第8話:公爵令息の最後の警告
エレノアと俺は廊下を急いで進み、使用人の声の緊迫感がまだ耳に残っていた。
リリーは俺たちの後ろについてきて、明らかに緊張しているようだった。
屋敷の正面の門に到着すると、彼がいた——オーギュスト・ド・ブリソノ。
公爵の息子だ。
彼の表情は読み取れなかったが、彼の立ち方には静かな傲慢さがあった。
彼は腕を組んで、完璧なコートの上に手を置いていた。彼の後ろには、暗い制服を着た数人の騎士が整列して待っていた——護衛のように、あるいは力の誇示のように。
エレノアを見つけると、彼の唇は自信に満ちた笑みを浮かべた。
「エレノア」
と彼は滑らかに挨拶した。
「今日は元気かい?」
エレノアの表情は冷たいままだった。
「あなたの訪問は予期していませんよ、オーギュスト様」
「お許しを」
とオーギュストは胸に手を当て、偽りの誠意を見せた。
「だが、僕は直接来なければならなかった。何と言っても……」
彼の視線が俺に向けられた。
「今日は最後の忠告だからだ」
背筋が凍るのを感じた。
エレノアはすぐに俺の前に立ち、鋭い口調で言った。
「何のつもりです?」
オーギュストの笑みが深まった。
「君がいつも......そこの蛮族と一緒のようだが、どうして?」
エレノアはまばたきもしなかった。
「それはあなたの関係するところではと思うのですけれど...」
「いや、そうではない」
とオーギュストは滑らかに言った。
「ほら、未知の男が突然貴族社会に現れると、疑問が生じるものだ。特にその男が——」
彼の視線が俺に向けられた。
「——僕たちとは違う存在で、真っ黒い肌している外国の蛮族だからな」
俺は拳を固く握った。それが彼の狙いだ。
俺のこの世界における唯一の居場所であるこの屋敷から追い出すことだ!
オーギュストはただの好奇心でここに来たのではない。
彼は俺の存在をここから消し去るために来たのだ。
.............
エレノアは毅然と立ちはだかった。
「クロードは私の家族の保護下にあります。如何なる部外者であろうとも、そこだけは譲れません」
オーギュストは首を傾げた。
「そして、君のご両親もその気持ちを共有しているのかい?」
これにはエレノアが身を固くした。
彼女の指がドレスの裾をしっかりと握るのが見えた。
それは些細なサインだったが、オーギュストはすぐにそれを見逃さなかった。
「ああ」
と彼は考え込むように言った。
「つまり、君は彼らにすべてを話していないのだな」
エレノアは返事をしなかったが、それは彼をさらに面白がらせるだけだった。
オーギュストは俺に向き直った。
「教えてくれ、クロード——お前はどこから来たのだ?」
俺はゆっくりと息を吐いた。
「...ナイジェリアだ」
彼は眉を上げた。
「ナイ...ジェリ...ア?」
彼はその名前を慎重に発音し、まるで舌の上で何か異国の味を確かめるかのようだった。
「...そんな場所は聞いたことがないな」
肩をすくめた俺。
「そうかよ」
オーギュストはくっくっくっと笑った。
「公爵令息の僕に向かってそんな返事をするとは、なんて大胆なんだね、お前と言う蛮族は...」
彼はゆっくりと一歩前に出た。
「正直に言おう」
と彼は続けた。
「お前は本当に謎だ——未知の出自を持つ未知の蛮族だ。それなのに、エレノア令嬢はお前のことを家に迎え入れた」
そう言いながら、彼の目がいきなり輝いた。
「それは……奇妙だと思わないかな?」
俺は彼の詮索にたじろがなかった。
この男に脅されるつもりはなかった。
しかし、俺がまたも返事をする前に、オーギュストの声が冷たくなった。
「ここから去ることを勧めるぞ」
中庭に沈黙が広がった。
エレノアは頭を上げた。
「何ですって?」
オーギュストは自分を見つめたままだった。
「お前がエレノアの好意を得るためにどんな手を使ったのかは知らないが、お前のよう外国蛮族がここにいる理由はない」
俺は彼の視線を真っ直ぐに受け止めた。
「もし断ったら?」
彼の笑みが戻ったが、その下には何か危険なものが潜んでいた。
「ならば、お前が望まれない世界で生きていくのがどれほど難しいかを直接学ぶことになるだろう」
俺はエレノアがためらうことを期待していた——彼女が慎重に選択肢を検討することを。
しかし、彼女はそうしなかった。
彼女はすぐに俺の前に立ち、目が燃えるように輝いた。
「オーギュスト、私の家に誰がいるかを決める権利はあなたにはない」
とうとうお嬢さん自身も、公爵である貴族階級の上にあるはずのそこの令息に向かって、敬語をしなくなったようだ!
初めて、オーギュストの自信が揺らいだ。
「エレノア——」
「私はここに立って、あなたがクロードをまるで自分より下に見るように侮辱するのを聞くつもりはない」
と彼女は鋭く言った。
「彼は私の客人だし、何としても私は絶対に彼を守る。これ以上脅しをかける前に、そのことを覚えておくべきだわ」
オーギュストの顎が固くなった。
「そうか」
彼はコートを整え、自分を落ち着かせた。
「もしそれが君の決断なら……それでは、その結果に備えることを勧める」
エレノアは目を細めた。
「それで、具体的にはどういう意味ですか?」
オーギュストはゆっくりと、知っているような笑みを浮かべた。
「君の父上はこれを知ることになるだろう」
そう言うと、彼は踵を返し、騎士たちが彼の後ろに続いた。
エレノアお嬢さんは彼が去っていくのを見つめながら凍りつき、拳が震えていた。
そして、彼が見えなくなると、彼女は俺に向き直った。
彼女の表情は読み取れなかった——しかし、彼女の目は心配でいっぱいだった。
「クロード……」
彼女は囁いた。
「私たちはどうすればいいの?」
俺はその問いに対する答えを持っていなかった。
しかし、一つだけ確かなことがあった——これでまだ終わっていないということを。