からワイン蒸留酒、もちろんエールも用意しておる」
「よっしゃー!王様が用意してくれたんだ、最高級品に違いねぇ!」
「あんたの舌はアルコールさえ入っていれば最高級品でも安酒でも関係ないでしょう」
「そんな事ねぇよ‼︎」
「ははっ、ジェンシャンも言うようになったなー」
青髪の勇者が酒にはしゃぐ姿に、周りの仲間たちはやれやれと呆れつつも喜びの様子を見せ、
「楽しそうだね」
「そうですね……ハッ!大変です!私ドレスを用意してません……!」
「なに……!ドレスが必要なのか……⁉︎」
「大変ですわ……!」
「マジ⁉︎」
「いやいやーパーティーじゃないんだからいらないってー」
黒髪の勇者がその様子につられて笑みを浮かべる後ろで、女性陣がドレスコードで盛り上がっていた。
カクタスとオリビアは笑い声の響く広間で、顔を見合わせ笑みを浮かべると、拳を軽くこつんと合わせた。
――――
「勇者達よ、大儀であった。楽しんでくれ」
夕刻、
広間には多くの料理と飲み物が用意された。
カトレアは少し離れた所でロータスと一緒にワインを飲み、セコイアの兵や他の勇者達もそれぞれ仲間と話し料理と酒を楽しんでいた。
「オリビアエール飲めるんだ?」
「カクタスは飲めないの?」
「エールは苦くて……果実酒は好きなんだけど」
二人でお酒を飲みつつ用意された料理を食べていると、カクタスはオリビアを見ながらそわそわとし始めた。
「カクタス……トイレ?」
「ち、違うよ‼︎」
「じゃあどうしたのよ、そんなにそわそわして」
オリビアは不思議そうにしながら問いかけると、彼は少し間を置いてから照れ臭そうに話を始めた。
「……えっと……オリビアが仲間になってくれてホントによかったと思って……お礼が言いたくて……」
「改まって何よ……」
「オリビアが槍の才能を見つけてくれなかったら、俺はパルマエで死んでたかもしれない。……ホントに、ありがとう。オリビアに出会えてよかった」
「そんな……っ……ほら、一番の功労者なんだからいっぱい食べなさい!」
「むぐっ⁉︎」
オリビアは料理を無理矢理カクタスの口に押し込むと、照れて赤くなった顔を見られないようにそっぽを向いた。
口いっぱいに料理を詰め込まれたカクタスは、瞳に涙を浮かばせながら一生懸命咀嚼していた。
「(まったく……ストレートにそんな事言われたら照れるじゃない……顔が熱いし喉がカラカラ……どうしてくれるのよ……)」
「よう赤髪!それとエルフのお嬢ちゃん!」
「ゲッ……」
「ゲッてなんだゲッて‼︎」
オリビアがエールを飲んで熱を冷ましていると鼻の下にエールの泡を付けた青髪の勇者がやって来た。
彼はカクタスの隣に座り馴れ馴れしく肩を組むと、オリビアはあからさまに不満を顔に出した。
しかし、青髪の勇者は気付いていないのかわざとなのか、構わずカクタスの肩をバシバシと叩いて豪快に笑った。
「同じ勇者として心配してたんだがよ……やっぱお前はやればできるやつだったんだなぁ!」
「ちょっと!カクタスに気安く触らないでよ!」
困ったように笑うカクタスを庇うようにオリビアが青髪の勇者の手を叩くと、青髪の勇者はわざとらしく手をひらひらさせて叩かれた所にふーふーと息を吹きかけた。
「猫みたいに威嚇すんなって!こんだけ気の強いのが仲間だと大変だろ……いつでも俺様に譲ってくれていいんだぜ?」
「誰が……」
「ダメです」
青髪の勇者の言葉に、カクタスの目から笑みが消えるとその場にいた全員の肌がピリッと痛んだ。
「譲れません」
「……ははっ、冗談だよ」
周りも空気が変わったのに気付いたのか各々が身構えているのが分かる。
しかし青髪の勇者の冗談だと言う言葉を聞きカクタスに笑みが戻ると、金縛りが解けたように力が抜けた。
「びっくりさせないでください」
「わりぃわりぃ!いやーしかし成長したなー!一度手合わせしてみてぇんだがどうだ?」
「いや……まだまだ未熟なので……」
「なら尚更だろ!一人で剣振るだけじゃ強くはなれねぇ、色んな奴の闘い方を見れば更に成長できる。黒髪、お前もそう思うだろ?」
「いや……パキラさんの場合ただ戦いたいだけなんじゃ……」
「まあそうなんだけどよ」
黒髪の勇者までやってくると、オリビアはムッと不満を顔を浮かべながら静かに料理を口に運んだ。
「でもカクタスさんホントに変わりましたよね」
