異世界から来た秘密の騎士と伯爵令嬢

第５話: 危険なライバル

オーギュストが立ち去った後も、庭園の緊張感はまだ残っていた。

俺はエレノアを見つめた。彼女の繊細な手は、傲慢な貴族に放った平手打ちの力で震えていた。

エレノアお嬢さんがそんなに怒っているのを見たのは初めてだった。

リリーも動揺しているようだった。

「エレノア様……あなたはブリソノー公爵の息子を平手打ちしたんですよ？」

エレノアはふんっと息を吐き、手を振った。

「だからどうしたの？」

リリーはため息をついた。

「それはつまり、お嬢様は王国で最も有力な貴族の一つを侮辱したということです」

俺は眉をひそめて、さっきのお嬢さんの言った言葉と同じ反応を、

「それがどうだって言うんだ？自業自得だろう？」

エレノアは俺に向き直り、まだ怒りのこもった目で言った。

「その通りよ。私は誰にもあなたのことをそんな風に言わせない」

彼女の言葉に俺は若干驚いた。

彼女が親切なのはわかっていたが、そんなに公然と俺を守るとは——しかも、有力者を怒らせるリスクを冒してまで？

俺はそんなことに慣れていなかった。

エレノアお嬢さんのような人からは特に。

「……ありがとう」

と俺は思わず小さな声で言った。

彼女は微笑み、先ほどの怒りが柔らかな表情に変わった。

「クロード、あなたは私の保護下にあるの。つまり、誰も——公爵の息子でさえも——あなたをそんな風に扱うことは許されないわ」

しかし、リリーはまだ心配そうだった。

「エレノア様、そんなことをしても、オーギュストがこれで終わりにするつもりはないとわかっているでしょう。彼はいつもあなたと結婚したがっていましたから。それを今、お嬢様は彼を辱めたんですよ？彼はきっと復讐を望むことでしょう」

俺はエレノアの方に振り向いた。

「待って——あいつは君と結婚したいのか？」

エレノアは顔をしかめた。

「残念ながら、そうなの。私たちの家族は何年もその縁組を進めようとしてきたわ」

俺は身を固くした。

「そして……君はそれを望んでいるのか？」

エレノアは腕を組んだ。

「絶対に嫌よ。オーギュストはただの甘やかされた自己中心的な男で、世界は自分のものだと思っているのよ？彼の求婚を受け入れるくらいなら、心優しき平民と結婚した方がいいわ」

彼女の答えに、俺は奇妙な安堵感を覚えた。

リリーは眉をひそめた。

「それでも、クロード、あなたは気をつけるべきよ。オーギュストはただの貴族じゃない——彼は危険なんです。自分を怒らせた者を破滅させることで知られているから」

俺は息を吐いた。

「...了解だ」

それでも、俺は金持ちのガキに脅されるようなタイプではなかった。

もしオーギュストが喧嘩を売るなら、彼はそれを買うことになるだろう。

................

翌日、俺は新しい任務を割り当てられた。

「さて、クロード、今日はティーパーティーで私を手伝ってね」

とエレノアは説明し、ドレスのリボンを整えた。

「若い貴族の令嬢たちとの気軽な集まりよ——軽い会話とお菓子、そしてもちろんお茶を楽しむの」

俺はうめいた。

「またお茶？」

彼女はくすくす笑った。

「あなたは上達してるわ。それに、きっと……面白くなると思うわよ」

その言葉に俺は不安を感じた。

リリーが私にトレイを手渡した。

「今回は何も落とさないようにね」

俺はしかめっ面をした。

「あれは一度だけだ」

エレノアはウィンクした。

「さあ、クロード。上流社会にあなたを紹介する時間よ」

ティーパーティーは邸宅の庭園にある豪華なパビリオンで行われた。

白いシルクの天蓋の下、テーブルは上品な陶器、繊細なペイストリー、湯気の立つティーポットで飾られていた。

三人の貴族の令嬢が待っていた。

「エレノア、ダーリン！」

そのうちの一人——流れるような銀髪の背の高い少女——が微笑んだ。

「相変わらず素敵ね」

エレノアは微笑んだ。

「ヴィヴィアン様、マルゴ様、セレスト様。お越しいただきありがとうございます～！」

そして、三人の視線が俺に向けられた。

そして、空気が……変わった。

「まあ」

とマルゴ令嬢はつぶやき、明らかに興味を引かれた。

「これが噂の『謎の客人』かしら？」

エレノアは微笑んだ。

「こちらはクロードです。私の新しい付き人よ」

セレスト令嬢は身を乗り出した。

「珍しいダークチョコの肌してなんてエキゾチックなの！どこで見つけたの？」

俺は歯を食いしばったが、口を閉ざした。

エレノアの口調は礼儀正しく、しかし毅然としていた。

「彼はとても遠い国から来たのよ。そして、今の彼は私の保護下にあるわ」

そのメッセージは明らかだった：失礼なことはするな、と。

しかし、ヴィヴィアン令嬢は本当に興味を持っているようだった。

「クロード、教えて……エレノア様の言った通りに、あなたの国の人々は手で辛い料理を食べるのよね？」

その質問に対して、ちょっとはっとなって、瞬きした。そういえばそんなこともこの間エレノアお嬢さんに教えたんだっけ？

「ええ……たまに、そうだね」

彼女はちょっとびっくりした顔して、自分の白い両手を口元に持って塞ぎながら息をのんだ。

「なんて魅力的なの！料理はできるの？」

俺はためらったが、うなずいた。

「ああ。実はエレノアさんに何か作ろうと思ってたんだ」

エレノアはにっこり笑った。

「彼はジョロフライスという料理を作ってくれると約束してくれたのよ」

マルゴ令嬢は手を叩いた。

「まあ～！じゃあ、いつかわたしたち全員にも作ってくれませんこと？」

俺はまたも瞬きした。

「えっと……そうするかも？」

エレノアは俺に向かって微笑んだ。

「ほら？あなたはもう良い印象を振りまいてるわよ、完璧にね？ふふふ...」

それが良いことなのかどうか、俺にはわからなかった。

でも、こうして俺よりも若い令嬢たちからきゃははうふふって認められながら時間を過ごすのも、なんか心地よくて、俺がここに住んでいてもいいように感じられる貴重な体験となったようだ（例え、半分は見世物にされた気分でありながらも......無視されるよりかは遥かにマシだろう）

...............

ティーパーティーの後、俺は邸宅の中に戻り、片付けをしていた。

しかし、角を曲がった瞬間、何かの存在を感じた。

「ここでのんびりしているようだな」

振り向くと、目の前にオーギュストが立っていた。

彼は壁にもたれ、腕を組み、笑みを浮かべていた。

まるで獲物を待つ捕食者のようだ。

俺は身を固くした。

「何が望みだ？」

彼の笑みが大きくなった。

「お前だ」

俺は眉をひそめた。

「何だって？」

オーギュストはくっくっくっと笑った。

「お前の居場所はここにはない、クロード。お前はただの見るに堪えない黒い蛮族であり、部外者だ。そして、エレノアのような美しくて、高貴な産まれの貴族令嬢に、お前のような黒い蛮族が近づきすぎるのは気に入らない」

俺の拳が固くなった。

「それは君が決めることじゃない！」

彼は一歩前に出て、声を低くした。

「お前を追い出すことはできるんだぞ。適切な耳に一言ささやけば、お前はこの屋敷から引きずり出され、路上に放り出されるんだ」

俺は自身を強く持って、たじろがないようにした。

「もしそうなったら...」と俺は言い始めた。

「俺は絶対に生き残る。いつもそうしてきた」

令息の灰色の目が細くなった。

そして、微笑んだ。

「どうだろう……もしエレノアに何か起こったら、お前はまだそんなに自信を持っていられるかな？」

俺の血が凍りついた。

「それは脅しか？」

オーギュストはくっくっくっと笑った。

「いやいや、親愛なるクロード。ただの観察だよ？これは僕の世界だ。そしてお前？お前はただの通りすがりの真っ黒いゴミにすぎない」

公爵令息は立ち去ろうとしたが、その前に呟いた。

「ここでの時間を楽しむがいい。それが続くうちにな」

それだけ言うと、令息は廊下の向こうに消えていった。

俺はそこに立ち、拳を固く握り、心臓が高鳴っていた。

一つだけ確信していた。

オーギュストは俺に対して、絶対に手を出すつもりのようだ。