「そうかな?」
「おう、顔付きがやっとそれらしくなってきた。俺様達と同じ勇者の顔付き、ってやつな!」
「勇者の……」
「あん?俺様の顔になんかついてるか?」
「パキラさんは勇者の顔付きではないですよね、分かります」
「えっ!いや、そんなつもりは……」
「悪かったな悪人顔で!」
カクタスの頭をぐしゃぐしゃと掻き回す青髪勇者とやれやれといった様子で首を振る黒髪勇者。
今回の件で二人はそれなりにカクタスを認めたようで、カクタスは嬉しそうに笑みを浮かべていた。
「そこのエルフがやった事を全部自分の手柄にしたんじゃねーの」
そんな空気の中、カクタスの元仲間の男は懲りずにカクタスに嫌味を投げかけた。
「なにあいつー、妬んでんのー?」
「そんなんじゃねぇ!」
「おい、飲み過ぎだ。水貰え」
黒髪の勇者の仲間が男の発言を鼻で笑うと、男は声を荒げてカクタスを睨み付けた。
「アニキもこいつの実力知ってるだろ!俺がまだそいつとパーティーを組んでた頃、魔物の群れに襲われた時!そいつは勇者にも関わらず一匹も倒せず足を引っ張るばかりで、俺達は全滅しかけた!アニキのお陰で助かったが……そいつはそんなお粗末な勇者だ!そんな奴がいきなり成果をあげられるわけがねぇ!」
「まぁ……あの時は確かに……」
「小さい時からそいつを見てきたんだ、だからこそ今回の話は信用ならねぇ!」
「小さい時から見てきたって言うならカクタスが人の手柄を横取りするような奴じゃないって分かりそうなものだけど」
オリビアはその男を睨み付けると、男は鼻をフンッと鳴らして外を指差しカクタスに向かって声を荒げた。
「おい!外に出て俺と手合わせしろ!」
「いい加減にしろ!」
青髪の勇者の叱咤の声が広間に響くと、様子を見ていたカトレアが大きな溜息を吐き、男に声をかけた。
「……いいだろう、そこの広場を貸してやる。だが、武器はこちらで用意する。ウメ、修練用の武器を広場に運ぶよう指示しろ」
「かしこまりました」
オリビアはこの展開に思わず心が躍った。
それを顔に出さないように顔を覆うと口元を緩ませる。
「(やっとこいつをギャフンと言わせる事ができるのね……!)」
隠れてぐっと拳を握りガッツポーズした後、頑張ってと声をかけると、カクタスは眉を寄せ暗い表情を浮かべていた。
オリビアが心配そうに顔を覗き込むと、カクタスは慌てて表情を取り繕い、元仲間の男の方へ向かった。
「行くぞ」
「楽しそうじゃん!テラスで見学しよーよ!ほら四葉早くー!」
「大丈夫かな……」
「しゃーねーな……俺様はあいつらに付いて行って審判でもしてやるかね。悪いが嬢ちゃんは皆と一緒にテラスで見学しててくれ。小細工はなしだぜ?」
「しないわよ、必要ないもの」
――カクタスは負けない。
オリビアが腕を組んで胸を張って見せると、青髪の勇者は楽しみだと笑って窓から外に出た。
オリビアは黒髪の勇者たちと一緒にテラスへ出ると、広場にいる二人を見た。
さっきまで笑顔だったカクタスの表情は暗く、気まずそうに視線を地面に落としていた。
「実はエルフのおかげで、自分は何もやってないんですって正直に言えば、これ以上恥かかないで済むぜ?」
「……今回は本当に……俺も……!」
「そんなわけがねぇんだよ。お前は、他の勇者より、そして俺よりも弱い」
「おーい、手合わせするんだろ?さっさと準備しろ」
カクタスは眉間に深く皺を寄せる。
もう男の耳に、自身の言葉は届かない。
納得させるには――
「ほら」
「!」
「構えろ」
オリビアはカクタスと男が何かを話している様子を見て眉を寄せた。
遠くて声は聞こえない――だが、暗い表情のカクタスと怒りを全面に出した男の顔を見るに、また嫌味を言われているのだと察した。
しかし、男の顔が一気に青ざめるのを想像すると思わず笑みが溢れた。
優しいカクタスが手加減しませんようにと祈るように手を組むと、男は用意された修練用の木剣を2本取り、1本をカクタスに投げ渡すのが見えた。
木剣……?
「ちょっと……!」
オリビアが慌てて止めようと身を乗り出すと、青髪の勇者の仲間が彼女を止めた。
「エルフ嬢、アニキが先程言ったようにここで待機してもらわないと困る」
「違っ……そうじゃなくて!」
「始め‼︎」
青髪の勇者の声が響き手合わせが始まった。
少し改稿しました。




